6月12~20日の9日間にわたって、ブラジル・サンパウロでは23歳以下のジュニア世代における4年に一度の戦い「男子U23世界選手権」が開催される。昨年11月の男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップ(AOC)で準優勝に輝いた男子U23日本代表は、アジアオセアニアゾーン2位で出場権を獲得。前回大会の金メダルに続き、2大会連続での表彰台を目指す。この連載では、次代を担う代表メンバーに選ばれた12人をクローズアップ。第1回は、同じクラス1.5の現役高校生プレーヤー、久我太一と中村凌を紹介する。
2025年は、久我太一にとって、まさに飛躍の1年となるに違いない。昨年度から所属する埼玉ライオンズでは、加入1年目にして今年1月31日~2月2日に行われた天皇杯で全国デビュー。決勝のコートにも上がった久我は、「三菱電機Changes for the Better賞」という個人賞にも輝いた。
そして昨年12月のトライアウトを受けて、男子次世代強化指定選手に選出されると、今回のU23世界選手権の代表メンバーに抜擢。強化合宿の練習試合では、スターティング5に起用されるなど、今やチームの要の一人となりつつある。
最大の強みは、スピード。天皇杯やU23日本代表の強化合宿でも、「これだけは通用したと思う」と、久我も自信を持つ。同世代のトッププレーヤーたちが世界から集結するU23世界選手権では、このスピードを生かしたプレーでサイズの大きい海外勢と真っ向勝負を挑むつもりだ。
久我が車いすバスケットボールと出会ったのは、小学4年生のときだ。不慮の事故で車いす生活になって間もない頃、偶然、自宅にほど近い体育館で大会が行われていることを知り、見学に訪れたのがクラス2.5以下の選手たちを対象とした「High8選手権」だった。自分と同じような障がいの選手たちのプレーに圧倒され、久我は言葉が出ないほどの衝撃を受けた。
なかでも最も印象に残っているのが、当時埼玉ライオンズに所属していた永田裕幸(現COOLS)。スピードがあって俊敏性もある永田のプレーを、久我は釘付けになって見ていた。障がいの度合いは自分とそれほど変わらないように見えた永田が、3ポイントシュートまで決めた時には驚きしかなかった。久我は車いすバスケに強く魅かれた。
ただ、当時小学生で体が小さかったこともあり、すぐにクラブチームには入らず、同世代が集まる練習会に参加。また車いすバスケ以外にも、車いすソフトボールやチェアスキーなどにも楽しさを感じていた。
そんななか、昨年高校生になるのを機に、パラリンピック出場という目標に向かって、久我は本格的に競技をやろうと考えた。さまざまなパラスポーツを経験してきたが、迷うことなく選択したのは、車いすバスケだった。初めて見た時の衝撃は忘れられず、どの競技よりも久我の記憶に色濃く残り続けていたのだ。
久我は今、スピードを生かしたディフェンスに大きな自信を持つ一方、課題としているのがオフェンスだ。なかでも最も強く意識しているのは「ボールをもってプレーすること」。スクリーンやシールなど、ほかの選手を生かす献身的なプレーだけでなく、久我自らがドリブルでボールを運んだり、キープできるようになると、それだけ相手のディフェンスが意識しなければならない対象が増え、オフェンス側が有利になる。ローポインターである久我がプレーの幅を広げた分だけ、チーム力は格段に上がるからだ。
また、2月には初めての海外でもあったオーストラリア遠征にも参加した。オーストラリア選手との練習試合では、日本国内では経験できないような高さを持つ海外勢相手に、ふだんのプレーでは通用しないことがたくさんあったという。それでも、スピードには手応えを感じ、U23世界選手権への大きな自信にもなった。今後は課題としている判断するスピードが上がれば、素早い切り替えなどさらにプレーのスピードアップにつながると考えている。
副キャプテンも務める若きスピードスターは、世界の同世代相手にどんなプレーで立ち向かっていくのか。チャレンジ精神を忘れることなく、さらなる飛躍につながる大会にする。
昨年のU23AOCでは5日間で7試合という過密スケジュールのなか、谷口拓磨(2.0)とともに3試合を40分間フル出場するなどして、ローポインターが少ないという苦しいチーム事情を抱えた日本の救世主となったのが、中村凌だ。本人も「海外のサイズの大きい選手にミスマッチを狙われて、どんどんインサイドに入られてしまうことも覚悟していた。でも、意外としっかりと止められたので自信になりましたし、大きく成長できたんじゃないかなと思っています」と手応えを口にする。
しかし、ローポインターがクラス1.5の中村と、2.0の谷口の2人しかいなかった昨年のU23AOCとは違い、今回は新しい選手たちが加入。中村と同じクラス1.5には、1学年下の高校2年生・久我太一と、4歳年上の足達飛馬が代表12名に名を連ねた。
なかでもスピードを武器とする久我と比較して「自分は遅い」と中村は分析する。スピードがあってプレスディフェンスの際にはキーマンの一人となっている久我は、はたから見れば、いわばライバルにも映る。だが、中村に焦りはない。「自分は自分」であり、久我の存在はかえって大きな刺激となって自分を成長させてくれていると感じているからだ。
そんな中村が磨いてきたのが、アジリティなど細かい動きだ。所属する富山県WBCには、東京2020パラリンピック銀メダルメンバーでもある岩井孝義(1.0)という日本を代表するローポインターが在籍。その岩井から指導を受けることもあると言い、そうしたふだんの練習のなかで培ってきたチェアスキルでは負けるつもりはない。久我がプレスディフェンスならば、中村はハーフコートディフェンスに欠かせない存在。さらにスピードにのったときの速さではかなわないものの、初速のスピードには中村は自信を持っている。
シュート力を武器とする足達ともまったく異なるプレースタイルであり、「自分も強みをもっと伸ばしていこうと思っていますし、3人が3人、それぞれの特徴を生かしてチームにいい影響を与えられたらと思っています」と中村。今大会も、自分らしいパフォーマンスでチームの勝利に貢献するつもりだ。さらにチームの中での意識や役割も、昨年のU23AOCとは大きく変わった。前回は中村と有吉奏太(2.5)がチーム最年少だったが、今回は自分たちよりも年齢が下の選手が3人もいる。そのため、中村自身の気持ちも変化している。
「最年少だった昨年は自分のことだけで精一杯で、ほかのことはあまり考えられませんでした。だからほとんど指示待ちでしたし、教えてもらうことばかりでした。でも、今回は僕より年下の選手が入ってきたということもあって、自覚や責任をもたないといけないと思っています。それこそ次のU23では、最年長メンバーの中に入るので、今からチームの中での役割を広げていきたいと思っています」
そんな中村が意識していることの一つが、コミュニケーション。前回のチームでは自分から意見を言ったり、積極的に話しかけることはほとんどなかった中村だが、今は年齢的にほぼ中間にいるということもあり、年上の選手とよく話をするようになり、年下の選手には教えてあげられることも増えてきた。本番でもチームのためにできることをしたいと考えている。そして帰国便の中で迎える6月22日、チームメイトとともにメダリストとして18歳の誕生日を迎えるつもりだ。
写真・文/斎藤寿子