ブラインドサッカーのクラブチーム日本一を決める大会、「第20回アクサ ブレイブカップブラインドサッカー日本選手権」のFINALラウンドが2月11日、町田市立総合体育館(東京都町田市)で開催され、決勝戦では創部4年目のパペレシアル品川が古豪、たまハッサーズに1-0で勝利し、大会初制覇を果たした。3位決定戦では前回覇者のfree bird mejirodai(以下、フリーバード)が同3位のコルジャ仙台ブラインドサッカークラブを0-0からPK戦の末(1-0)に下した。
両試合の得点からも想像できるように、有料試合で開催されたFINALラウンドは1点をめぐって闘志あふれる好プレーの連続だった。老若男女約900人の観客が埋めたスタンドからは時折、どよめきやため息がもれ聞こえた。
決勝戦はともに日本代表強化指定選手を複数擁するパペレシアル品川とたまハッサーズが、試合開始から攻守にわたり強度の高いパフォーマンスを見せた。均衡が破れたのは前半13分、パペレシアル品川のエース、川村怜が右サイドからドリブルで相手ゴール前に侵入。右脚で放ったシュートはたまハッサーズの田中章仁に阻まれたが、すかさずこぼれ球を拾うと、今度は左脚で冷静に合わせた。ボールはゴール左隅に吸い込まれ、貴重な先制点となった。たまハッサーズもベテラン、黒田智成らがゴールに迫るもネットを揺らすことはできず、試合は1-0で終了、パペレシアル品川に軍配が上がった。
大会MVP(*)と得点王を受賞した川村は、「20回という節目の、最高峰の大会で優勝できて嬉しい。(ブラサカへの支援が厚い)品川区でチームを作りたいと、3人で創設して4年目。日本一を目指してメンバーも増えたが、皆が特別な、欠かせない役割を果たしてくれて、日本一につながった」と感慨深げに、チーム一丸の勝利を喜んだ。ちなみに、チーム名の「パペレシアル」はスペイン語由来の造語で、「特別な欠かせない役割」を意味するという。
(*:各個人賞は準決勝ラウンド以降の成績で決定)
一方、4大会ぶり5度目の優勝を逃した、たまハッサーズの黒田は、「準優勝は悔しいが、お互いに良さを出し合ったプレーができ、とても楽しかった」と接戦を振り返った。前半11分には左コーナーキックから、フワリと浮かせて相手守備の壁裏に送ったボールを自ら拾ってシュートを狙う“技ありプレー”で観客を沸かせた。「本当は胸トラップして打とうと思ったが、(会場が)体育館でバウンドが思ったより高く上がり、ボール処理がヘディングになったので、ミートできなかった」と悔しさものぞかせつつ、「今までにないプレーをやってみたいと思っていた。ブラサカは2次元で進むプレーが多いなかで、3次元のプレーにチャレンジできてよかった。もう少し練習します」と笑顔。創造性あふれるプレーでブラサカの新たな可能性を示した黒田は敢闘賞にあたるアクサジャパン賞を受賞した。
決勝戦前に行われた3位決定戦も、前回表彰台チーム同士のプライドがぶつかり合う好ゲームとなった。日本代表や育成レベルの強化指定選手が多数在籍するフリーバードが押し気味にゲームを進めるも、守備を固めたコルジャ仙台がゴールを守り抜き、試合はスコアレスで終了。ルールにより3人制のPK戦に突入するも互いに譲らず、勝負はサドンデスへ。最後はフリーバード10番目のキッカー、キャプテンの永盛楓人が利き足の左脚を振りぬき、低い弾道のボールをゴール左下に突き刺した。「得意なコースに思いきり蹴ろうと思った。練習の成果が出せた」と値千金の1本に声を弾ませた。
チームメートの鳥居健人も、「勝って終わろうという目標は達成できた」としつつ、前回王者として臨んだ大会でこの日、「決勝ではない最後の試合になったこと、そして、流れの中で得点できなかったことは今後の課題。しっかり次を見据えて僕自身も含めてチーム全体が反省しなければ」と気を引き締めていた。
なお、両試合の間には、「ブラインドサッカー体験会」も開かれた。子どもたちに競技を通して視覚障がいへの理解を深めるきっかけとしてもらうことが目的だ。ゲスト参加した元リヴァプールFCのジョン・バーンズ氏は「目が見えずにプレーすることの難しさを強く感じた」と話し、タレントでブラサカ応援メンバーでもある、じゅんいちダビッドソン氏はブラサカの魅力に「ボディコンタクトの激しさ」を挙げ、「ファウルではと思うものもある。『サッカー系格闘技』として見ると、より面白い」とPRした。
今年、20回記念大会として開かれた日本選手権は、日本のブラインドサッカーの広がりとレベル向上を感じさせる大会となった。
2003年の初開催時は4チームだった出場数も、今年は北海道から沖縄まで過去最多タイの22チームに増加。昨年12月の予選ラウンド(大阪・堺市/千葉・つくば市)から始まり、準決勝ラウンド(静岡・浜松市)を経て、FINALラウンドまで4会場で6日間、全40試合が行われた。
準決勝ラウンドに進出したのはFINALラウンドを戦った4チームに加え、東日本リーグの埼玉T.Wingsとbuen cambio yokohama、中日本リーグの松本山雅B.F.C.、そして西日本リーグの広島のA-pfeile広島BFCの8チームだ。
松本山雅は初の予選ラウンド突破だった。準決勝ラウンドではたまハッサーズに0-2でA-pfeile広島に0-3で敗れたが、落合啓史ヘッドコーチ(HC)は、「(予選突破は)長野県勢としても初。チームとしてのステージがひとつ上がった。上位常連のチームとの細かい差を感じ、技術や選手層などに課題をもらえた。次のテーマはチームを、いろいろな部分から厚くすること」と収穫を語った。
松本山雅の躍進を牽引したのは16歳の平林太一だ。昨年、初めて日本代表に選出され、11月のアジア・オセアニア選手権ではイランから歴史的ゴールを奪うなど急成長中の若きエースで、日本選手権でも予選ラウンドのスフィーダ世田谷BFC戦、一人で17得点と大活躍。準決勝ラウンドでも得意のドリブル突破で何度も相手ゴールに迫ったが、相手から研究され堅守に阻まれて無得点。平林は、「強いチームと対戦して限界も感じた。自分のドリブルを生かすには周りのサポートも必要。チーム全体で強くなることが大事」と振り返り、日本代表での経験や学びを持ち帰ることで、「自分がもっとチームに伝えられるところもあると思う」と、さらなる成長を誓っていた。
一方で、北日本リーグのコルジャ仙台、佐藤暢HCは「関東のチームは対外試合の機会も多く、(実戦経験では)どうしても勝てない」と地方チームの課題を挙げた。同リーグには今季、仙台のほか、北海道に2チーム、青森と新潟に各1チームが活動しているが、「できれば東北6県にチームを作ろうと取り組んでいる。だが、なかなか根づかない」と苦労を明かした。
地域に根差したクラブチームの存在は競技の広がりや強化には欠かせない。競技を知り、始めるきっかけにもなり得、楽しみややりがい、仲間づくりにも役立つ。国内ルールではクラブチームは男女混合で、弱視や晴眼者もプレーできるため、多様な人たちとのコミュニケーションの輪を広げる機会にもなる。チームで大会に出場することは練習のモチベーションとなるし、日本代表に選ばれて世界への道が拓けるかもしれない。
なお、対外試合の機会確保については今季、リーグごとに開催される「地域リーグ」の参加条件が見直されるなど対策も見られた。各地の大会では体験会なども併催され、競技普及活動も行われている。今後のさらなる拡充を期待したい。
もうひとつ、ブラインドサッカー界として今季の大きな変化は国内トップリーグ「LIGA.i(リーガアイ)」が新設されたことだ。今年は4チームが参戦し、7月から9月のリーグ戦を経て初代王者には埼玉T.Wingsが輝いた。だが、同チームは日本選手権では準々決勝でパペレシアル品川に0-1で惜敗。この時、菊池充HCは、「LIGA.i優勝メンバーで臨んだが、試合前のアップから、(LIGA.iで3位の)品川の選手たちから『負けたくない』という気持ちが強く感じられ、うちはのまれてしまったようだ。今後、練習から見直し、巻き返したい」と振り返った。
LIGA.iと日本選手権では大会の意義や目的は少し異なるが、高いレベルでの試合機会が増え、チーム間のさらなる競争意識を生むなど、日本選手権の活性化や緊張感ある試合にもつながったのではないだろうか。
20回の節目を迎えた日本選手権。手ごたえや課題を糧に、歴史はこれからも刻まれていく。
写真/吉村もと・ 文/星野恭子