初めて観たパラリンピックは2000年のシドニーだった。
あらゆるものに感嘆しっぱなしだったが、日本代表に対しては、
気持ちが入るにつれて要求も上がっていくのは当然だ。
上位国との差で誰の目にも明らかだったのはフィニッシュ力。
日本はイージーショットのミスが目立つ。
この頃シュートの成功率には歴然とした彼我の差があった。
あれから2004年アテネ、2008年北京(現地観戦できず)、
2012年ロンドン、そして2016年リオと、5度のパラリンピックを数え、
日本のシュートの成功率は見劣りしないところまで進歩を遂げた。
フリースロー成功率は大会途中まで全出場国中のトップだった。
ところで、それぞれの大会で私の記した拙い観戦記を振り返ると、
どの大会も抱く感想が似通っていて驚く。
無論表現力の乏しさはあるが、それだけではないだろう。
例えば「ゲームの入りまたはハーフタイム後の第3Q頭、
相手の迫力に押される格好で点差をつけられてしまう」とか、
「1人に走られてロングパスによる速攻(トランジション)で
イージーな失点を許す場面が目立つ」などがそうだ。
それらは今大会でも同じように感じられたから、進歩がないと見ることもできる。
通算2勝4敗の9位というのもこれまでと変わらない数字だ。
だが、日本を発つ前に抱いた私の予感は、今も消えることなく続いている。
それは「車イスバスケ男子日本代表が、
日本バスケの誰も行けなかった地点に到達する」というものだ。
蒔いた種が芽を出し、丈を伸ばし、実を結ぶのにどれくらいの
時間がかかるものなのか、それを誰も知らなかった。
1人の人間の時間の尺度と、チームという大きな生き物の時間の尺度は違う。
まして日本の車イスバスケというスポーツ文化の成熟にかかる時間は誰にも分からない。
私たちにできるのは正しい努力を続け、次の世代へと引き継ぐことだけ。
正しい努力を続けることにおいて、しっかりとやれることをこのチームは示した。
2020年の東京が収穫の季節になるのかどうかは分からない。
ただそんな幸福にあずかることを祈りながら、
車イスバスケ日本代表を見守りたいと思う。
井上 雄彦
『リアル×リオオリンピック~井上雄彦、熱狂のリオへ~』(集英社)より転載
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撮影/細野晋司