将来はテニスに関わる仕事がしたい。そう夢見ていた高校生の頃に骨肉腫を患い、左ひざが人工関節になりながら、今では世界トップクラスの車いすテニスプレーヤーへと飛躍を期している三木拓也選手。メンズノンノ12月号では東京パラリンピックへの思いを中心に熱く語ってくれているが、大切にしている趣味の話など、誌面に掲載しきれなかった内容をあらためてメンズノンノモデル・遠藤史也とともにお伝えする。
三木拓也 TAKUYA MIKI × 遠藤史也 FUMIYA ENDO
遠藤 今日、練習を朝からじっくり見させていただきましたけれど、コートに入る前と、いざ練習が始まってからの三木選手の表情が全然違うことに驚きました。日々、どのようにスイッチを入れているのですか?
三木 練習前はわりとリラックスしている方。コートに入ってウォームアップしていくうちに緊張感が少しずつ出てきて、次第に他の雑念が取り除かれていく感じでしょうか。それと、常にコートには練習でも試合と同じ気持ちで入るようにしていますね。また自己評価が高い方ではないですが、なるべく自分の良いところにフォーカスして、ポジティブなイメージで入るようにもしています。
遠藤 そのように、毎日早朝から緊張感のある練習をこなし、しかも1年のうち3分の1以上は海外の大会を回られていて、テニスから少し離れて気晴らしする時間などはあるのでしょうか。
三木 もちろんオフもありますよ。休日は写真を撮るのが好きでして。今愛用しているのは「PENTAX K-30」というカメラで、ドライブがてら風景をよく撮りに行きます。とくに日の出や夕日が好きですね。
遠藤 そうなんですね! どのようなきっかけで写真が趣味に?
三木 もともと父親がアウトドア好きで、子供の頃によくキャンプに連れて行ってもらったんですよ。その影響で自然の風景が好きになったというのは大きいかもしれませんね。その後、大学時代に友人の影響で、本格的に自分で写真に収めていきたいと思って始めたらいつの間にかハマってしまいました(笑)。
遠藤 写真を撮ってるときというのは、三木選手にとってどんな時間ですか?
三木 とにかく夢中になれて、時間の経過を忘れることができます。テニスのプレー中はどうしても気持ちがピリッとしますので、だからこそオフはテニスから完全に頭を切り離したい。写真を撮りに外へ出ると解放されるんです。自分がイメージしていた通りに風景をきれいに撮れたときはすごく満足感がありますし、人や動物を撮ることで気持ちが癒されたりもします。
遠藤 それこそ撮った写真をSNSで公開したりもするのでしょうか。
三木 フェイスブックでは試合の詳細とともに自分で撮った写真をアップしたりもしています。
遠藤 写真を撮影することって、テニスにはどんなプラス面がありますか?
三木 一つはやはりテニスから離れることで一度気持ちをリセットできるところ。あと最近思うのは、いい瞬間や構図を撮るのに待つ時間・我慢する時間帯が多かったり、一枚撮るのにかなり失敗を繰り返すところ。そのとき足りない機材や要素をどう補うかとか、そういうところはテニスでも大切にしないといけないと考えるようになっています。そういう意味ではテニスとカメラは似てる部分もありますし、写真からテニスへのヒントをもらったりもします。常々海外にも持って行きたいなと思っていたので、実は最近、遠征用にもっとコンパクトな一眼レフカメラを買おうかと考えています(取材後、ソニーのミラーレスを購入)。
遠藤 そういうオンとオフのメリハリって、やっぱりトップアスリートの方も大切にされるのですね。
三木 はい、大事ですね。もちろん何をするにも頭の片隅にテニスがあってこそですが、違う刺激が競技生活に新鮮さを出してくれたりします。逆にテニスを続けているから見えてくる自分の内面の変化や精神面の成長もあり、それが他のことへの興味を広げてくれている部分もあると思います。
遠藤 最後にそんなテニスの話に戻りますが、車いすテニス選手として長くモチベーションを切らさずに上を目指し続けられている要因とは?
三木 当たり前ですが、一番はテニスが好きであること。病気をした当時、テニスに関わる仕事をしたいというビジョンがポッキリ折られてしまって、なんで自分なんだと思いました。でも競技が嫌いにはならなかったし闘病中もテニスに救われた部分もあります。何よりそんな中で国枝慎吾選手の北京五輪決勝のプレーを見て車いすでもテニスができるんだと知ったとき、自分もあんな風にプレーしたいと強く思ったし、その国枝さんがあれだけの結果を残してきてまだ上をめざしている。そういった人の姿勢をみるのもモチベーションの一つになっています。普段会うとお互いテニスの話はあまり深くしないんですけどね(笑)。
遠藤 東京五輪では、ぜひ国枝選手と三木選手の決勝が見たいですね!
三木 実現できるようにがんばります!
【プロフィール】
三木拓也さん
みき・たくや●1989年4月30日、島根県出身。テニスのトレーナーになるため体育大学進学をめざしていた高校3年時、左ひざに骨肉腫を患い人工関節に。闘病中、2008年北京パラリンピックで活躍する国枝慎吾選手に魅了され車いすテニスの世界に。2012年ロンドンで男子ダブルス入賞、2016年リオでは男子ダブルス4強、シングルス8強。
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Photos:Teppei Hoshida Composiotion & Text:Kai Tokuhara