── 幼い頃から、どのように視覚障がいと向き合ってこられましたか?
根っからの負けず嫌いが邪魔をして(笑)、弱視であることをネガティブな方向で受け入れたことは生まれてこのかた1度もありません。もちろん学校生活においてできないこともありましたが、それを言い訳に周りからのサポートをあてにすることが嫌でした。授業中に黒板の字が見えなかったときは放課後に仲の良い友達からノートを貸してもらったり、運動会では朝のうちにどの位置に何があるかを確認したりして、視力を補うための工夫や事前の準備を常に心がけていました。
── お兄さんの影響で中学生から柔道を始められたそうですが、最初、格闘技に対しての怖さはありませんでしたか?
みんなと同じように部活動がしたくて、最初は兄がやっている柔道ならどうにかなるだろうという消去法的な選択でした。「兄にできるなら私にだってできるだろう」と、少し生意気な気持ちもありつつ(笑)。そのように、相手と戦うことへ怖さ以前に、柔道そのものがどんなスポーツなのかすら理解しないまま始めたので幸い不安を感じるところはありませんでした。
── 本格的に視覚障がい者柔道をスタートしたのは大学に入ってからとお聞きしました。
大学の先輩に誘われたことがきっかけですね。そして初めて出たのが世界大会の代表選考会でした。そこで世界トップというのが意外にも身近にあることを実感したことで、この視覚障がい者柔道というカテゴリーで世界を目指してみたいと強く思ったんです。
── そして2012年ロンドン、2016年リオと2大会連続で大舞台に出場されましたが、実際に世界を経験してみてどのように感じましたか?
純粋に、すごい大会だなって。初出場のロンドンでは声援を感じる余裕はあまりなかったのですが、2大会を通じて応援してくれる人がいるからこそ競技ができていることをあらためて感じましたし、また繰り上げ出場だったリオでは「試合に出られることが当たり前ではない」ことを強く意識させられました。
── その後2017年、2018年とワールドカップでは2大会連続で銅メダルを獲得されています。ご自身の中でも強くなっているという手応えがあるのではないでしょうか。
そうですね。以前は練習をこなすことで精一杯のところがありましたが、今はより自分の立ち位置やその日のコンディションと冷静に向き合いながら内容の濃い練習ができるようになっていると思うので、多少は強くなっているのかなぁと。日々の練習が楽しいと感じられることも増えましたね。
── 具体的にどのような練習に取り組んでいるのですか?
まずフィジカル面は体幹の強化や股関節の連動性を高めるトレーニングに力を入れつつ、柔術や砂浜で相撲、山登りなど、苦手な体使いを克服するために他のスポーツも取り入れています。そしてメンタル面では、具体的な目標を持つことはもちろん、休みの日は思い切り遊ぶことを心がけていますね。何事もやってみなければわからない!という気持ちを持ち、トレーニング後に海や山で遊んだり、温泉や買い物に行ったり、料理をしたりしながらリフレッシュしています。
── 1年後の大舞台で初めて視覚障がい者柔道を観る人も多いと思いますが、競技の見どころを教えてください。
何より体と体がぶつかるパワフルなところですね。また視覚障がい者柔道は相手と組んだ状態から始まるのですぐに技が決まることもありますし、逆に試合終了間際の逆転も多い。そして晴眼者の柔道ではあまり見られないダイナミックな技が出やすいところも魅力のひとつだと思います。だから選手としてはいつだってきついのですが(笑)、そのあたりも楽しんでいただけるポイントだと思いますし、「眼が見えない中で相手の位置をどうやって把握しているのだろう」という見方をしてもらえればさらに面白いと思います。
── 半谷さんがこの先、「柔道家」として目指していきたい高みとは?
実のところ将来は柔道以外のスポーツにも挑戦してみたいという思いもありますが、これまで柔道を続けてきたからこそ今の私があることに間違いはないので、その経験を若い選手たちに何かしらの形で還元していきたいと思っています。
── 日々「挑戦」を続けるために課題にしていていることはありますか?
いちばんは自分の可能性を信じること。そして強くなることへの執着心。どんなときでも、その2つをしっかり心がけて勝利を目指していきたいです。
PROFILE
はんがい しずか●サントリー チャレンジド・アスリート奨励金 第1〜5期対象
1988年7月23日生まれ、福島県出身。先天性の弱視。兄の影響で中学生から柔道を始め、筑波技術大学時代に視覚障がい者柔道と出会う。2012年ロンドン大会は52kg級で7位、16年リオ大会では48級で5位に入賞。また17、18年のワールドカップで2大会連続銅メダルを獲得。エイベックス株式会社所属。
SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT
サントリー チャレンジド・スポーツ プロジェクト
www.suntory.co.jp/culture-sports/challengedsports/
Photos:Go Tanabe Composition&Text:Kai Tokuhara