6月7日から8日にかけて、「2025ジャパンパラ陸上競技大会」が仙台市の宮城野原公園総合運動場弘進ゴムアスリートパーク仙台で開催された。入梅前ながら蒸し暑い気象条件の中、300名を越えるパラアスリートがそれぞれの目標に挑み、好記録も多数誕生した。
大会は9月26日からインド・ニューデリーで開催されるパラ陸上の世界選手権(~10月5日)の日本代表選考大会の一つでもあり、大会後の選考委員会を経て、7月15日には日本代表選手32名(身体24名、知的8名)が発表された。ここでは日本代表に選出された主な選手の結果をリポートする。
走り幅跳び男子T13(視覚障害)に出場した福永凌太(日本体育大学)は最終試技で7m08を跳び、自らがもっていたアジア記録を2年ぶりに5㎝更新するとともに、世界選手権の派遣標準記録もクリアした。「跳ぶのは、(昨年の)パリパラリンピック以来で、助走練習も数日前に1回やっただけ」と明かし、地力の高さを示した。「全体的によかったが、とくに踏切がよかった。助走も今までスプリント練習でやってきた技術がかなり落とし込めてきている」と好感触を得た。世界選手権には3種目(100m、400m、走り幅跳び)で選出された。出場種目は未定だが、「出るからにはメダルを目指すが、楽しみたい」と話した。
男子T52(車いす)の佐藤友祈(モリサワ)は初日だけで3種目(100m、400m、1500m)に出場するタフな日程の中、1500mで日本記録を、400mでも大会記録を塗り替えた。「楽しかったけど、疲れた」と振り返ったが、表情は晴れやかだった。パリパラリンピック後、トレーニングや食事も見直し、肉体改造にも取り組んできたという。今大会直前の5月下旬、スイスでの大会でも100mを含めて好記録を連発しており、世界選手権での活躍も大いに期待される。
女子T34(車いす)では吉田彩乃(WORLD-AC)が100m、800mの二冠に輝いた。同2種目で日本記録をもつ小野寺萌恵(北海道・東北パラ)に先着し、「一安心という気持ち」と笑顔を見せた。昨年のパリ大会で初のパラリンピックに出場して世界のトップ選手たちと競ったことで、「強くなりたい」という気持ちが一層強まった。そこでこの春、高校卒業を機に岡山市に移住し、実業団チームの現所属先に加入した。「いい指導者といい選手の方たちと一緒に練習できるようになり、少しずつだが着実に伸びてきている」と手応えを口にする。昨年の神戸大会につづいて自身2回目の世界選手権代表切符もつかみ、「大きな目標としてはやっぱり世界一だが、今は(小野寺のもつ)日本記録を更新して日本一になることが目標。1歩1歩やっていきたい」。同じく代表に選出された小野寺と切磋琢磨しながら、より高みを目指す。
1500m男子T20(知的障害)は見応えある競り合いとなり、上位3名がそのまま世界選手権代表切符もつかんだ。優勝は東京パラリンピック8位の岩田悠希(KPMG)で、終盤にトップに立って3分51秒25の大会新で逃げ切った。岩田は、「残り450mから前に出ようと決めていた」と狙い通りのレース運びを喜んだ。2位には十川裕次(オムロン太陽)が、3位には戸田夏幹(NDソフト)が入った。戸田は初の世界選手権となる。
世界選手権・初代表を射止め、思い新たに
今大会の活躍で、世界選手権の初代表入りを決めた選手たちもいる。女子やり投げF54(車いす)の小松沙季(電通デジタル)は今大会で派遣標準記録(15m04)を大きく突破する16m99cmの大投てきで、初の代表入りも射止め、「びっくりなのと、安心しました」。カヌーでパラリンピック出場経験のある小松は今春から陸上競技に転向し、4月末に大会初出場で14m66をマークし、強化指定選手になったばかりだった。
1カ月余りでの大幅な記録更新には、「スイングスピードが大事かなと感じたので、1kgのメディシンボールを買って速く投げる練習を取り入れた。その成果が出たかも」と話した。初の世界選手権ではまず、競技参加の第一条件である国際クラス分けを受け、陸上競技の国際大会の雰囲気や流れを学ぶ機会にしたいと控えめ。だが、伸びしろは底知れない。
堀玲那(WORLD-AC)は女子砲丸投げF20(知的障害)で世界選手権代表に初選出された。今大会では11m74の大会新に留まったが、4月末の大会で12m81のアジア新記録を樹立するなど好調だ。また、前日のやり投げでは自身のもつ日本記録を33㎝伸ばす42m17をマークした(6月末、45m96に更新)。メイン種目はパラリンピックや世界選手権で実施のある砲丸投げだが、やり投げにも「リリースポイントが一緒だと感じているし、しっかりと全身で投げるところが関連してると思う」と相乗効果を口にする。
今季好調の要因には4月に加入した現所属先を挙げた。「チームを背負っていることはすごく心の支えになっている。監督の松永(仁志)さんも尊敬できる方。見本にしながら少しずつ人間性も成長できたら、自然と競技面も成長すると思う。そこを目指したい」と力を込めた。
ルーキー枠でつかんだ世界切符
久野竜太朗(シンプレックス)は男子100mT13で初代表入りを果たした。この日は11秒22で2位だったが、自己ベストは10秒99をもち、世界選手権は派遣標準記録が少し低い「ルーキー枠(*)」で勝ち取った。国際大会デビューに向け、「決勝に残って、世界のトップとの差を感じつつ、超えなければ、という気持ちをもって走りたい」と闘志を燃やす。
(*: 22歳以下、または日本パラ陸上競技連盟登録が2022年度以降の選手対象)
幼い頃から患っていた進行性の目の難病が高校卒業後に一気に進み、視力が低下した。落ち込むなかで入学した盲学校で、見えないながらも前向きに生きる小中学生たちの姿に触れ、前向きさを取り戻した。自身もさまざまなブラインドスポーツを試すなかでパラ陸上と出合い、地元の健常者主体の陸上クラブで練習を始めた。2023年にアスリート雇用で就職すると練習量が増し、タイムも急速に伸びた。
幼い頃から足は速かったが、本格的なスポーツ経験はなかったという。だが、「陸上は結果が数字で出るところが楽しい。でも、走れば走るだけ伸びるわけでもなく、頭を使う。その試行錯誤も楽しい」と、新鮮な思いで取り組んでいる。
同じT13には福永やこの日、久野に先着(10秒96)した川上秀太(アスピカ)というパリパラリンピックメダリストがいる。久野は「二人とも同い年なので刺激になる。ロサンゼルス(パラリンピック)は出て、自分もメダリストの仲間に入りたい」と目標を掲げる。そのためには、「飛び級しようとせずに、基礎から丁寧にコツコツとやっていきたい」と前を見据えた。
東京デフリンピック代表内定選手たちもPR
今年はパラ陸上の世界選手権の他に、10月には知的障害選手対象のVirtus世界選手権がオーストラリアのブリスベンで、11月には聴覚障害選手対象のデフリンピックが東京で開催される。
ジャパンパラ大会ではT/F00(聴覚障害)クラスも実施されており、今大会にも東京デフリンピックの日本代表内定選手も多数出場していた。5月初旬に代表最終選考会があり、同中旬に発表された内定選手たちは力強いパフォーマンスで東京大会開催もPRした。
例えば、男子4x100mリレーでは日本選抜チームが42秒45で優勝した。日本は昨年のデフ陸上世界選手権で、41秒15(電光計時)の世界新記録で優勝しており、東京大会でも金メダルの期待が高い種目の一つだ。この41秒15の世界記録は電光計時によるものだが、デフ男子4x100mリレーの世界記録は1977年にアメリカ代表が手動計時でマークした41秒1も存在する。日本は東京大会で金メダルとともに、初の40秒台をマークし、「唯一の世界記録」樹立も目指している。
今レースでアンカーを務めた佐々木琢磨(仙台大学TC)は、「今日は、日本代表の内定発表後、初めてのリレーだったので、バトンをしっかり渡してゴールすることがテーマだった」と笑顔でレースを振り返った。佐々木は前回2022年のデフリンピックで100mを初制覇している日本のエースだ。
3走を務めた山田真樹(ぴあ)は、「(東京大会で)伝説のレースと言われるように、今回はその最初の1歩の試合として、いいスタートを切ることができた。細かい部分で修正は必要だが、残りの期間でしっかりとコミュニケーションをとり、納得のいくチームを作っていきたい」と前を見据えた。
1走の坂田翔悟(セレスポ)は、「今年初めて代表ユニフォームを着て(観客の前で)出場したことに価値があった」と話し、デフリンピック初代表となる2走の荒谷太智(東海大)は「今日は日本代表ユニフォームの誇りに恥じないようにパフォーマンスをすることが自分としては最低限の目標だった。いい経験ができた」と笑顔を見せた。
(注:7月31日、全日本ろうあ連盟が東京デフリンピック日本代表選手に史上最多となる273名を発表。陸上競技では52選手が同代表に決定した。
<今後の主な国際大会>
ニューデリー2025世界パラ陸上競技選手権: 9月27日~10月5日/インド
2025Virtus世界陸上競技選手権大会: 10月11日~14日/オーストラリア・ブリスベン
東京2025デフリンピック: 11月15日~26日 (陸上競技: 17日~25日)
写真・吉村もと/文・星野恭子