「2019女子U25世界車いすバスケットボール選手権大会」で見事優勝したアメリカ(撮影・X-1)
金メダルに輝いた2016年リオパラリンピック後、大幅に世代交代を進めたのが女子アメリカ代表だ。18年世界選手権では、リオメンバーはわずか2人。その世界選手権メンバー12人のうち、翌19年の女子U25世界選手権には9人が出場と非常に若いチーム構成だった。しかしその3カ月後、東京パラリンピックの予選を兼ねて行われたアメリカ大陸選手権では、リオの金メダルメンバーがさらに4人復帰している。“車いすバスケ大国”で男子に劣らず選手層が厚い女子アメリカ。パラリンピック連覇を狙うチームの強さ、注目選手に迫る。
世界トップのシューター、ローズ・ホラーマン
18年世界選手権では、6位という成績に終わった女子アメリカ。そこに2年前の世界女王の貫録はなかった。リオパラリンピック後、入れ替わるようにして絶対的な強さを持つようになったオランダや、ジュニア世代の育成・強化の結果を出し始めたイギリスといったトップチームとの差は決して小さくはなかった。
しかし、これがそのまま東京パラリンピックの指標にはならない。その証拠に14年世界選手権では4位とメダルには届かなかったが、2年後のリオパラリンピックでは予選から決勝まですべて2ケタ差での勝利と他を寄せ付けない圧倒的な強さで世界の頂点に立っているのだ。
そして、もう一つ。18年世界選手権にはリオ金メダルメンバーはわずか2人しか残っておらず、そのうち1人はリオでは主力には至っていない。加えてチームの平均年齢は21歳と若く、大学生が多くを占めていた。最年少の14歳を含めて10代が4人いるメンバー構成での6位は大健闘と言っていいだろう。
絶対的エースとして女子アメリカを牽引するローズ・ホラーマン選手(左)(撮影・X-1)
なかでも注目すべきは、ローズ・ホラーマン(3.5)だ。現在25歳とベテランというには若い彼女だが、すでに12年ロンドン、16年リオとパラリンピック2大会を経験している。20歳で出場したリオでは、すでに主力となっており、決勝のスタメンでもあった。
リオ後、世代交代したチームではエースとして牽引し、18年世界選手権では全8試合でチームトップの147得点を挙げた。これは出場した12チームのなかでも4番目に多い数字だ。さらに、トップ5人のうちホラーマンを除く4人はクラス4点台のハイポインターだったことからも、ミドルポインターでは世界でも群を抜く能力の高さがうかがえる。
そのホラーマンがMVPとなり、優勝の立役者となった19年女子U25世界選手権で対戦した一人が、柳本あまねだ。同大会でU25日本代表は、18年世界選手権メンバー9人を擁したU25アメリカ代表と準決勝で戦った。
「12人中9人がA代表だということは知っていたので、強いことはわかっていました。実際に対戦してみて、本当に強かったです。国際大会の経験がない選手が多かった日本との差は歴然で完敗でした。でも、そんなA代表が顔をそろえたアメリカと戦えるなんていうのはめったにないこと。本当に貴重な経験になったと思います」
そしてU25世界選手権での対戦前から、すでに柳本の耳にも届いていたのが、やはりホラーマンの名前だったという。
「以前からアメリカにはホラーマンというすごい選手がいるということは先輩たちから聞いていました。なので、U25世界選手権で初めて見た時は“あ、この選手が”という感じで対戦するのを楽しみにしていたんです」
では実際に対戦してみて、柳本はどこに彼女の強さを感じたのだろうか。
「やっぱりまずはシュート力です。どこからでも正確なシュートを打ってくるし、それこそイージーシュートは絶対に外しません。クラスは3.5ですが、高さがあるので、日本人選手のように小さい選手が周りを囲んでも、一切お構いなし。私たちの頭上から軽々とシュートを打ってくるので、少しでもゴールから遠ざけないといけない選手です」
ベテラン勢の代表復帰でアップしたチーム力
また、柳本はこうも語る。
「アメリカはこの一年でどう変わっているのかが怖いなと思っています。オランダやイギリスなど、他国はどういうバスケをしてくるかはだいたい予想できますが、その点アメリカはちょっとわからないので」
実際アメリカは18年世界選手権と、19年アメリカ大陸選手権とでは、数人のメンバーが入れ替わり、メインとなるラインナップ(5人の組み合わせ)も変わっている。18年世界選手権ではハイポインター不在でミドルポインター陣を多く起用したラインナップがメインとなり、ホラーマンが最大のポイントゲッターだった。ところが、その1年後の19年アメリカ大陸選手権ではホラーマンが司令塔としてゲームをコントロールするラインナップがメインとなっている。これを実現させたのが、ベテラン選手2人の代表復帰だ。ともに08年北京から16年リオまで3大会連続で出場し、2つの金メダル(北京、リオ)を持つ31歳のレベッカ・マレーと、38歳のナタリー・シュナイダーだ。
パラリンピック2つの金メダル(北京、リオ)を持つ31歳のレベッカ・マレー選手(撮影・X-1)
マレーはリオの決勝では40分間フル出場し、クラス2.5でありながら62点中33点を一人で叩き出したシューターだ。3年ぶりの公式戦となった19年アメリカ大陸選手権、カナダとの決勝でも唯一40分間フル出場し、チーム最多の22得点を挙げ、スタミナ、シュート力の両面で健在ぶりをアピール。さらにアシスト数もチーム最多の12と、マルチな才能を見せている。
そのマレーと2on2でペアを組むシュナイダーはクラス4.5で高さがあり、マレーをマークする相手にスクリーン(壁)をかけ、シュートコースを作り出す一方で、隙を突いてピック・アンド・ロール(スクリーンをかけにいった選手が空いたスペースに飛び込み、パスを受けてシュートする戦術)でインサイドを狙いにいく。またシュナイダーがいるおかげで、アメリカはリバウンドでも強さを増した。
また、この2人の逆サイドにはクラス2.5のリンゼー・ツアブリュックがいる。22歳のツアブリュックもミドルシュートを得意とし、カナダとの決勝ではマレーに次ぐ16得点を挙げた。もちろんトップの位置にいるホラーマンをマークから外すことはできず、ディフェンスにとってはやっかいなラインナップだ。
結果的にはカナダが67-64と接戦を制したものの、1年前の世界選手権では15点差が付いていただけに、アメリカのチーム力が上がっていることが印象に残る試合となった。こうした18年から19年の変わりようを見ても、1年延期となった東京パラリンピックでアメリカがどんな選手を率いて、どんなバスケをしてくるのかは未知数と言える。
柳本は、他国にはないアメリカの怖さがそこにあると見ている。
「オランダやイギリスは確かに強いのですが、どういうバスケをしてくるか、どの選手がどういうプレーをするからどこに意識を置かなければいけないか、ということはある程度はっきりしている分、対戦しやすい部分があります。でも、アメリカに対してはそういう予測ができないとなると、オランダやイギリス以上に怖さを感じます」
文/斎藤寿子