東京パラリンピックで活躍が期待される、ボッチャ日本代表チーム(火ノ玉JAPAN)の壮行試合、「火ノ玉JAPAN SPECIAL GAMES -ONE BOCCIA-」が 7月13日から14日にかけて、武蔵野総合体育館 (東京都武蔵野市)で開催され、日本代表10選手が参加した。感染症対策のため無観客開催だったが、代表選手同士による2日間にわたる熱戦の後には壮行セレモニーも開かれ、選手はそれぞれ、大舞台に向けて気持ちを高めた。
壮行試合は全7試合が行われた。コロナ禍により2019年12月の日本選手権を最後に、国内外の公式戦がすべて中止となっていた選手たちにとって試合勘を磨く貴重な実戦の場であり、場内アナウンスや入場、BGMといった演出など東京パラ本番を想定した環境でイメージを作る機会にもなった。選手は自身の調子を確かめ、久しぶりの真剣勝負を喜び、好パフォーマンスを披露した。
ボッチャは四肢まひなど重度障がいを対象に考案された球技で、障がいの種類や程度により、4クラスに分かれて競う。BC1とBC2は脳原性まひによる四肢まひなどの選手で、BC1が自身で車いすの操作ができないなど、より重い障がいとなる。BC3は疾患の原因にかかわらず、自力での投球ができない選手を、BC4は筋ジストロフィーなど非脳原性まひによる重度四肢機能障がいのある選手を対象とする。
第1試合のBC1個人戦を7-1で快勝した、3大会連続パラ代表の藤井友里子(アイザック)は、「久しぶりに本番と同じ形での試合で緊張感があったが、相手の調子を見ながら、自分らしいボッチャをすることができた」と話し、1年延期の期間中の強化を経て東京パラでは、「さまざまな距離で勝負できる点をみてほしい」と進化をアピールした。
3大会連続パラリンピック出場のBC1・藤井友里子
敗れた中村拓海(愛徳福祉会)は「すごく緊張して、練習でできたことが試合でできなかった。本番までに修正したい」と反省を口にしたが、藤井のボールをはじき出す力強いスローも見せ、「自粛期間中に基礎練習に取り組んだ。(緊張のなかにも)冷静な判断はできた」と振り返った。
2試合目はリオ大会で銀メダルを獲得したBC2の杉村英孝(伊豆介護センター)、廣瀬隆喜(西尾レントオール)組と、BC4の江崎駿(法政大)、古満渉(広島市役所)、木村朱里(藤沢市役所)組による団体戦が行われた。公式戦では実施されない特別大会ならではの対戦だったが、BC2組が3-2で逃げ切った。
3大会連続のパラ出場で、チームキャプテンも務める杉村は約1年半ぶりの大会に、「試合に限らず、ホテルでの過ごし方や車での移動などすべてが懐かしく新鮮に感じた。(無観客だったが)スポンサーやメディアが入り、緊張感があってよかった」と振り返った。
4大会連続出場となる廣瀬も、「(本番)大会を想定してゲームができたのはうれしい。代表決定後、初めて全員が揃った。今後さらにコミュニケーションを高めて臨みたい」と本番に向けたイメージづくりに手ごたえをうかがわせた。
一方、BC4組は全員が初出場となる。自身の強みとして江崎は「パワーはないが、精度で戦うコントロールを重視したプレーに注目してほしい」、古満は「握力が弱いなか、それをくつがえす戦略で世界に勝ちたい」、木村は「周りには頼りになる選手がいるので、自分のプレーが出せるよう頑張りたい」と、それぞれ大舞台に思いをはせた。
パラリンピック初出場となるBC4の江崎駿(左)と古満渉(右)
第3試合では、滑り台に似た補助具(ランプ)を使い、選手がランプの高さや角度、方向などを指示し、アシスタントのサポートを受けてプレーするBC3のペア戦が行われた。パラ初出場の田中恵子(ゴーゴーカレーグループ)が強化選手の有田正行と組み、2大会連続出場の高橋和樹(フォーバル)と初出場の河本圭亮(東郷町施設サービス)組に6-5で勝利した。
第1エンドから精度の高いボールを連発した田中は、母でもある田中孝子アシスタントとプレーする。東京パラでは「二人で嫌というほど合わせてきた」という、「得意のロング(ショット)を見てほしい」と笑顔で話した。
敗れはしたが、随所に精度の高いスローを見せた河本も母、河本幸代アシスタントとプレーする。自身の強みは、「どの位置にもアプローチできるオールラウンダーなところ」と話し、本番では、「(ランプの)高い位置からのスローなど迫力あるプレーも見てほしい」とアピールした。
高橋は、「最高の競技パートナー」と評する峠田佑志郎アシスタントと、「東京パラに向けて何年もかけて峠田さんと磨いてきたプレースタイルを見てほしい」と話した。
アシスタントのサポートを受けてプレーするBC3の選手。田中恵子は母と共に
第4試合は、2016年リオ大会で銀メダルに輝いたBC1/BC2チームとBC4チームによる、公式戦にはない対戦が行われた。試合はBC4チームが終始先行する形で進み、9-3で大勝した。
江崎と古満は第2試合での反省を生かし、ショットの精度を高め、試合運びも改善できたことが勝因と話した。敗れたBC1/2の杉村は、「細かい部分のパフォーマンスを今後、上げていきたい」と反省を口にした一方で、「パラの決勝の時間帯(19時開始)に合わせた試合ができてよかった」と振り返った。
2日目は各クラスの個人戦3試合が行われた。1試合目のBC4は江崎が古満に9-2で、2試合目のBC3は河本が高橋に7-0で、最終試合のBC2は杉村が廣瀬に7-2でそれぞれ勝利した。
■壮行セレモニーで、多くのファンからエール
東京パラでは4クラスそれぞれの個人戦とチーム(BC1/BC2)、ペア(BC3、BC4)が実施され、日本チームは、「全クラスメダル獲得」を目標に掲げる。
試合後に行われた壮行セレモニーでは主将の杉村が、「母国開催のパラリンピックに参加できることは光栄。自覚と誇りを持って大会に臨みたい。皆でゆるぎない目標に向かって進んでいくだけ。代表選手だけでなく、これまで一緒に戦ってきたメンバーの思いも一緒に戦いたい」と決意を示した。
パラリンピック本番に向けて意気込むボッチャ日本代表主将・杉村英孝
育成年代の選手や一般ファン、著名人ら大勢からの応援メッセージ動画も披露され、選手を喜ばせた。ダブルエースの廣瀬も、「火ノ玉JAPANは『一丸』がテーマ。選手、スタッフ、スポンサー、そして、ファンの皆さんと一丸で、目標に向けて頑張りたい」と力を込めた。杉村はリオ大会での銀メダル獲得後の約5年で、「各地の体験会やメディアに取り上げられ、ボッチャの名をたくさん聞くようになった。東京大会ではリオ以上の結果にこだわり、さらに知名度を上げたい」と意気込んだ。
代表を率いる村上光輝監督は、「全体的にレベルが上がっているように感じた」と大会を総括。コロナ禍で練習環境に大きな制約があった1年を過ごしたが、各自の自宅トレーニングやオンラインを駆使した「合同トレーニング」などで地道に高めてきた技術やチーム力に手ごたえを示した。移動や休養、補食なども含めた本番へのシミュレーションについても、「感染症対策でストレスも多い中、スタミナ切れも起こさず、体調万全で臨めた」と話し、サポートするスタッフの連係にも自信を見せた。
日本代表の強みとして、「チームワークの良さ」も挙げた。大きな大会ではキーマンが現れることもあり、チームワークが良いとその勢いが全体に波及することも多く期待を寄せる。「長丁場のパラ本番で集中力を切らさず、いいプレーができると思う。それができれば、メダルも見えてくる」と村上監督は力強く結んだ。今大会で見えた課題は今後の合宿で修正し、残り1カ月でさらなる高みを目指す。
東京パラリンピックのボッチャは有明アリーナ(東京・江東区)を会場に、各クラスの個人戦は8月28日から予選、31日から決勝トーナメントとなり、決勝は9月1日に行われる。チーム・ペア戦は9月2日から始まり、4日に決勝が行われる。コロナ禍の逆境をプラスに変え、進化をつづける火の玉JAPANの活躍に期待したい。
ジャパンチーム一丸となって勝利を目指す火ノ玉JAPAN(撮影:星野恭子)
【東京パラリンピック ボッチャ日本代表】
BC1:中村拓海(愛徳福祉会)/藤井友里子(アイザック)
BC2:杉村英孝(伊豆介護センター)/廣瀬隆喜(西尾レントオール)
BC3:河本圭亮(東郷町施設サービス)/高橋和樹(フォーバル)/田中恵子(ゴーゴーカレーグループ)
BC4:江崎 駿(法政大)/古満 渉(広島市役所)/木村朱里(藤沢市役所)
【日本ボッチャ協会】
星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko 吉村もと●写真 photo by Yoshimura Moto
ボッチャ体験授業
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