平昌パラリンピック(2018年3月9日~18日)の開幕まで、あと約半年。今年の3月には平昌や江陵(カンヌン)で本番の会場を使ったアルペンスキーやノルディックスキーのワールドカップ(W杯)、車いすカーリングの世界選手権など、テストイベントが相次いで行なわれ、大会成功に向けて準備が進んだ。
そのプレ大会では、多くの日本人選手が表彰台に立ち、パラリンピック本番でも活躍が期待される選手が見えてきた。
まずはベテラン勢から。アルペンスキーでは、森井大輝(37歳・トヨタ自動車)が2016-2017シーズンのW杯男子座位で個人総合優勝を果たした。栄光の証「クリスタルトロフィー」を手にするのは、2年連続3度目となる快挙だ。シーズン前半のW杯の回転で2大会連続の表彰台。世界選手権のスーパーコンビでも2位に入った。続くW杯白馬大会のスーパー大回転でシーズン初優勝を飾ると、最終戦の平昌大会では滑降と大回転を制するなど、過酷な長いシーズンにおいて5種目すべてで安定した結果を残した。
2016-2017シーズンは雪不足や暴風などの影響を受けて、海外合宿でも十分なトレーニングができていなかったという。海外の10代、20代前半の新鋭たちの急成長も目立ったが、森井に焦りはない。シーズン終盤の白馬でようやく頂点に立った際も、「これから勝ち癖をつけていければ」と話していた。そして、その直後に本番会場で有言実行の2勝をマーク。ライバルたちに王者の貫禄を見せつけた。
森井は4歳からスキーを始め、高校2年の時に交通事故で脊髄を損傷。チェアスキーヤーとして雪上に戻ってからは、すぐにその才能を開花させた。鋭く弧を描くカービングターンの技術を磨き、世界を牽引する存在となった。過去4度のパラリンピックで4つのメダルを獲得しているものの、唯一手にしていないのは“金メダル”だ。その獲得は悲願であり、使命でもある。
「平昌では、てっぺんしか狙っていない」。そう言い切る王者の滑りに、来シーズンも注目したい。
ノルディックスキーの新田佳浩(37歳・日立ソリューションズ)は、2月の世界選手権のクロスカントリー・ロング・クラシカルで銅メダルを獲得し、世界選手権では実に12年ぶりに表彰台に上がった。また、本番会場を使ったW杯第3戦の平昌大会はスプリントで2位、ミドル10キロで優勝と調子を上げ、さらに直後のW杯最終戦・札幌大会ではショート5キロで銀メダルを手にするなど、存在感を示した。
ソチパラリンピック以降は、自身の調整をそれまでの単年計画から4年間の長期計画に切り替えた。来年の3月に照準を合わせ、「自分自身と対話し、また長濱一年(かずとし)コーチとも密にコミュニケーションを図っているところ」だと言う。その中で結果を残したことは大きな自信につながるだろう。
3歳の時にコンバイン(農機具)に巻き込まれる事故で左前腕を切断した。小学3年からクロスカントリースキーを始め、長野パラリンピックに17歳で初出場。「クラシカルの技術は世界一」と言われ、ソルトレークシティ大会では5キロで銅メダル、そしてバンクーバー大会では2種目で金メダルを獲得した。
だが、前回のソチ大会では表彰台を逃す。
「このままでは終われない」
ベテランの域に差し掛かった新田の心に火がついた。平昌パラリンピックでの目標は、「初戦のクラシカル・スプリントで金メダル。最終日のミドルでもう一度表彰台に乗ること」。出場すれば6大会目となる最高峰の舞台で、リベンジを誓う。
一方、若手選手の活躍にも期待が集まる。アルペンスキーの村岡桃佳(早稲田大)は、3月3日に20歳になった新鋭だ。2016-2017シーズンは世界選手権の女子座位3種目で銅メダルを獲得し、W杯白馬大会ではスーパー大回転で優勝。直後の平昌大会でも4度、表彰台に上っている。
村岡が本格的に競技を始めたのは、中学3年の時。世界トップクラスの実力と実績を誇る森井や狩野亮(マルハン)ら日本男子選手から、スキー技術はもちろん、用具のケアやレース展開、メンタル面の調整まで親身に教わった。先輩たちの言葉をスポンジのようにどんどん吸収し、高校2年の17歳の時に出場したソチパラリンピックでは、大回転で5位と健闘した。
平昌パラリンピックは、メダル候補の一角として臨むことになる。昨季は、持ち味のキレのあるターンに磨きをかけ、より旗門に近いラインを攻める滑りを見せた。報道陣の前でも自分のレースを冷静に分析するその姿には、エースとしての風格が漂う。ソチから大きく成長した村岡の活躍が楽しみだ。
ソチパラリンピックでアルペンスキーの中の1種目だったスノーボードは、平昌パラリンピックでは独立して1競技として実施されることになった。スノーボードクロスと、3回の滑走の最速タイムを競うバンクドスラロームの2種目がある。この競技で注目されているのが、成田緑夢(ぐりむ/23歳・近畿医療専門学校)だ。
成田は、スノーボードでトリノ五輪に出場した童夢さんを兄に、今井メロさんを姉に持つ「成田3きょうだい」の末っ子だ。スノーボードとスキーのハーフパイプで活躍していたが、トランポリンの練習中に着地に失敗。左ひざから下の感覚を失う障がいが残った。夢は五輪からパラリンピックへと移り、パラ陸上の走高跳びの選手として活動しつつ、昨年から本格的にパラスノーボードを始めた。
昨年10月のW杯のバンクドスラロームで4位に入ると、年明けの北米選手権とW杯のスノーボードクロスで3連勝。さらに、世界選手権ではバンクドスラロームで銅メダルを獲得。そして、W杯最終戦の平昌大会ではこの種目で初優勝、スノーボードクロスでも3位と、見事ダブル表彰台を実現した。一躍平昌パラリンピックの期待の星となった成田。本大会へ向けてのさらなる飛躍から目が離せない。
なお、パラアイスホッケー(アイススレッジホッケーから改称)日本代表は、平昌パラリンピック出場切符獲得のラストチャンスとなる最終予選(10月/スウェーデン)への出場が決まっている。また、車いすカーリング日本代表は、昨年11月の世界車いすBカーリング選手権大会で敗れ、平昌パラリンピック出場を逃している。
平昌パラリンピックでは6競技80種目が実施される。前回のソチ大会で日本は、金3、銀1、銅2の計6個のメダルを獲得しているが、その大幅な更新に期待したい。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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荒木美晴●文・写真 text&photo by Araki Miharu ※2枚目の村岡選手の画像はAFLO SPORT提供