女子車いすテニスのジュニア世界ランキング1位(※)は日本人だ。船水梓緒里(ふなみず・しおり/麗澤高/三菱商事)は、幼いころからスポーツ少女だった。まずは「投げたり、打ったりするのが好きで」野球に挑戦。テニスは小学4年の時に、自宅がある我孫子市の隣の柏市にある、吉田記念テニス研修センター(TTC)で体験したのをきっかけに、楽しむ程度でプレーをするようになった。進学した中学でも活発さは変わらず、野球経験を生かしてソフトボール部に所属。ソフトボールに熱中し、毎日いきいきと白球を追った。
そんな船水は中学1年のとき、家族旅行でハワイを訪れた際、初めて体験したサーフィンで脊髄を損傷し、車いすの生活になった。それでもリハビリの甲斐あって、自力で歩くことは難しいが、立つことはできるようになっている。その後は、中学のソフトボール部にも復帰することができた。車いすテニスは、男子の世界王者・国枝慎吾(ユニクロ)の試合を観戦し、憧れてスタート。国枝と同じTTCに再び通い、高校も国枝の母校に進学した。
車いすテニスを始めて2年が経った2016年5月、日本で開催された「車いすテニス世界国別選手権(ワールドチームカップ)」にジュニアクラス日本代表4人のひとりに、女子選手で唯一選ばれた。8カ国のうち、日本は開催国枠で出場。船水を含め、全員が日本代表として試合に出場するのが初めてという大舞台だったが、順位決定戦ではロシアを相手に全員が勝ち星を挙げ、7位と健闘した。
この大会での経験が、船水に大きな刺激を与えた。
「中学のときは、まだ自分の障がいを克服できてなくて試合に出るのも自発的じゃなかったし、勝っても楽しいと思えませんでした。でもこのワールドチームカップで初めてジュニアトップレベルの選手を見て、自分よりも年下の子がすごく強かったし、同い年でも体格が全然違っていて、何よりみんなすごくキラキラしていたことに、本当に驚きました。勝った試合もあったけど、全然歯が立たない試合もあって、“同じレベルまで練習して、もう一回戦いたい”と、思ったのはこの時が初めてでした」
強くなりたい――。視界が広がり、歩むべき道が見えた。その気づきが練習の質を上げ、「シニアの大会にも出場する」という明確な目標にもつながった。実際にワールドチームカップの3カ月後の8月からは、シニアの大会にもエントリーするようになった。
近年、国内の女子車いすテニス界は層の厚みを増す。世界ランキングは2位でリオパラリンピック銅メダリストの上地結衣に追いつけとばかりに、同11位の田中愛美、同15位の大谷桃子、同23位の高室冴綺(たかむろ・さき)らがしのぎを削る。船水はそのなかで揉まれながら、一段一段、階段を登り始めている。
そんな船水に今年1月、大きなチャンスが巡ってきた。世界4人のみが出場できる世界ジュニアマスターズにエントリーすることになったのだ。当時、世界4位だった船水はワイルドカードでの出場だったが、シングルス準優勝、ダブルスで優勝という好成績をおさめた。
「ワールドチームカップに出場している世界のトップ選手の多くが、この世界ジュニアマスターズに出ていると知ってから、ずっと“自分もそこに立ちたい”と思い描いていた」という大舞台。この経験を足掛かりにさらなる飛躍を遂げた船水は、2018年8月、ついにジュニアの世界1位の座にたどりついたのだった。
現在はシニアの大会にも積極的にエントリーする。今年8月には4週間にわたってヨーロッパに遠征し、目標に掲げていたITF3(※)のフランダースオープン(ベルギー)で単複優勝を果たすなど結果を残し、シニアでも世界23位に浮上した。(現在は25位)。
※大会は7つのグレードに分けられる。ITF3は6つ目のグレードに当たる大会
目指すのは2020年東京パラリンピックの表彰台。その目標に向け、船水は「5年計画」を立てている。「世界ランク24位以内というのは前倒しで叶えて、今年はITF3で優勝するという目標も達成できました。でも去年目指していた“国内のフューチャーズ大会優勝”は逃しました。つまり、自分よりも上位の選手に勝てなかった結果だと受け止めています。今年は大学受験を控えているので、目標とした項目は上半期が中心でした。とりあえず2017年に立てた目標が、2018年までに全部終わっていたらヨシとしようかなと思っています」と笑う。
東京パラリンピックの出場枠は、日本女子の場合は最大4枠となっている。つまり、国内の代表争いに勝つには、ランキング上位を死守することが重要なミッションになる。「世界ランキングで10番台を狙わないと、国内2番手になるのも難しい。しっかり練習しないと」と、待ち構える険しい道のりに覚悟を決める。
レフティーの船水は、相手から逃げるように決まるスライスサーブが得意だ。現在はそこからフォアハンドでウィナーを取れるような攻撃的なテニスの構築に力を注ぐ。オフコートでもTTCのトレーニングの一環として、体幹と脚の筋力アップを図っており、磨きがかかった鋭いショットは船水の大きな武器になるはずだ。
2年後、20歳になる歳に迎える東京パラリンピック。「もし出場できたら、自分の納得いくプレーをひとつでも多くやりたい」と意気込みを語る。
「自分が車いすテニスを始めたのも、国枝選手の迫力あるプレーに魅了されたから。私も自分のプレーを見た人に“スポーツをやってみようかな”って元気を与えられる存在に近づけたら、すごくうれしいです。そのためには勝たないと注目されないですし、頑張りたいですね」
笑顔の内側に熱い闘志を秘め、大いなる可能性を秘めた17歳。今後のさらなる活躍に期待したい。
※記事中の世界ランキングは2018年11月1日現在
◆「アスリートに直撃! 20問20答~車いすテニス・船水梓緒里編~」はこちら>>>
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu 村上庄吾●写真 photo by Murakami Shogo 撮影協力/TTC(吉田記念テニス研修センター)