東京2020パラリンピックも終盤の9月3日、ゴールボールは幕張メッセ(千葉市)で男女3位決定戦が行なわれ、女子日本代表が同ブラジル代表を6-1で破り、銅メダルを獲得した。2012年ロンドン大会の金メダル以来、2大会ぶりのメダル獲得となった。トルコが大会2連覇を飾った。
銅メダルを手に笑顔を見せたゴールボール女子チームと市川監督
前回リオ大会での5位から女王返り咲きを目指して強化をしてきたチームにとって、手にしたメダルの色は5年間の強化の日々がすべて報われる色ではなかったが、チームは確かな進化と強さを示した。
「目標とした金メダルには届かず悔しい思いはあるが、銅メダルを手にできて、最低限、ひとつの結果を残せたと思うし、支えてくれた多くの方々に少しは恩返しになるかと思う。コロナ禍のなか、パラリンピックという舞台に立たせていただけたことに感謝している。金メダルを目指して3年後のパリに向けてまた強化したい」
天摩由貴キャプテンの大会後のコメントはチーム皆の思いだ。
今大会、銅メダルまでの道は決して平坦ではなかった。5チームずつ2組に分かれたグループリーグの初戦は、リオで金メダルのトルコに1-7で敗れ、黒星発進。久々の国際大会という緊張感も強く、固さが目立った。
2戦目のブラジル戦も終盤までリードしながら追いつかれ、4-4で引き分けた。つづくエジプト戦は10-0、アメリカ戦も3-2と連勝して決勝トーナメントに進出。準々決勝のイスラエル戦は4-1で勝利したが、準決勝で再び顔を合わせたトルコに善戦するも5-8で敗れて、3位決定戦に回っていた。
今大会は金メダル奪還を目指し、チームはナショナルトレーニングセンターでの年間200日を超える合宿を敢行してきた。コロナ禍ではあったが、練習環境が整備されたなか、質、量ともに充実した内容で技術や戦術を磨き続けた。
視覚に障害のある選手たちがアイシェード(目隠し)で視覚を完全に閉ざして行なうゴールボールでは、言葉によるコミュニケーションも大きなカギとなる。長期の合宿は日常生活からともに過ごし、コミュニケーションのベースとなる互いの性格や言葉遣い、クセなどにもふれて理解し、メンバー間や、さらにはコーチやスタッフ陣との信頼や絆を深めることにも役立った。
銅メダルという結果に、市川喬一総監督は悔しさをにじませつつ、前を向いた。
「メダル獲得をうれしく思う一方で、金メダルを獲得できなかった原因をしっかりと検証し、次のプロセスに進んでいきたい」
とはいえ、今大会でつかんだ手ごたえもあった。メンバー6人中、初出場の若手2人が躍動した。まず、攻撃陣でチーム最多の25得点を挙げたのはチーム最年少20歳の萩原紀佳だった。
萩原は日本勢のなかでは身長もあり、ここ数年、攻撃面で急成長している若手で、大会の1年延期によるメンバー再選考の末にこの3月、代表入りを勝ちとった。その期待に見事に応えた格好だ。
ボールを床に転がすグラウンダーを得意とするが、他の選手に比べてボールの中の鈴の音が鳴りにくい投げ方を身につけ、相手にボールの出所をつかませにくいという武器を持つ。
「初めてのパラリンピック出場で緊張したが、そのなかで自分が練習してきたパフォーマンスを出せてよかった。自分のボールが世界に通用することも確認できたし、オフェンス面で自信を持てた。得意とする音のしないグラウンダーで得点できたことはうれしかった」
萩原は自信を得るとともに、大会を通して新たな課題と目標も見つけたようだ。「準決勝で戦ったトルコのセブダ選手はもっと高いバウンド(ボール)を投げていた。(彼女に)近づけるようなボールを磨いていきたい」
守備陣では、4大会出場のベテラン浦田理恵が1人で担ってきた攻守の司令塔である「センター」のバトンを高橋利恵子が受け取り、試合を追うごとに成長を見せた。
「初戦ではディフェンス面で(力を)発揮できない部分もあった。ディフェンスの要として、しっかりゼロでおさえることをやっていきたいし、ディフェンスから試合の流れをつくれる選手になりたい」
具体的には守備の際、ボールを体に当てたあとのリバンドの処理を速くしたり、ウイングがより投げやすいパスを身につけたりしたいと話す。
「今大会では決勝の舞台に立てなかった悔しさもあるが、自分の課題を見つけたし、もっと練習して、もっと上を目指していきたい」
その若手2人が声をそろえるのは、先輩たちの存在や声かけによる心強さへの感謝の思いだ。
萩原は、「初めて(のパラリンピック)で緊張したが、先輩たちから試合前に、『やってきたことしかできないから、できることをやろう』と声をかけてもらった。気持ち的にもラクになった」と振り返った。
高橋は特に、2枚センターで起用された浦田の存在に感謝。「2人でつなぐゴールボールをしよう」と練習してきたと言う。もし、どちらかが調子を落としても、絶対にもう1人が後ろにいるし、逆にいい状況でつないだら、もう1人が試合を締めくくるという連係だ。
高橋は浦田から、「『私がバックにいるから、全力でやっていこう』と声をかけてもらって、すごく自信になったし、自分らしいプレーをしないと後悔すると思ってやれた」と、感謝の思いを口にした。
市川総監督は、「(萩原と髙橋は)今後、世界で活躍できる2人だと思っている。そういう意味では今回、若手、中堅、ベテランという三様の要素を持ったチーム構成にした意味があったなと思う」と、それぞれの役割をまっとうした選手たちを評価した。
母国開催のパラリンピックで、金を目指しての銅メダルは悔しい結果かもしれない。だが、今大会でつかんだ個人、そして、チームとしての自信や手ごたえは、3年後のパリ大会に向けた大きな糧になったはずだ。チームのさらなる進化を大いに期待したい。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko photo by YUTAKA/AFLO SPORT