6月12日、車いすバスケットボール男子U23世界選手権の幕が上がる。同大会はジュニア世代における4年に一度の“世界一決定戦”で、選手たちにとってはパラリンピックへの登竜門でもある。今大会には、アメリカ、ヨーロッパ、アジアオセアニア、アフリカの各大陸ゾーンで行われた予選を勝ち抜いた12チームが出場。6チームずつ2グループに分かれて予選リーグが行われ、各グループの上位4チームが決勝トーナメントに進出する。「メダルラウンド進出」を目標とする男子U23日本代表は、予選リーグでどんな戦いを見せるのか。そのポイントを探る。
昨年11月のアジアオセアニアチャンピオンシップで準優勝したU23日本代表は、アジアオセアニア2位で本戦出場を決めた。その日本が入ったグループBは、アメリカ、イギリス、イタリア、タイ、南アフリカという顔ぶれとなった。なかでも大陸予選を全勝でトップ通過したアメリカとイギリスは、メダル争いの一角に入ることが予想される。
特にイギリスの強さは、今大会の出場チームの中で群を抜いている。クラス3.0や3.5といったミドルポインターを多く有し、ほとんどがハイポインター並みの高さとフィジカルの強さを持つ。そのミドルポインターが3人もしくは4人をそろえたラインナップがイギリスの特徴だ。
チームの柱となっているのが、ポイントガードのチャーリー・マッキンタイア(3.0)。彼がボールを運び、オフェンスの起点となっている。得点力もあり、隙あらば3ポイントシュートも狙ってくる。イギリスのA代表でいえば、パリパラリンピックで大黒柱として活躍したフィル・プラットのような存在だろう。そして最大の得点源は、ジャック・ロング(3.5)とオスカー・ナイト(3.5)だ。いずれも高さがあり、インサイドにはめっぽう強い。さらにナイトはドライブで切り込むスピードも兼ね備えている。
この3人がそろった1.0、3.0、3.0、3.5、3.5のラインナップが最も強く、イギリスチームの柱となっている。ハイポインターはクラス4.0のジョージ・グレイただ1人だが、ミドルポインター陣もサイズは十分にある。さらにプレスディフェンスをしくなど、スピードやアジリティも大きな武器となっている。そのイギリスと日本はいきなり初戦で対戦する。「最高の組み合わせだと思っている」という中井健豪ヘッドコーチ(HC)は、その理由をこう語った。
「おそらくイギリスは優勝候補の筆頭だと思います。そのイギリスに対して僕たち日本は何も失うものがないですし、初戦ですからあれこれ余計なことを考える必要はありません。とにかくここまで準備してきたものを思い切ってぶつけることに集中するだけだと思っています」
日本はオフェンスもディフェンスも、いくつもの戦略・戦術を用意している。そのため中井HCは、世界レベルの相手に何が通用し、どこを修正する必要があるのかを、いかに早く見極め、選手たちに適切な指示ができるか、コーチ陣の手腕が問われると考えている。だからこそ最強国と考えられるイギリスとの初戦は、その後に控える大一番への判断材料となり得る。特に昨年のU23ヨーロッパチャンピオンシップではフィールドゴール(FG)成功率47.8%を誇ったイギリスのオフェンスに対して、日本のどのラインナップ、ディフェンスが機能するかが見どころとなる。
ただメンバー12人中4人が初の国際大会、さらに渡辺将斗(4.0)以外は初めてのU23世界選手権というなか、初戦は緊張から思うようにプレーできないというケースも十分に考えられる。東京2020パラリンピックの銀メダルメンバー3人を擁した前回大会も、初戦は動きがかたかった。だからこそ、中井HCはどういうトーンで初戦を迎えるかが重要だと考えている。そういう意味では、試合前のアップ時の雰囲気にも注目したい。
そして、予選リーグ第3戦で迎えるのが最大のヤマ場、アメリカ戦だ。予選リーグ2位以上という目標を達成できるかどうかは、この一戦にかかっていると踏んでいる。そのため、強化合宿ではアメリカ戦にフォーカスして、戦略を図ってきた。
アメリカは、ポイントをある程度絞ることができるチームだ。カギを握るのは、ボールハンドラーのAJフィッツパトリック(3.0)と、高さがあるティモシー・ヒューストン(4.0)、ジュード・ハイリー(4.0)だ。彼らが入ったラインナップが主力となる。なかでも日本がキーマンとして警戒しているのが、フィッツパトリック。彼に強いプレッシャーをかけ、いかに攻撃に参加させないかに重点を置いたトランジションディフェンスを磨いてきた。
一方、アメリカのディフェンスは基本的にはハーフコートに戻りペイントを守るディフェンスだが、今年のU23アメリカ大陸予選の決勝では、それまでよりもディフェンスのラインを高くしている。3ポイントラインから高い位置で、男子日本代表が武器としてきたフラットのような守り方をし、インサイドやベースラインへの侵入を徹底的に防ぐ変則的なディフェンスが見受けられたのだ。そのうえで海外勢特有の腕の長さがあり、常にプレッシャーをかけてスティールを狙ってくる。そのため、日本はドリブルで抜くのではなく、素早いパスでいかにプレッシャーリリースしながらボールを運ぶことができるかがカギを握る。
また、予選リーグ最終戦のイタリア戦にも注目したい。昨年のU23ヨーロッパ予選でイタリアは4位という結果だったが、イギリスと競り合った唯一のチームでもある。40分間では決着がつかず、オーバータイムの末に63-67で敗れたものの、イギリスを苦しめたことは間違いない。しかも5人全員が45分間フル出場しながら、3人のシューターがFG成功率60%を超え、うち1人は72.7%という驚異の数字を残している。そのイタリアとは勝敗数が並んだ状況で予選最終戦を迎えることも十分に考えられるだけに、目が離せない一戦となりそうだ。
車いすバスケ界の将来を担う若きプレーヤーたちが世界から一堂に集結し、同世代のナンバーワンを目指すU23世界選手権。地球の真裏で行われる今大会は、どんな結末を迎えるのか。未来へつながる戦いの幕開けは、もうすぐだ。
写真・文/斎藤寿子