東京パラリンピックに向け様々な競技やアスリートの魅力に迫る、MEN’S NON-NOの連載「2020年TOKYOへの道」。今回は、競技開始から3年でパラ水泳のトップシーンに現れたニューヒロインが登場。彼女が内に秘めた“泳ぐこと”への思いとは!?
デビューは2017年。そこからわずか3年で日本記録を次々と更新するなどパラ水泳・視覚障がいクラスのエース格に飛躍した辻内彩野。水泳一家に育った彼女らしく、まずはこんなエピソードから語ってくれた。
「父がずっとここ(スポーツクラブオッソ南砂)でコーチをしていて母も水泳選手だったので、小さい頃からプールが身近でお風呂でもターンのマネをしてでんぐり返しをしたり。今でも水中のほうが陸より楽です(笑)」
高校時代にはインターハイやジュニア五輪に出場する有力選手だったが、けがを理由に卒業とともにいったん水泳から離れる。しかし大学1年時、視覚障がいの判明を機にパラ水泳へのチャレンジを決意した。
「あるとき、眼鏡を買い替えて1週間で合わなくなって、これはおかしいとなって検査したところ病気がわかりました。どんどん悪くなっていくと聞いて最初は悲しかったですが、むしろ原因がわかったことで『そっか、ここからは悪くなっていくだけなんだ』と開き直ることができたんです」
そこからはジャパンパラ大会、アジアパラ大会、世界選手権とメダルラッシュの快進撃。それでも彼女は自分の現在地をこう冷静にとらえる。
「メディアの皆さんは『新星現る』というように言ってくださるんですけど(笑)、自分としては高校時代のタイムに戻していっている感覚なのでいい記録が出ている実感はそれほどなくて。ただ50m自由形などは高校の頃よりも速く泳げるようになってきたので手応えはあります」
東京パラリンピックは50mと400m自由形での出場をめざす。
「コロナで泳げない時期が続いて落ち込んだこともありましたけれど、数か月ぶりにプールに入って水の中のふわふわした感覚を味わったときに『あぁ、やっぱり水泳が好きなんだ』と感じました。だから来年の選考会に向けてもう一度気持ちを強く持ってしっかり準備していきたいです!」
【プロフィール】
辻内彩野さん
つじうち・あやの●1996年10月5日生まれ、東京都出身。小学3年生から水泳を始め、高校時代にはインターハイにも出場。大学生の頃に視力低下や視野異常が徐々に進行していく難病、黄斑ジストロフィーと診断されて2017年にパラ水泳に転向。2018年アジアパラ大会や2019年パラ水泳世界選手権などでメダルを獲得し、これまで数々の日本記録を更新している。種目は主に自由形(視覚障がいS13クラス)。スポーツクラブオッソ南砂が拠点。三菱商事に所属。
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Photos:Takahiro Idenoshita Composition & Text:Kai Tokuhara