藤澤 ピック&ロールって車イスバスケでも戦術のベーシックなんですよ。
田中 でもランニングバスケと違って、ズレが生まれにくくないでか?
藤澤 そうです。そのために「スペースを取れ」とか、「タイミングを合わせろ」って言われます。ターンバック、アタックバックと呼んでいるんですけど、ボールマが、(ピックをかける)ピッカーと逆を向かせる動きをちゃんとタイミングを合わせてしろと。車イスに乗っていると後ろの視野がすごく切れるし、その上、僕のように障害によっては、身体をひねる動作ができないので広い視野で状況を確認するのが難しいんです。
田中 なるほど。
藤澤 それと、車イスは幅があるから回転するためには絶対にスペースが必要なんですよ。ピックに行くときに自分の車イスを相手の車イスのここに合わせるっていうポイントがあって、そこの位置が取れたらもう100%ピックにかかるんです。
田中 あぁ、そういうことですか! だからさっき横で止められたときぜんぜん動けなかったんだ(笑)。車イスならではの部分があるから、ピック&ロールはより細かいですね。
藤澤 車イスバスケでは、ボールを持って動くのは障害が軽くてスピードとクイックネスのあるプレイヤーが中心なんです。だから僕はボールマンをサポートすることが多いですね。
田中 藤澤選手がスクリーナーになるわけですね。
藤澤 はい。ピック&ロールを使って障害の軽い選手と重い選手のミスマッチを作ることが、車イスバスケの基本的な戦術なんです。
田中 藤澤選手もポジションはシューティングガードですよね。
藤澤 そうです。田中選手と同じです。でも、僕はシューターなんで、ちょっとプレイスタイルは違いますね。田中選手はオールラウンダーですもんね。
田中 そうですね。自分でも持ち味はなんでもできることだと理解してます。自分はディフェンスも自信があるし、シュートだけでなく中にドライブもするし、パスもさばくし…そういった幅…いろんなオプションがありますね。
藤澤 僕はスポットシューターなんです。リオを戦った日本代表の最大の武器はディフェンスだったんですが、僕はプレスが得意なユニットで使われることが多くて、だから僕もディフェンスにはちょっと自信があります(笑)。
田中 他に車イス独特のプレイはどんなのがあるんですか?
藤澤 ディフェンスからオフェンスに切り替わるときに、相手をディフェンスに戻れないようにバックコートに止めちゃうっていうバックピックというプレイがあります。
田中 藤澤選手に止められたら動けなそう。
藤澤 僕が大きくて障害の軽い選手をきっちり止められれば、それだけで障害のミスマッチを生み出せます。バックピックで数的優位を作れると、必然的に相手のビッグマンは真ん中を守ろうとするので、僕はコーナーでスペース取って待っていて、ふってもらってショットを決めるパターンも多いですね。田中選手は普段の練習からシューティングはかなり打ってるんですか?
田中 いえ、本数を打つのはしないですね。練習が終わって、自分でゲームをイメージしながらシューティングをします。ワークアウコーチにチェックしてもらいながらやります。
藤澤 やみくもには打たないんですね。では一番意識しているポイントはどこですか?
田中 僕の場合はバランスですね。藤澤選手はどこですか?
藤澤 正しいフォームで打つことかな。それに僕のような重い障害だと、ボールのもらい方が悪いと身体のバランスが簡単に崩れてしまうので、良い状態でボールを持つことから考えてやっています。
(「語ろう、バスケのこと⑥」に続く)
【プロフィール】
藤澤潔さん
ふじさわ・きよし●1986年7月26日、長野県出身。埼玉ライオンズ所属。ポジション:シューティングガード。2005年世界ジュニア準優勝の黄金世代のひとり。安定したシュートとディフェンス、そしてヘアスタイルは何があっても乱れない。
田中大貴さん
たなか・だいき●1991年9月3日、長崎県出身。アルバルク東京所属。ポジション:シューティングガード。東海大時代はMVPを始めとする数々のタイトルを獲得。Bリーグ初代王者を目指すアルバルクの顔。オールラウンダーが魅力。
『リアル×リオオリンピック~井上雄彦、熱狂のリオへ~』(集英社)より転載
【詳細はこちら】
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780806-3&mode=1
撮影/細野晋司 ※1枚目の田中大貴選手の画像のみALVARK TOKYO提供