2016年、世界最高の舞台に挑んだシンペーJAPAN。
彼らの戦いをその目で見届けるため井上雄彦は、地球の裏側に飛んだ。
死のブロックといわれた強豪揃いの中で闘い抜いたシンペーJAPANの
もがき苦しんだ先には、何があったのか!?
熱狂のリオでの日々、そして2020東京への想い―――。
井上雄彦が見た風景とは、いったい!?
最終順位は9位。
車イスバスケ男子日本代表は目標に掲げた6位に手が届かなかった。
理想を掲げて真っ向から勝負を挑みさまざまな試練にさらされ、そして敗れた。
敗戦は敗戦として受け入れなくてはならない。その上でこれは未来に希望をつなぐ敗戦だった。
「負けながら勝つ」
チームが共有している言葉。
負けたとしても、したたかに自分たちのバスケットの精度を上げる機会とする。この大舞台の1試合1分1秒を無駄にせず、真剣勝負でしか得られない収穫を掴み取る。それを次の試合の勝利につなげる。言葉の意味をそう理解した。
初戦はトルコに敗れた。ヨーロッパ2位の強豪である。
日本は自分たちのゲームをうまく転がしていくことができなかった。しかし、しっかりと準備してきたことに間違いはないと言うように、
「初戦の入り方としては過去最高の着地をした」
と4回目のパラリンピック出場となる主将・藤本は胸を張った。
2戦目、前日に続きヨーロッパの強豪スペインとの対戦。前半はお互いのディフェンスが良く一進一退、3点ビハインドで折り返す。勝負の後半。スペインはフィジカルで日本を上回る。体の大きさ、強さはこちらの体力を削りとり、考える力をもじわじわと奪っていく。それとともに、日本の武器である戦略遂行の精度は落ちていき、敗れた。
過去最高レベルの準備をし試合をしている。ヨーロッパでプレーする選手も増えた。ボールも人もよく動き戦術もシュートの精度も格段に進化した。それでいて勝てない。理想を掲げて勝ちにいき、現実にはね返されている。
3戦目はオランダ戦。この対欧州強豪3連戦の中で勝利を計算するとすればここであり、準々決勝に進むには勝たなくてはならない試合だった。追い掛ける展開から一度は逆転したが、序盤の劣勢が結局は後々まで響き、痛恨の敗戦となった。ほとんどの時間を「ユニット1」と呼ばれるスターターの5人で闘い、交代で出てくる5人「ユニット5」を使う展開に持っていくことができなかった。日本の目指す12人で闘うバスケットを実行できなかったということだ。
0勝3敗の事実は重く重くのしかかった。この厳しい舞台では結果こそが栄養であり薬である。勝利という特効薬を得られないままに、この時点で準々決勝に進む望みは絶たれてしまった。自分たちのしてきたことを信じられなくなったら、チームはあっという間に空中分解のおそれがある。そんな圧力が矢継ぎ早に襲ってくるのがこの残酷なパラリンピックの勝負の世界なのだった。
それでも日本代表のコンセプトは固く共有されていた。
「負けながら勝つ」
「昨日より今日、今日より明日、より良くなる」
(後編につづく)
『リアル×リオオリンピック~井上雄彦、熱狂のリオへ~』(集英社)より転載
【詳細はこちら】
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780806-3&mode=1
取材 ・イラスト・文/井上雄彦 撮影/名古桂士(X-1) 、市川光治(光スタジオ)