9月24、25日、愛媛県総合運動公園体育館で「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会 西日本第2次予選会」が開催された。東海北陸、近畿、中国、四国、九州の5ブロックごとに行われた第1次予選会を勝ち抜いた12チームが集結し、熱戦が繰り広げられた。その結果、優勝した伊丹スーパーフェニックス(近畿)、準優勝のワールドBBC(東海北陸)、3位決定戦で富山県WBC(東海北陸)に勝利したLAKE SHIGA BBC(近畿)の上位3チームが来年1月の天皇杯への切符を獲得した。
7月に行われた近畿ブロック予選会に続いて、今大会も全勝と圧倒的な強さを誇り、西日本の第1切符を獲得したのが、伊丹だ。エースの村上直広(4.0)は2016年リオデジャネイロパラリンピックに出場した経験を持ち、その後も2019年まで日本代表12人のメンバーに定着していたほどの実力の持ち主。東京2020パラリンピックには最終選考で惜しくも出場が叶わなかったが、特にアウトサイドのシュート力は国内トップクラスのハイポインターだ。
その村上をはじめ、チームにはキャプテンの堀内翔太(4.0)、川上祥平(2.0)、斉藤貴大(1.5)と男子日本代表の強化指定選手が4人、さらには東京2020パラリンピックメンバーで今年度も女子日本代表の強化指定選手に入っている網本麻里(4.5)が所属。まさに“西の王者”にふさわしいメンバーがそろっている。
また、クラス2.0ながらハイポインター並みの高さを持つ桑原旭祥の存在も大きい。村上、堀内、川上、斉藤の強化指定メンバーに桑原を加えた主力ラインナップは、3人のビッグマンを擁した強力な組み合わせだ。さらにベンチには、男子の中でも遜色ないスピードとシュート力を持つ網本、高さのある伊藤壮平(4.5/健常者)が控えている。
「強化指定選手を柱に、さまざまな組み合わせで、それぞれの強みを出せるのがうちのチームの強み」と三浦玄ヘッドコーチ(HC)が語る通り、選手層の厚さも申し分ないチームだ。
今回の2次予選会では、初戦(2回戦)で長崎サンライズ(九州)を86-46で圧倒。準決勝では同じ近畿勢のLAKE SHIGAを62-30とダブルスコアで退けると、決勝はワールドを60-38で破った。スコアを見てもディフェンスにも長けたチームで、非常にバランスが取れている。前回の天皇杯(2019年5月)では初戦敗退ではあったものの、11連覇した宮城MAXと激しく競り合い、好ゲームを披露している。それだけに、三浦HCは「あくまでもチャレンジャー」としながらも「一番てっぺんが目標」と意気込む。
決勝で敗れはしたものの、6人という少人数のチーム事情のなか、しっかりと天皇杯の切符を獲得したのが、ワールドだ。チームのキャプテンで、唯一の強化指定選手でもある竹内厚志(3.0)が欠場。それでも元日本代表もいるベテラン勢が毎試合40分間フル出場のなかで奮闘し、2日間で計4試合を戦い抜いた。準優勝という結果は、さすがのひと言に尽きる。
ワールドのバスケットは、トランジションの速い走るバスケットが主流となりつつある現在では異色とも言えるだろう。速さではなく形を重視するワールドは、ショットクロックをふんだんに使って相手のディフェンスを崩し、シュートチャンスを作り出す。速い展開を求める相手のバスケットに決して合わせることはなく、まさに独特な“ワールド(世界)”を作り出す。
広島Rise(中国)と対戦した1回戦、1Qから11-2と引き離したワールドは、62-27で破ると、2回戦では数年前までは強化指定に入り、インサイドに強い福澤翔(4.5)擁するライジングゼファーフクオカ(九州)と対戦。1Qから13-9とワールドのリードはわずかと激しい競り合いとなったが、2Qでは27-21と引き離して試合を折り返した。しかし、3Qでは2020年にはU23日本代表候補でもあった22歳の若きキャプテン赤窄大夢(2.5)にも連続得点が生まれるなど、フクオカが猛追。39-37とワールドのリードは2点とされたなかで、4Qへ突入。それでも最後は大島朋彦(4.0)、早稲田正浩(2.0)があわせて3本決めたフリースローの差で勝ち切った。
そして、勝てば天皇杯への切符を獲得する大一番の準決勝では富山と対戦。富山は、東京2020パラリンピックメンバーで今年度の強化指定選手でもあるキャプテン岩井孝義(1.0)をはじめ、2017年男子U23世界選手権に出場した寺内一真(4.5)、今大会最年少の17歳でU23日本代表の最終候補に残っていた小山大斗(3.5)の若手を中心に、安定したシュート力を持つベテランもいるチーム。その富山との試合、ワールドは1Qこそ6-6とドローとしたが、2Qで24-18と突き放すと、その後は一度も逆転を許すことなく、47-35で勝利した。
決勝では伊丹に大差で敗れはしたが、竹内などフルメンバーが揃わない中での準優勝は大健闘と言っていい。過去には日本選手権を4連覇、前回大会(2019年)は3位と、近年も毎回のように優勝に絡んでくる強豪なだけに、本戦では本来の実力が見られるに違いない。また杉浦寿信HCは「3Pシュートを1試合10本は狙っていきたい」と語っており、よりオフェンス力に磨きをかけて、17大会ぶり4回目の頂点を狙う。
今大会最後の枠を勝ち取ったのが、LAKE SHIGA。チームの中心は、今年度男子日本代表の強化指定選手に初選出されたキャプテン三元大輔(3.5)だ。ゲームメイクしながら、自らも高確率にアウトサイドのシュートを決め、2017年以来3大会ぶりの全国大会出場をもたらした。
さらに、三元以外にも司令塔の役割を果たせるようになった選手が台頭してきたことも大きかった。宮本涼平(1.0)だ。宮本は、2次予選会の1週間前までタイ・プーケットで行われた男子U23世界選手権に出場していた一人。キャプテンとしてチームをけん引し、プレーでも全試合でスターティング5に抜擢されるなど、主力として活躍した。
日本車いすバスケットボール界では史上初の金メダルに輝いた同大会から帰国後の宮本に感じた変化を、前野奨HCはこう語る。「僕もちょっとびっくりするくらいにプレーが変わりました。これまではどちらかというとカットインしたりスクリーンをかけたりと、ハイポインターを生かすプレーが多かったんです。それが(帰国後は)自分でボールを回してゲームメイクしてくれるようになった。大きな成長を感じています」
さらに存在感が大きかったのは、女子の清水千浪(3.0)だ。東京2020パラリンピックメンバーであり、今年度も女子日本代表の強化指定に入っている国内トップクラスの実力を持つ清水だが、磨き続けてきたシュート力は男子の中にあっても光っていた。今大会では4試合中3試合で2ケタ得点を挙げ、勝利に大きく貢献した。
そのほか、ベンチには同じく東京パラリンピックメンバーで今年度の強化指定選手でもある柳本あまね(2.5)がいるのも大きい。男子チームで女子選手がプレーする場合、コート上の5人のクラス(持ち点)の合計から、女子選手1名につき1.5点が減算されるというルールがある。そのため、クラス1.0の宮本と、本来クラス2.5の柳本を交代させることができ、リズムを変えることができるのだ。
そのLAKE SHIGAは、1回戦では香川WBC(四国)に64-47で快勝すると、2回戦では岐阜SHINE(東海北陸)を68-48で破った。準決勝では伊丹に1次予選会の雪辱を果たすことはできずに敗れたが、富山との3位決定戦では50-36で勝利し、天皇杯への切符を獲得した。
勝利をおさめた試合で特に光っていたのは、スペースを広く使い、オンボールとオフボールとのバランスが取れたオフェンスだ。前野HCによれば、「半年前まではすぐに自分のシュートレンジのところに走る直線的なプレーが多く、ディフェンスとの距離も近くてパスがつながりにくい状態だった」という。それを修正したことで、よりオフェンス力に磨きがかかったチームに仕上がったのだ。
2019年に第47回大会を開催して以来、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて中止が続いてきた天皇杯。今回は3年ぶりの開催となる。西日本のチームが優勝すれば、2004年以来15大会ぶりだ。宮城MAXをはじめ長きにわたって東日本に明け渡してきた王座を奪還するチームが現れるのか。西日本のプライドをかけた戦いは、2023年1月20、21日に東京体育館で行われる。
写真・文/斎藤寿子