男女各16チームが参加し、12月7日にポルトガル・マトジーニョスで開幕した「2022 IBSAゴールボール世界選手権」。大会9日目の12月15日、準々決勝が行われ、日本代表「オリオンJAPAN」女子は韓国と対戦。惜しくも2-3で敗れ、この大会で上位2カ国に入れば与えられたパリパラリンピック出場枠は獲得できなかった。日本女子の大会最終順位は5位だった。
パリへの切符獲得は来年開催予定のアジア・パシフィック選手権(開催日・会場未定)、または最後のチャンスとなる、パラリンピック予選ランキングトーナメント(23年8月/イギリス)で再び、挑戦する。
市川喬一総監督は、「(持ち味の)守備が崩れた。東京パラから1年半、(攻撃力も)強化してきたが、まだ結果がでなかった」と悔しさをにじませ、「この結果を受け止め、次の強化を考えなければ」と厳しい表情で語った。天摩由貴キャプテンも、「勝てるだけの練習はしてきたが、かみ合わない部分もあり、選手それぞれの力を発揮しきれなかった。次の2回のチャンスでしっかり(パリへの)切符を勝ち取りたい」と話した。
日本は予選グループBを勝ち点16(5勝1敗1分)の2位で、韓国は同Aを勝ち点15(5勝2敗)の3位で通過し、今大会では初顔合わせとなった。センター高橋利恵子、ライト萩原紀佳、レフト安室早姫が先発したが、試合開始直後、韓国のライトに立て続けに2ゴールを決められた。苦しい立ち上がりとなり、市川総監督がすぐにタイムアウトを取り、チームを落ち着かせた。
リズムを取り戻した日本は、高橋を中心にしまった守備と、コースを狙った攻撃を繰り返す。6分後には萩原が中央からの移動攻撃で相手センターの右を抜いて1点を返した。だが、前半終了間際に再び、韓国のライトの攻撃を止めきれず、1-3。
反撃したい日本は後半、安室に替えて欠端瑛子を投入し、萩原との多彩な移動攻撃や高橋のフェイクなどで韓国守備の壁を崩そうと試みるが、我慢の時間が続く。残り2分、欠端に替えて小宮正江を投入後、萩原が今度はセンターの左を抜き、1点差に詰めよった。残り1分を切ってからタイムアウトを繰り返し、策を練る日本。残り10秒でレフトに安室に戻してから、萩原が得意のストレートを放ったが、相手レフトにブロックアウトされて惜敗を喫した。
東京パラ銅メダル獲得後も長期合宿や海外遠征などで強化を続け、11月末に発表された最新ランキングでは世界1位にまで上り詰めた日本女子。5勝1敗1分と懸命に戦った予選リーグをふり返ろう。世界の各チームが進化を続ける中、決して楽な試合ばかりではなかった。
「重要な試合」と位置付けた、東京パラ銀のアメリカとの初戦を6‐2と快勝。4得点と勝利に貢献したエース、萩原は、「スロースタートが課題の日本だったが、初戦に勝ち、勢いよく出られてよかった」と笑顔で振り返った。続くポルトガルにコールド勝ち(11-1)、ブラジルにも苦しみながらも5-4で競り勝った。
波に乗ったかと思われたが、4試合目、ともに3戦全勝で並ぶイスラエルとの対戦で6-8と初黒星を喫した。萩原がファーストスローで先制点を奪うも追いつかれ、後半には今大会初めて相手にリードを許す苦しい展開となった。イスラエルには最近、勝ち越していたというが、それだけに研究されていたのかもしれない。守備の要、高橋は、「うまく緩急を使われた」と振り返り、市川総監督は守備が乱れての敗戦に、「勝てる試合だった。精神的に引きづらないようにしたい」と話した。
その後、オーストラリア戦は快勝(7-0)、ともに4勝1敗ながら得失点差で日本を上回るイギリス戦も2点を先行される苦しい展開だったが、萩原が前半と後半に1点ずつ返し、2-2のドローに持ち込んだ。市川総監督は「先に失点すると、こうなる」と話したが、疲労もたまるなかで踏みとどまれた試合を「負けなくて、よかった」と司令塔の高橋は振り返った。
予選最後のエジプト戦はその後の決勝トーナメントに備えてスタメン3人を休ませ、天摩、小宮、安室が先発し、5-0で完封勝利を収め、予選ラウンドを終えた。こうして日本は負けたら終わりの決勝トーナメントへと駒を進め、韓国戦に臨んでいた。
「今大会でのパリ出場枠獲得」という最大の目標は未達に終わったが、日本の現在地を知る貴重な機会となった。市川総監督によれば、「日本は先制されたときの勝率は約2割」と言い、今大会でも先制されたイギリス戦が引き分け、韓国戦は敗れている。引いて守る相手の壁をどうこじ開けるか、攻撃面での課題が改めて浮き彫りになった。
「私がもっと得点できれば……」と韓国戦を悔しそうに振り返ったのは萩原だ。「長期間の大会でも(1試合)24分間全力で投げ続けられる持久力をつけたい」と課題を口にした。
とはいえ、日本の総得点44のうち、韓国戦での2得点も含めチームトップの22得点を挙げる活躍だった。「東京パラでは主にグラウンダーで点を取ったが、今大会では東京パラ以降に練習してきたバウンドボールで得点を重ねられた」と手ごたえも語り、エースとして攻撃の幅を広げた進化も示した。
先発出場が最も多かった欠端は、「一発で得点できるチームではないので、指示されたコースに投げ続け、(チームで)点を取ることを強化したい」と投球の精度や連係力の向上を課題に挙げた。
競技歴21年のパラリンピアン、小宮正江は途中出場が多かったが、「後輩も育ってきているが、私自身もまだ成長できると感じられた。コート外で選手の話を聞いて、チームのコミュニケーションを深めることも私の役割かなと思う。一つずつ課題を整理し、チームとともに次への挑戦の道を進んでいきたい」と前を向いた。
安室はチームで唯一、3つすべてのポジションをこなし、さまざまな戦況下で起用され、ジョーカー的な役割を担った。「経験値としてはすごく積ませていただいた。不安も大きかったが、できた部分もあった。(最も経験の浅い)レフトではディフェンスに課題を感じたので、もっと強化すれば、攻撃でも安定すると思う」とさらなる成長を誓った。
守備力には定評がある日本だが、今大会で苦しんだ要因の一つに、「会場の音の聞こえ方」があった。広さの異なる2つのホールが使われ、日本の選手よれば、狭い方のホール2は「お風呂場のよう」に音が反響しボールの音が取りにくかったと言う。どのチームも公平に両ホールでの試合が交互に組まれていたが、実際、日本は全8試合中ホール2での4試合は1勝2敗2分け、ホール1では4勝だった。相手が違うので一概に比較できないが、ホール2の分が悪かった。
日本はコロナ禍でもナショナルトレーニングセンター(NTC)で年間200日を超える合宿を組み、技術力とチーム一丸の絆を高めてきたが、「好環境に慣れすぎたかもしれない」と市川総監督。多様な大会会場を考慮した対策も必要だろう。
攻守の司令塔、高橋は攻撃では速攻やフェイクを絡ませた「セットプレー」に手ごたえがあったといい、「今後はバリエーションやタイミング、連動性をもっと高めたい」と話した。守備では「多様な環境により速く慣れる対応力」と「強いボールにも耐えられるフィジカル」と課題を挙げ、「今回でパリの道が絶えたわけではない。一つひとつ強化して、必ずつかみたい」と力を込めた。
大会前に天摩キャプテンが「チーム全員がそれぞれの役割を果たして目標を達成したい」と話していたように、今一度、「自分の役割」を確認し強化して、パリへの切符を再びつかみに行く。
写真/吉村もと・ 文/星野恭子