「東京パラリンピックにはたくさんの笑顔と感動をもらいました。東京パラリンピックは終わりではなく、僕は始まりだと思っています」
国際パラリンピック委員会(IPC)特別親善大使などを務める、歌手で俳優の香取慎吾さんは8月23日、自らが企画したチャリティプロジェクトで集まった寄付金計3,900万円を、パラスポーツ競技団体支援などを行う日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ/東京・港区)に寄付。この日、都内で行われた贈呈式で今後も継続的なパラスポーツ支援を誓った。
このプロジェクトは「香取慎吾NFTアートチャリティプロジェクト」で、「パラスポーツに関わる人への感謝を形にしたい」「東京パラの感動を今年で終わらせたくない」という香取さんの想いから、東京パラ閉幕後の昨年9月に実施されたものだ。香取さんが2015年にパラサポ開設に寄せてエントランスに「i enjoy !」をテーマに描いた壁画(縦2.6m×横6.1m)を、NFT アートにして、1 点 3,900 円で販売。限定 1 万点をわずか 1 日で完売した。
NFT(Non Fungible Token/非代替性トークン)はブロックチェーン技術を用いて発行された代替不可能なデジタルデータで、コピーや改ざんがしにくく、デジタルデータに価値を持たせられるという特長がある。
香取さんは、「NFTアートという新しすぎる形のものに、1万人もの方々からパラスポーツを応援したいという気持ちを寄付という形で賛同いただきました。ありがとうございます」とプロジェクト参加者に感謝。「2年後には2024年パリのパラリンピックが迫っています。これからも一人でも多くの方に、一緒に応援し、パラスポーツを楽しんでもらいたいという気持ちでいっぱいです」
贈呈式で香取さんから目録を受け取ったパラサポの山脇康会長は、史上初の1年延期を経て、コロナ禍で開催された東京大会をふり返り、「困難な状況のなか、世界中から参加されたアスリートたちが、想像を越える最高のパフォーマンスと心に残るメッセージを世界中に発信してくれました。このアスリートの躍動を目の当たりにした香取さんが、『この感動を2021年で終わりにしたくない』とNFTアートチャリティを思いつき、実行してくれました」とプロジェクトの背景を説明。
「本日、香取さんとご賛同いただいた1万人の思いを込めたご寄付を頂戴することになり、あらためて御礼を申し上げます。これからのパラスポーツとパラリンピックムーブメントのさらなる発展のために大切に活用させていただきます」
寄付金のうち1,400万円はIPCに贈られる。東京パラ1周年に合わせて来日し、贈呈式にも参加したアンドリュー・パーソンズIPC会長は、「日本国民や日本社会には全世界がパンデミックで困難な状況に置かれているにも関わらず、パラリンピック大会やパラリンピックムーブメントをご支援いただき、心から感謝しています」と、コロナ禍での東京大会開催への協力に謝意を示した。
さらに、「香取さんにも、やさしさとお心遣いに感謝します。彼とは何度も話をしてきましたが、いつもパラリンピックやパラアスリートに対する熱意をひしひしと感じますし、常にどうやって支援しようかと考えてくれています。そして生まれたNFTアートチャリティプロジェクト。香取さん、そして、寄付をくださった1万人にも一人ひとりお礼に伺いたい気持ちでいっぱいです。若きパラアスリートの支援などに大切に使わせていただきます。カトリサン、アリガトウゴザイマス」
また寄付金2,500万円は事前に申請のあったパラ競技団体に贈られる。贈呈式に出席した日本パラ水泳連盟参与でハイパフォーマンスディレクターの櫻井誠一氏も競技団体を代表し、香取さんに感謝を伝えた。
「実はこの週末、パラ水泳のジュニアのキャンプを行い、子どもたちに去年のパラリンピックは見たかと聞いたら、皆が手を上げましたが『現場で実際に見られなくて残念だった』と言うのです。これを聞いて、もっと我々が主催する大会などでトップアスリートの高いパフォーマンスを見せたいと思いました。そのためには多くの方の支援が必要です。未来を担う子どもたちが障がいを乗り越え、自分の生きる道をつくっていく。その支えに、この寄付がなっていくと確信しています」
櫻井氏はさらに、「私たちは障がいのある子どもたちに、『パラリンピックは可能性の祭典』『困難があっても自分の可能性を信じて努力することが大事』と教えています。そういう可能性への挑戦を見せるのがトップアスリートであり、そういうアスリートたちを私たちが支援していくことがインクルージョンな共生社会につながっていくと思っています。競技団体として、その視点を忘れずにやっていきたい」と決意も口にした。
アスリートたちも香取さんにお礼を述べた。冬季パラリンピック・ノルディックスキーのメダリストで、東京パラにもテコンドーで出場し、7位入賞を果たした太田渉子選手は「1年前、無観客の困難ななかで東京パラは開催されましたが、日本、そして世界から多くの応援をいただき、勇気とパワーをいただきました。そのご恩を夏冬のパラスポーツの発展や子どもたちの笑顔のために微力ながら尽力していきたいです」と感謝と共に誓った。
また、東京パラのバドミントンで二冠に輝いた里見紗李奈選手も「パラアスリートは皆さんの応援や支援のおかげで競技をつづけることができ、このご寄付はパラアスリートが世界で活躍するための大きな活動支援となります。私はちょうど1年前、東京パラでシングルス、ダブルスともに優勝することができました。優勝して感じたのは私一人の力でなく、家族や仲間、ファンの皆さんの応援があり、ともに獲得できた金メダルだということ。今回、香取さんからいただいた寄付金がアスリートの活動の幅を広げ、ファンを増やし、私がパラリンピックで感じた以上にパラスポーツが広がっていくきっかけになると私は思っています。そのようにパラスポーツが広がっていく未来が、私は今から楽しみです」と笑顔で語った。
香取さんは、「皆さんから『ありがとう』をたくさんいただきましたが、僕はこの壁画を描いただけ。『賛同してくれた1万人の皆さんのおかげで、ありがとうをいっぱいもらっちゃった』と早くSNSで言いたいなという気持ちでいっぱいです。これからも皆で、パラスポーツを応援していきたい」」とほほ笑んだ。
2017年に稲垣吾郎さん、草彅剛さんとともにパラサポのスペシャルサポーターに就任した香取さん。18年には3人でパラスポーツ応援チャリティーソング『雨あがりのステップ』の売上金額全額(約2,300万円)をパラサポに寄付。その際、パーソンズ会長より打診され、東京大会に向けた IPC 特別親善大使に就任し、東京大会をPR。大会期間中にはSNSなどでの情報発信やメダルプレゼンターも務めた。
さまざまな活動でパラスポーツ普及のために尽力しつづけているが、今後の支援プランについて聞かれ、香取さんは力を込めた。
「一つひとつ積み重ねてはいますが、やばい、次は何をしようかな。必ず何かの形で……。自分はアートもするし、歌も歌うし、エンターテインメントのなかで何か気持ちよく楽しく、パラスポーツをもっと知って応援したいなと思えるような新しい形を、これからもつくっていけたらなと思っています」
写真・ 文/星野恭子