東京2020パラリンピック豆知識の後編は、障がいの種類や程度による「ポイント制」、意外と知らない男女混合の競技・種目、そして健常者と一緒に戦う種目について詳しく見ていこう!
■選手に「持ち点」を設定する「ポイント制」
激しい攻防が魅力の車いすラグビー。日本代表はリオ大会で銅メダルを獲得し、2018年世界選手権で優勝。東京大会は悲願の金メダル獲得に挑む
車いすバスケットボールと車いすラグビーで採用されているのが「ポイント制」。障がいの程度に合わせて選手一人ひとりに「持ち点」が設定されている。両競技とも0.5点刻みで、車いすバスケットボールは1.0点~4.5点、車いすラグビーは0.5点~3.5点で、点数が小さいほど障がいが重いことを表している。
コートでプレーする選手の1チームの合計点の上限が定められ、5人でプレーする車いすバスケットボールは「14点以下」、4人でプレーする車いすラグビーは「8点以下」と決まっている。両競技とも、選手交代をしたあとの持ち点の合計も上限以下でなくてはならず、その都度、相手に対してどんな組み合わせで挑むか、といった戦略も必要になる。
なお、車いすラグビーは男女混合の競技だ。女子選手がプレーする場合は、持ち点の合計がひとりにつき0.5点追加することが許される。例えば、持ち点が「0.5点」の女子選手がひとり入れば、チームの合計点が8.5点となる編成が可能になる。日本代表は女子の倉橋香衣選手(0.5点)がいるラインナップでトライを重ねることができ、それが強みのひとつとなっている。
■東京大会で初採用も! 男女混合で争う競技・種目
前途した車いすラグビーや前編で紹介したボッチャのように、男女混合の競技や種目がほかにもある。馬術は人馬一体となった演技の美しさと正確性を競う馬場馬術が実施され、オリンピック同様に男女混合で頂点を争う。車いすテニスの上肢にも障がいがあるクアードクラスも、男女の区別がなく、ひとつのクラスとして実施される。
新種目の陸上のユニバーサルリレーは、<視覚障がい→切断・機能障がい→脳性麻痺(立位)→車いす>の順でタッチでつなぐ
オリンピックでは東京大会で初採用となった男女混合の新種目が話題になったが、パラリンピックも陸上の視覚障がいと立位の切断や機能障がい、脳性麻痺、車いすといった異なる障がいクラスの男女2人ずつがチームを組む「4×100mユニバーサルリレー」が初採用。男女の順番は自由で、バトンではなく次の走者の身体の一部を「タッチ」してつなぐ。日本代表のメダル有望種目のひとつで、異なる障がいがある選手へのタッチワークをいかにスムーズに行うかが、勝敗のカギとなりそうだ。また、水泳では視覚障がいの選手の男女混合400mリレー、知的障がいの選手による男女混合400mリレーも初めて行われる。
■選手を支える健常者もメダリスト!
陸上で並走する選手とガイドランナー。ふたりは1本の「テザー(ガイドロープ)」の両端の輪をそれぞれ握って走る。テザーは「きずな」とも呼ばれる
パラリンピックには健常者と一緒に戦う種目が複数ある。陸上の長距離種目で視覚障がいの選手をサポートする「ガイドランナー(伴走者)」の存在が、広く知られているかもしれない。5000m以上のレースではガイドランナーは交代は1回のみで、マラソンでは2人まで交代が可能。パラリンピックではガイドランナーが1人のみで選手と一緒に走り、3位以内に入った場合は、ガイドランナーにもメダルが授与される。
ブラインドサッカーのゴールキーパーは、弱視者のほか晴眼者も務めることができ、ピッチ上では唯一、アイマスクを着用せずプレーする。トライアスロンの視覚障がいクラスは健常者が選手のガイドを務め、自転車も視覚障がいクラスは健常者のパイロットと視覚障がいの選手が2人乗りのタンデムで息を合わせて走行し、頂点に挑む。また、ボッチャでは、自分で投球できないクラスの選手は競技アシスタントとともに戦う。アシスタントは競技の状況を見ることはできず、コートに背を向けたまま選手の指示のみで投球の準備を行うため、信頼関係がカギを握る。
ブラインドサッカーのピッチ上で唯一見えているゴールキーパー。高いセービング技術はもちろん、プレーヤーへの声かけや的確な指示が求められる
ボートの「PR3混合舵手付きフォア」は、上下肢障がい、視覚障がいなど異なる障がいの選手4人とコックス(舵手)1人がタイミングを合わせて艇を進める。コックスは男女や障がいの有無の区別はなく、まさに“多様性”を象徴する種目。日本代表も出場するPR3は、クルーのチームワークに注目して応援しよう!
荒木美晴●文 text by Miharu Araki 植原義晴●写真 photo by Yoshiharu Uehara