欧州勢と肩を並べ、勝ったり負けたりができるところまで来ているかに見えたが、まだもう少し隔たりがあった。いくらかのディテールがまだ残されていた。いや、もしかすると残されている隔たりとはさらに緻密に追求する方向性というよりもむしろ「遊び」のような部分なのではないか。スペイン戦で気になったのは、良いディフェンスができたときに狙えるはずのトランジションオフェンスが日本には見られず、シンプルに仕掛ける場面がほとんどなかったことだ。戦略遂行にとらわれすぎているようにも見えた。戦略が生命線とはいえ隙あらばイージーバスケットを拾っていく抜け目のなさがあってもよかった。
トレーニングでどうこうできるものでもないが経験を重ねることによって身につけることもできるであろう「遊び」「フォーカスしている所から一歩引いて見る力」のようなもの。これまでのところ日本のゲームは、正しい努力をしている一方でうまく転がっていっていない。それを「経験値」と言ってしまえば身も蓋もないが、欧州の強豪国は地理的にもお互いに交流し切磋琢磨でき、世界レベルの闘いを日常とし慣れることができる。日本はようやく練習試合を組めるようになってはきたものの日常的に世界トップを味わっているとは言えず、これからも簡単ではない。国を代表するチームとしての経験値がまだ追いついていないのは確かだ。
それともう一つ。これまた身も蓋もないが「喧嘩の強さ」みたいなものも勝敗を分ける部分ではないか。バスケットボールはゲームであり闘いである。ベストの試合運びができなくとも勝ちを拾えるかどうか。最後に1点上回れば勝ちだというシンプルな事実をいつも頭のどこかに置いているかどうか。
いずれも慣れがものを言う部分である。(選手によっては経験の浅さ、恐れ知らずが良い方に働く場合もあるかもしれない)日本代表が世界トップを本気にさせるようになった今、まさにそこから積み上げる経験値がさらに一段上の強さを作っていくのだろう。だからこそ代表の強化には長期のビジョンに基づいた連続性、一貫性がなくてはならない。
自分たちの信じるバスケにすべてをかけて勝負したからこそ敗戦は胸をえぐられるような体験となる。その痛みに耐えてきた日本は、4戦目カナダ戦でついに会心の勝利をあげた。
5戦目となる世界王者オーストラリア戦は前半の点差がそのまま残る形で敗れた。しかし後半のパフォーマンスは日本が上回った。
9位決定戦はアジアの強豪イランを相手にこれぞ日本のバスケという試合で快勝し、ロンドン大会と同じ9位を獲得。12人が躍動した。
4回負けて、4回受け止めて、4回前を向きなおした。そして2つの会心の勝利を得た。
我が道の真ん中をいくこのチームだからこそ、全ての試練は糧となる。この6試合を経験した12人の選手と及川晋平ヘッドコーチがここをボトムラインとして成長し続け、あるいは経験したことを次の世代に伝えていく限り、我々の代表は成長の途上にある。
敗れたがその真っ直ぐさゆえに、未来に希望は引き継がれた。
『リアル×リオオリンピック~井上雄彦、熱狂のリオへ~』(集英社)より転載
※詳細はこちら
取材 ・イラスト・文/井上雄彦 撮影/名古桂士(X-1) 、市川光治(光スタジオ)