準決勝では悔し涙を流したが、銅メダルを獲得しチームを牽引したベテラン勢も笑顔を見せた。左から池透暢、島川慎一、池崎大輔
東京2020パラリンピックの車いすラグビーは29日、国立代々木競技場で3位決定戦が行なわれ、日本がオーストラリアを60-52で下し、リオ大会に続き、2大会連続で銅メダルを獲得した。手にしたのは、彼らが思い描いていた色のメダルではなかった。だが、最後の試合で見せたオアージャパンの戦いぶりは、5年間の想いを体現した力強いものだった。
序盤から持ち味のスピードと強化してきた連携で着実にトライを重ね、アグレッシブなタックルで相手の攻撃のチャンスを幾度と阻止。相手の意表を突いて高さを生かしたロングパスからの得点も要所で決め、前回王者に主導権を渡さなかった。
「オフェンスもディフェンスも攻撃的に。アグレッシブにいくのが日本のラグビーだ」
ケビン・オアー監督の指示通り、最後まで日本らしさを出し切った。
悔やまれるのは、準決勝だ。これまで負けたことがないイギリスに足元をすくわれた。激しいプレッシャーから日本はミスを連発。相手のローポインター(※)に行く手を阻まれ、守備の立て直しが後手にまわり、攻撃のリズムをつかめないまま徐々に点差を広げられた。予選リーグを3連勝で1位通過し、金メダル獲得という目標達成に向けて自信も期待も高まる中での敗戦に、選手もスタッフもショックを隠せなかった。
※障害の重い順に0.5点(ローポインター)から3.5点(ハイポインター)までの7段階に分けられる
「悪夢であってほしい」
試合後のインタビューに応じたキャプテンの池透暢(日興アセットマネジメント)の言葉に無念さがにじむ。オアー監督は「日本のみなさんに金メダルをお届けしたかった」と話すと、嗚咽を漏らし、涙が止まらなかった。東京パラリンピックにかける想いの強さを改めて感じるシーンだった。
初めてメダルを獲得したリオから5年。日本代表はパラリンピックでの頂点を見据え、2017年にアメリカ代表やカナダ代表を率いたアメリカ人のオアー氏が監督に就任した。日本の課題、必要な挑戦を明確に打ち出し、フィジカル、メンタル、戦術を一から見直し、新生チームづくりに取り組んだ。
それまでハイポインターの池と池崎大輔(三菱商事)の「イケ・イケ」コンビなど、個人技に頼る展開が多かったが、守備での貢献度が高いローポインターや流れを変えるミドルポインターの育成と強化にも力を入れた。日本のラインナップの幅は広がり、しかも交代してもそれぞれが同じクオリティを発揮できることが武器になった。18年には初めて世界選手権を制するなど、進化を証明した。
オアー監督は選手一人ひとりに寄り添い、ストロングポイントを引き出す。その手腕により、新しいことを吸収する若手選手が右肩あがりで成長するのはもちろんのこと、30代後半や40代のベテラン勢も新たな領域に到達。
たとえば、パラリンピック5大会連続のハイポインターの46歳・島川慎一(バークレイズ証券)は、「ケビンは僕の持ち味のスピードとタックルを一段上のレベルに引き上げてくれた」と話す。重要局面で途中起用される場面が増え、強烈なタックルで流れを引き寄せ、次のライン(選手の組み合わせ)につなげる。徹底して積み上げてきた「ハードワーク」と「チームプレー」は、他国にない日本の強みとなった。
池は言う。「リオの時の日本代表と今の僕たちが勝負したら、10点以上開くくらい今のほうが強い。5年間、僕たちがやってきたことは間違いじゃなかったと、自信を持って言える」
池崎もこれまでの道のりを振り返り、「コロナ禍でいろいろな人が困難を乗り越えて、このパラリンピックという舞台ができた。そこで自分たちが5年間重ねてきた想いを、姿を見せ、元気を届けたかった。それをたったの5日間で終わらせるのはなかなかない気持ちになるし、その中の3位は悔しくて仕方がない」と話す。
そして、3年後のパリ大会に向けて、こう続ける。
「パラリンピックの借りは、パラリンピックで返す」
試合後、池崎とハグをして涙を流していた19歳の橋本勝也(三春町役場)は、池崎から「今大会はプレータイムが少なかったけれど、パラリンピックに出る覚悟を感じただろう、次はお前の番だ」と、言葉をかけられたと明かす。先輩から後輩へ、技術だけではなくマインドもこうして引き継がれていく。
日本車いすラグビー連盟によると、オアー監督の続投が決まっているといい、このまま帰国せずに来月には育成合宿を実施、参加する予定だという。いわずもがな、育成選手の成長はパリ大会に向けたチームづくりでカギとなる重要な取り組みだ。選手が増えれば、特に今の若手代表選手は刺激を受けることになるだろう。切磋琢磨し、今度はチームを支える立場へ。先輩たちのように力強く羽ばたいていく彼らの成長も楽しみにしたい。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu