車いすバスケットボールの国際大会「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2018」が、6月8日から3日間にわたって開催された。男子日本代表の強化などを目的として昨年から始まり、2回目の今年は2020年東京パラリンピックの車いすバスケットボール会場のひとつとなる武蔵野の森総合スポーツプラザを会場に、大勢の観客が声援を送った。
日本代表(2016年リオパラリンピック9位)のほか、オーストラリア(同6位)、ドイツ(同8位)、カナダ(同11位)が参加。総当たりの予選を全勝で勝ち上がった日本が、決勝でオーストラリアを下し、初優勝を飾った。
オーストラリアは、昨年の同大会の優勝国で2014年世界選手権の覇者。ドイツは、今年8月に行なわれる世界選手権ホスト国として成長著しい。カナダでは、パラリンピックで3つの金メダルを獲得する黄金期を支えた“世界最高の選手”パトリック・アンダーソンが2020年に向けて現役復帰した。いずれも高さとサイズを武器にスリーポイントラインの中でバスケを展開する強豪だ。
そんな格上のチームに、日本代表はトランジションの速さとクイックネスを増した守備力で勝利した。専門のフィジカルトレーナーを招集し、トランジションバスケに欠かせない40分間走り切る身体づくりに取り組み、またメンタルトレーニングなど、トータルに強化してきた。これまでは、Wエースの香西宏昭(ドイツ・ランディル/NO EXCUSE)と藤本怜央(宮城MAX)の得点力に頼っていた部分があったが、今回は12人全員が出場し、それぞれの役割を果たしたことも大きい。
及川晋平ヘッドコーチ(以下、HC)は、「公式試合で彼ら(オーストラリア)に勝つなんて。信じられない気持ち」と率直な感想を口にする。「本当の実力は世界選手権で試される」としながらも、日本独自の戦略が結果につながったことに、手ごたえを感じていた。
今回はU23日本代表から5人がメンバーに選出され、存在感を放った。22歳の古澤拓也(パラ神奈川スポーツクラブ)は、華麗なスリーポイントシュートとドリブルスキルで勝利に貢献。また、19歳の鳥海連志(ちょうかい れんし/同)は、決勝でスタメンスタートを切ると、約29分半にわたってコートを駆け、仲間にボールをつないだ。彼らは昨年もA代表でプレーしているが、とくに連係プレーの面での成長が著しく、及川HCも「若手選手がすごく活躍した大会」と目を細める。
2017年、U23日本代表は世界選手権でベスト4の成績を収めている。そこで彼らを指導したのが、A代表の京谷和幸アシスタントコーチ(AC)で、じっくりとトランジションバスケを築き上げてきた。及川HCは、「U23から京谷ACがチームをつくり、足し算のように、地道に段階的に成長をつなげた成果が、今回のA代表で出た」と称える。
また、古澤も「京谷ACと及川HCの連携があってこその成果だと思う」と首脳陣に全幅の信頼を寄せる。
古澤は昨年、このU23世界選手権日本代表のキャプテンを務めた。日本が追求するバスケットボールを、まさに体現してきた選手だ。A代表に入って1年、強化合宿では「生きた心地がしないくらい、うまくならない方がおかしいというくらい」練習しており、香西や藤本といったベテラン勢と、古澤ら若手選手が積極的にコミュニケーションをとることで、チーム内の連係はより強固なものになった、と振り返る。
「アンダー世代が何でも意見が言えるような雰囲気を、先輩方が作ってくれている。僕たちは先輩たちからたくさん吸収することができるし、自分たちにとってとてもありがたい環境です」(古澤)
古澤は個人的にも、この1年で大きな成長を遂げたと自負する。視野は広がり、状況に合わせてパスやゲームコントロール、相手を崩す動きに徹することもできるようになった。
「いまはチームが勝つことしか考えていません。ショットの確率がよければ打つし、ポイントガードとしての役割も全うする。それが僕の仕事なので」
実戦での修正力の高さも見せた。予選2戦目のオーストラリア戦では、得意とするスリーポイントシュートが、リングに嫌われてしまった。ポイントも2得点のみ。だが、感覚は悪くなく、「本当に誤差の範囲」と確認すると、同日夜の決勝進出をかけたカナダ戦では、2本のスリーポイントシュートを含め、チーム最多となる12得点をマークした。
特に1点を追う第3クォーター終盤に決めた逆転のスリーポイントシュートは、試合の流れを大きく引き寄せる、まさに勝利に貢献する会心の1本だった。
古澤とジュニア時代から対戦し、U23世界選手権でも戦ったオーストラリアのトム・オーネイルソーンは「タクヤは速くていいシュートを打つ素晴らしい選手」と称え、「シニアに入った去年はレオ(藤本)やヒロ(香西)によくパスをしていたけれど、今は自分でボールをキープして試合を組み立てている。僕たちにとって気をつけなければいけない相手だ」と、警戒する。
古澤もまた、オーネイルソーンに刺激を受けている。すでに強豪オーストラリアの“エース”としてチームを牽引しているライバルに闘争心が沸き上がる。
「このカナダ戦の出来を自分の基準にしたい。毎試合、それを同じようにできる選手でないと自分がこの場にいる意味がない」
実は、決勝のオーストラリア戦では自分を戒めていた。「身体のキレがよすぎて」思った以上にボールが飛び、シュートの確率が落ちていたのだ。
「チームが勝ったことはうれしいけれど……やっぱり、すごく悔しいです。二度とあんなふにゃふにゃなプレーはしないし、同じミスは絶対に繰り返さない。また修正して、一からスタートして、世界選手権に向けて準備していきます」と覚悟をのぞかせた。
古澤の背番号は「7」。この番号には愛着があるという。初めてスポーツ(少年野球)をしたときにつけて以降、クラブチームでも、U23日本代表でも背負ったナンバーだ。
「7番と言えば僕、と言われるようになりたいんですよね」と笑って話すが、その認知度は世界選手権で確実にアップするに違いない。
そして、その世界選手権を足掛かりに、2020年に向けてさらなる飛躍を遂げることだろう。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu