── まずは萩野さんが宮城MAXに入った経緯からうかがえますか?
中学生の頃、宮城MAXの選手が取り上げられていた記事を読んだことが車いすバスケを意識し始めたきっかけです。その後、宮城県で行われた女子の日本代表合宿に母に見学に連れて行ってもらったのですが、そこで見た選手たちが本当にカッコよくて。その時に、今もチームメイトとして一緒にプレーさせてもらっている藤井(郁美)選手から「仙台でも練習をしているよ」と声を掛けられ、宮城MAXの練習に足を運ぶようになりました。
── 宮城MAXは日本選手権10連覇中の強豪チーム。その中でプレーしていることにどのようなやりがいを感じますか?
私が入った当時はちょうど日本選手権で初優勝した頃でしたが、すごい選手がいっぱいいるという話は聞いていました。でも本当の意味でレベルの高さを体感させられたのは本格的に練習に参加してから。「ああ、これが勝ち続けているチームなんだ」って。まぁ、今も変わらず揉まれ続けていますけれど(笑)、やはり強いチームでやれていることが自分のスキルアップに繋がっていますし、2年前くらいからは日本選手権などが男女混合になっていることもあって男子とのスピードの差を埋めるためのトレーニングも力になっています。様々な部分で、すごく良い環境でバスケをやらせてもらっている実感はありますね。
── ちなみに、趣味やオフのリラックス法みたいなものはあるのでしょうか。
趣味ですか…とくにないというか、バスケ以外あまり好きなことが思いつかないんですよね(笑)。しいて挙げるならクルマの運転でしょうか。必然的に競技用車いすなど荷物が多いので移動はクルマが多くなるのですが、自分1人でどこへでも行けるのはとても便利ですし、運転している時間も好きです。仙台から東京の移動も全然苦にならないですね。
── 日本選手権は男女混合、代表チームで臨む国際大会は男女別。そのあたり、試合に臨むスタンスにはどのような違いがありますか?
男子選手に混ざると小さくてどこにいるんだろうという感じに見えると思いますが(笑)、だからこそ影の仕事と言いますか、ハイポインター(障がいの程度が軽い、持ち点の高い選手)を生かすための連携プレーに重点を置いています。それに女子が入ることでチーム全体の持ち点から1.5がマイナスされ、より持ち点の高い男子選手を起用できるメリットもあります。逆に女子の試合では、自分がメインとなって、積極的にボール運びや得点に絡むプレーを心がけています。
── 当面の目標は来年に控えている大舞台になると思いますが、周囲からの期待や注目度の高まりをどのように捉えていますか?
純粋に、とてもありがたいことだなと感じています。とくに車いすバスケは人気競技ということもあってテレビや雑誌で取り上げていただくことも多いですし、大会を観に来てくださる方々も増えています。ただ、やはり女子だけの試合となるとまだまだという感覚があります。そこは女子の日本代表が2大会続けて予選で敗退し、本戦に出られていないことが影響しているのだと思っていますので、何としてもいい結果を残して女子の車いすバスケシーンがもっと盛り上がるためのきっかけにしたいですね。
── 当然ながらそこがアスリートとしての最終目標ではないと思います。車いすバスケ選手として、目指している高みとは。
来年は開催国なので出られますが、まだ予選を突破して本大会の出場権を得た経験がないのでさらにその4年後に向けてのチャレンジも視野に入れながらバスケに取り組みたいです。自分たちの力で世界のレベルに到達することが車いすバスケ選手としてのいちばんの目標ですので。そのためにも来年の大会でしっかりと戦い、次へのいい足がかりにしなくてはいけないですし、その中で自分がチームをリードできるような存在になっていきたいと思っています。
── 「挑戦」という言葉から、萩野さんは何を連想しますか?
私にとっては今こうしてバスケを続けていること自体が挑戦ですね。むしろ、ここまで経験を重ねてきてようやく技術的にもメンタル的にもスタートラインに立てたかなという印象です。生活の中でこんなに没頭できるバスケと出会えたことを本当に幸せに思いますし、だからこそ、可能な限り現役の選手としてコートに立って世界を目指し続けたいですね。
PROFILE
はぎの まよ●サントリー チャレンジド・アスリート奨励金 第1〜5期対象選手
サントリーオフィシャルパートナーチーム「宮城MAX」「SCRATCH」所属
車いすバスケットボール日本代表候補
1993年3月9日生まれ、宮城県仙台出身。脊髄腫瘍によって幼少から車いす生活になるも、野球をしていた兄の影響でスポーツに関心を持つ。そして地元で開催された日本代表合宿の見学を機に、2009年から宮城MAXならびに女子車いすバスケットボールチームSCRATCHで本格的に競技生活をスタート。これまで宮城MAXの日本選手権10連覇、SCRATCHの2011年女子選手権優勝に貢献しているほか、日本代表としても数々の国際大会で主力として活躍。
SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT
サントリー チャレンジド・スポーツ プロジェクト
www.suntory.co.jp/culture-sports/challengedsports/
Photos:Takemi Yabuki[W] Composition&Text:Kai Tokuhara