世界王者イギリスとの準決勝でチームハイの20得点を挙げた鳥海連志
まずはこの日の試合を記者席から目の当たりにできたことを心から誇りに思う。
9月3日、車いすバスケットボール男子日本代表がイギリスとの大熱戦を制して見事決勝に進出。事実を俯瞰して捉え、冷静かつ明瞭に伝えるのがメディアの責務であることを承知しつつ、この試合だけは感情が昂るまま文にすることをお許しいただきたい。準々決勝のオーストラリア戦を凌駕する、すばらしい一戦だった。
試合はイギリスがバスケットカウントで3点を先制し、日本がすぐさま#13藤本怜央の3Pシュートで同点と、開始直後から激戦の“匂い”は十分。しかし第1クオーターはイギリスが2018年の世界選手権王者らしい強さを存分に発揮。#4ギャズ・ショウドリーのダイナミズムを軸にしたスピードあふれるパス回しや、#14リー・マニングの強力なインサイドプレーを生かしながら得点を重ねていく。その勢いに押されて日本は一時10点差をつけられるなど序盤は苦しい時間帯が続く。インサイドの強さ、アウトサイドシュートの精度、パスの速さなどあらゆる点でイギリスのレベルの高さを実感させられた。
15-23の8点差でスタートした第2クオーター、反撃の狼煙を上げたのは準々決勝の大活躍が記憶に新しい#55香西宏昭。得意の3Pシュートで先制ゴールを挙げると、そこから#2鳥海連志、#25秋田啓、藤本が得点を重ねながらじわじわ点差を詰める。ディフェンスも冴え渡った。イギリスのパスワークを寸断するハイプレスが光り、とりわけ持ち前のハードワークと気迫でマニングをシャットアウトした#8赤石竜我のプレーは圧巻だった。そして残り1分にこの試合の流れを左右するプレーが生まれる。アンダーカテゴリー時代から鳥海とともに注目を集めてきた25歳の若きシューター、#7古澤拓也の3Pが決まって33-36の3点差でハーフタイムを迎えた。
第3クオーターが始まると、その古澤の連続ポイントで37-36とついに逆転。流れをがっちりつかんだ日本は藤本、赤石が要所で得点し、ローポインターの#6川原凛がこのクオーターだけで6得点を挙げる活躍を見せる。52-46と、この試合初めてリードしてクオーターを終えた。
勝負の第4クオーターはまさに死闘。攻守が目まぐるしく入れ替わりながらハイテンポで両チームが点を取り合う。イギリスも最終的にゲームハイの26得点を挙げたショウドリーらが見せ場を連発。やはり強い。しかし日本の勢いは止まらない。香西がこの日3本目の3Pを皮切りに3連続ポイントを挙げ、鳥海が鮮やかなドライブ&フェイクからのシュートでイギリスを突き放す。最後は赤石のこの日8点目が決まり、79-68。そして試合終了まで残り2秒と少し。最後のタイムアウトを取った日本のベンチの映像に藤本が男泣きする姿が映ると、漫画スラムダンクを知る多くの人があの作中の名シーンに重ねたことだろう。
試合はそのままタイムアップ。11点差で日本が激戦を制して初のメダルが確定。終了と同時に鳥海も泣いた。4大会連続出場も今大会ではベンチを温める時間が長い#10宮島徹也も大泣きしている。そしてチームの輪からしきりに飛ぶ「まだ終わってないぞ!」の声。
チームハイの20得点を挙げてチームを牽引した若きエース鳥海、長年日本代表を支えきた大黒柱の藤本と香西、エネルギッシュなディフェンスでチームに活力をもたらした赤石、起死回生の連続ポイントで流れを呼び込んだ古澤、要所でいぶし銀の活躍を見せた秋田に川原…ヒーローを挙げたらキリがない。まさに全員バスケで勝ち取った勝利だった。
アメリカとの決勝は東京パラリンピック最終日の9月5日・12時30分。バスケに全てを賭けてきた男たちは一体どんなドラマを見せてくれるのか。まさにパラスポーツ、いや、その枠を超えてスポーツそのものの醍醐味を体現してくれているかのような今大会の車いすバスケットボール日本代表の戦いを、最後まで心して見届けたい。
取材・文:徳原 海 写真:森田直樹/アフロスポーツ
東京2020パラリンピック速報
車いすバスケ男子を初の4強に導いた、香西宏昭の真骨頂。