東京パラリンピックで史上初の銀メダルを獲得した車いすバスケットボール男子日本代表。その喜びも束の間、閉会式の2週間後にそろって渡独し、早くも次なる戦いに挑んだのが、藤本怜央と香西宏昭だ。ともにドイツ・ブンデスリーガ(1部)のRSVランディルに所属し、主力としてシーズンを送ってきた二人が、5月6〜8日の3日間にわたって行われた「ユーロチャンピオンズカップ」に出場。ドイツ、スペイン、イタリア、フランスのチームとヨーロッパのクラブチャンピオンの座を争った。
初戦で藤本&香西のシュートが炸裂!
ヨーロッパのクラブチャンピオン決定戦「ユーロカップ」では、ランキングによって3つのリーグに分かれて優勝争いが繰り広げられる。そのうちトップレベルにある「チャンピオンズリーグ」では通常、予選ラウンドが行われ、上位6チームと前年の優勝、準優勝チームを合わせた8チームでの「クォーターファイナル」が行われる。さらにその上位4チームが「ファイナル4」に進出し、王座を狙う。
しかし、今年はコロナ禍のために予選ラウンドを行うことができず、前年に続いて非公式でのトーナメントを開催。ランキングの上位8チームが出場し、優勝が争われた。非公式とはいえ、世界各国の代表クラスが集結したクラブチーム同士の戦いに変わりはなく、いずれもハイレベルな試合が繰り広げられた。
ランキング3位のランディルは、初戦で同6位のビダイデック・ビルバオBSRと対戦。第1Qでいきなり2ケタのスコアをマークしたのが、香西だ。「ドイツリーグでは対戦しない相手と戦うのが楽しかった」という香西。序盤は3Pシュートがリングに嫌われ、得点できずにいたが、中盤に角度のないエンドライン際からのミドルシュートを入れて初得点を挙げると、エンジン全開に。ほぼ独壇場とした香西は、4分半で10得点をマークした。
この香西のプレーに刺激を受けたかのように、続く第2Qで躍動したのがランディルでも最年長の藤本だ。「久々のゲームで、試合前は少し緊張を感じていた」という藤本。その緊張感が高い集中力を生み出したのだろう。開始早々、インサイドからのシュートを決めると、その後も得点を量産。10分間で7本中外したのは1本のみで、フィールドゴール成功率85%という驚異的な数字を誇った。
さらに第4Qでは、ドイツ代表のトミー・ベーメーと競い合うように次々とネットに沈めていった藤本は、結局チーム最多、さらに自身としてシーズンハイの27得点を叩き出した。香西もこれに次ぐ23得点を挙げ、チームに貢献。疲れの見えた相手を第4Qで突き放したランディルが、86-69で快勝した。
藤本は得点、香西はゲームメイクで魅せた準決勝
準決勝の相手は、ランキング2位のCDイルニオン。東京パラリンピックに出場したメンバーが7人そろったスペインの名門クラブチームだ。なかでも最も警戒すべきは、イギリス代表のテリー・バイウォータ―。3Pシュートを含むアウトサイドシュートのスペシャリストだ。そのバイウォータ―を、第3Qまでフリースローの2得点に抑えたランディル。これが功を奏し、ビッグマン2人にインサイドを攻められるも、リードする展開となった。
その原動力となったのが、やはり藤本と香西だ。まずは藤本が第2Qで魅せた。特に34-34と同点の終盤、アメリカ代表ブライアン・ベルのバスケットカウントとなるレイアップシュートをお膳立てすると、その後は藤本自身が3連続得点でリードを広げた。
続く第3Qでは、それまで前日とは一転してシュートがリングに嫌われ、我慢の時間帯が続いていた香西がようやく初得点。これにランディルのベンチが沸き、チームが勢いづいた。さらに終盤にはベーメーが連続で3Pシュートを決めるなどして、59-57とリードした状態で最終Qへ入った。
その第4Q、満を持して自慢のシュート力を披露したのが、イルニオンのエース、バイウォータ―だった。2018年世界選手権覇者の実力を見せつけるかのように、序盤に立て続けに3Pシュートを決め、一気に試合の流れを引き寄せたのだ。ランディルも、香西がこの試合初の3Pシュートを決め、さらに味方のパスカットに素早く反応してターンオーバーからの速攻のチャンスに確実にレイアップを決めるなどして追い上げを図った。
しかし、「バイウォータ―が効果的に決めた3Pにやられた」と藤本が語った通り、74-75と1点差に迫った終盤、バイウォータ―にインサイドのシュートに続いて、この日3本目となる3Pシュートを決められて6点差に。この連続得点が試合を決定づけ、ランディルは77-83で敗れた。
それでも藤本はシュートが好調で、2Pシュートの成功率は72%、フリースローは100%で、チーム2番目に多い19得点。一方、香西はチーム最多のアシスト数(8)を誇り、ガードとしてチームをけん引した。
リーグファイナル前哨戦となった3位決定戦
最終日、ランディルは3位決定戦に臨んだ。相手は、ユーロのランキング1位で、ドイツ国内ではランディルと二強を誇るRSBテューリンギア・ブルズ。近年は毎年、ブンデスリーガ(1部)で優勝争いをしてきた因縁のライバルで、今シーズンもすでにプレーオフファイナルで両チームが激突することが決まっている。
その前哨戦ともなった3位決定戦。藤本は、「レギュラーシーズンの第2戦で負けて以来、ずっとつくりあげてきたことがどれだけ通用するかを試したかった」という。実際、内容からすれば、ランディルは決して悪くはなかった。ただし、シュートがリングに嫌われ続けた我慢の時間帯が前半に長く訪れてしまったことで、タフショットをも決めてきた相手と大きく差をつけられたことが痛かった。第2Qを終えて20-39と、ランディルは大きなビハインドを負った。
しかし、第3Qでは巻き返しのチャンスが訪れた。開始早々、鮮やかにフローターシュートを決めたのを皮切りに、香西が前半4分間で3Pシュートを含む9得点。この間のフィールドゴール成功率は80%という高い数字を誇っていた。ここでブルズは、たまらずタイムアウト。過去に何度も対戦し、彼の怖さを知っているだけに、ブルズの指揮官もシューターとしての存在感を増し始めてきた香西に脅威を抱いたのだろう。
ところがこの後、香西は第3Q残り4分でベンチに下げられた。スポーツの世界に“たれ・れば”は禁物だが、もしこの場面で香西が残り、藤本とブライアンの2人のセンターとのラインナップで臨んでいたら……。前半で11点差をつけられながら後半で巻き返した東京パラリンピックのカナダ戦を彷彿させるかのような劇的なシーンを期待してしまうほど、香西のプレーによって試合の流れが変わろうとしていたことは確かだった。結局、その後ランディルはさらに点差を広げられ、51-75と大敗を喫した。
しかし、下を向いている時間はない。15日には、今シーズンホーム最終戦となるプレーオフファイナル第1戦が待ち受けているからだ。試合後、香西が「プレスディフェンスをもう少し何とか工夫できないかと思っている」と語れば、藤本も「サイズのない自分たちが、サイズのある相手にどうすれば勝てるかを一番知っているのは僕と宏昭。東京パラリンピックではそれを証明している」と語った。
世界の高さに何度も跳ね返されながらも、東京パラリンピックでついに“世界2位”の称号を手に入れた藤本と香西。そんな彼らだからこそ、この苦しい状況を打開する術を知っているに違いない。
ランディルに移籍1年目の藤本にとっては初めてのファイナル。そして10日に今シーズン限りでの退団が発表された香西にとっては、初のリーグタイトル獲得のラストチャンスとなる。2人そろっての最初で最後の決戦は、もうすぐだ。
写真・ 文/斎藤寿子
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