東京パラリンピックは9月1日、有明アリーナで車いすバスケットボールの男子準々決勝が行われ、日本代表が2018年世界選手権3位の強豪オーストラリアを61-55で破って初のベスト4に進出した。
試合は今大会を通してめざましい活躍を見せている鳥海連志のファーストゴールを皮切りに、序盤から激しく攻守が切り替わるハイレベルなトランジションバスケの応酬に。その白熱した一戦でとりわけ存在感を示したのが日本代表の背番号55、香西宏昭である。
ゲーム展開が大きく動いたのは14-14の同点で迎えた第2クオーター。香西はスタートからこの試合初めてコートに立つ。そして14-16と一旦は勝ち越されるも、香西の放った3Pシュートが美しい弧を描いてゴールに吸い込まれると無観客ながら会場の空気は一変。ここからが「香西タイム」の始まりだ。テンポよく3連続ポイントで21-18とすると、その後も味方との巧みな連携プレーを駆使しながらリズミカルに得点を重ね、第2クオーターの10分間だけでなんと14得点をマーク。
パラリンピックには過去3大会に出場。日本人として初めてドイツ・ブンデスリーガでプロ契約選手となり、言わばパイオニアとして長く世界トップの舞台で戦ってきた。その経験値と培ってきた勝負眼がこの第2クオーターをカギと踏んだのか。激しい展開の中でも、淡々と自らのタスクをこなすように精度の高いシュートを放ち続ける姿はコートから少し距離のある記者席から見ていてもまさに鳥肌ものだった。「香西恐るべし」。あらためてそう実感させられるようなプレーだった。第2クオーター終了時のスコアは35-30。結果としてその5点差が勝利に大きく繋がった。
第3クオーターは再び鳥海がコートを縦横無尽に躍動する。豊富な運動量でリバウンドを立て続けに拾えば、この日13得点目となったバスケットカウントはチームをさらに鼓舞する上で申し分ないインパクトを放った。33歳の香西の活躍に呼応するかのように、若き22歳の情熱的なプレーはさらにギアが入ったような印象を受けた。
最終第4クオーターはオーストラリアの猛追を受け、一時は1ゴール差まで迫られる苦しい局面はあったものの、ここでも相手の勢いを寸断する香西の効果的なゴール、インサイドの大黒柱である藤本怜央の3連続ポイントなどで再び引き離すと、鳥海の鮮やかなターンオーバーからのゴールで勝負を決定づけた。香西はチームハイの20得点、鳥海は15得点・11リバウンドの「ダブル・ダブル」を達成、そして第4クオーターの勝負どころで力強さを発揮した藤本も14得点。若い情熱と世界を知るベテランたちの底力が極上のケミストリーを生み出したこの試合が、もしかしたら後に「日本代表を高みへと押し上げたターニングポイントだった」と評されるかもしれない。それほどの試合だった。
この夜の立役者、香西は試合後のミックスゾーンでも実に冷静に快挙を振り返った。
「(自身の活躍について)いろんな選手が積極的にアタックしてディフェンスラインを下げてくれたり、パスを供給してくれたり、僕がシュートを打てる場面をみんなが作ってくれました。だからチーム全員で取った得点だと思います。(ベスト4進出については)ここまで来たことがないので実感がわかないのと、喜び方がわからなくて。まだ目標(メダル獲得)を達成していないので次に向かっていきたいですね。チームは大会を通じてどんどん成長している。そういうところを歩んでいけるのは本当にうれしいですね」
注目の準決勝は9月3日の20:45試合開始。2018年の世界選手権覇者であるイギリスと対戦する。まだまだ香西宏昭の大仕事は残っている。
取材・文:徳原 海 写真:長田洋平/アフロスポーツ