車いすテニスの「DUNLOP KOBE OPEN 2023」が4月6日から4日間にわたり、兵庫県三木山総合防災公園ブルボンビーンズドームで開催された。兵庫県車いすテニス協会が主催し、兵庫県をはじめ各種団体や企業、多くの市民ボランティアが協力して開催され、今年で28回目を迎える。日本人選手を中心に、マレーシアなどから海外選手もエントリー。男子、女子、クアードの各クラスで熱戦が繰り広げられた。
2009年大会から2019年大会まで女子シングルスを11連覇している上地結衣(三井住友銀行)は、新型コロナウイルス感染拡大のため中止となった2大会を含め、4大会ぶりに参戦。地元出身で今大会は大会副会長に名を連ね、実行委員として運営にも協力した。
第1シードの上地は、初戦の準々決勝、そして準決勝では相手に1ゲームも与えない完勝で決勝に進出。その決勝では、第2シードの船水梓緒里(ヤフー)を6-1、6-1で下し、12度目の頂点に立った。「船水選手のボールに対して、自分がアジャストするのに少し時間がかかった。打ちたい場所でボールを捉えられずにミスにつながったところもあったけれど、要所で締めることができたのはよかった」と、振り返った。
世界のトップシーンで戦い、自分のテニスを追求するなかで、理想のプレーを随時更新している上地。現在は「スピードを上げてプレーする」スタイルに近づけるため、競技用車いすを新調した。3月下旬に受け取ったばかりで、新車で試合に出るのは今大会が初めてだったそうだ。
フットレストの位置を下げ、骨盤が立っている状態に近くなるよう調整したため、より強い体幹とショットのバランスが必要になるという。そのためのトレーニングはしっかりと重ねてきており、「今までやってきたことは土台として自分のなかにある。新しい車いすにして、逆に元に戻したほうがよいとなっても、それが分かっただけでもプラスになる。(7月からパリ2024パラリンピックに向けたポイントレースが始まるが)そういうのを見極めながら、チャレンジしていければ」と、力強く話した。
男子シングルス世界ランキング2位で16歳の小田凱人(東海理化)は、1回戦から準決勝まですべてストレート勝利で決勝に駒を進めた。決勝では、ビン・ユサフ・モハメッド・ユザワン(マレーシア)と対戦。小田は多彩なショットで試合を組み立て、粘る相手を6-0、6-2と振り切って初優勝を飾り、「初戦からすごく調子が良い状態で臨めていた。思い通りのテニスができた」と、笑顔を見せた。
試合後は、所属先の応援団の人たちやファンから求められるサインや写真撮影に応じていた小田。観客のひとりからは「想像以上のプレーだった」と声をかけられたといい、「すごく嬉しかった。予想外のプレーや、観ている人の想像を超えるようなショットやチェアワークは自分が求めていることのひとつ。これからもプレーで期待に応えていきたい」と語った。
4月18日に開幕する「天皇杯・皇后杯 第39回飯塚国際車いすテニス大会(Japan Open 2023」にもエントリーしている。グランドスラムに次ぐグレードのスーパーシリーズに位置づけられ、世界のトップランカーが参戦予定だ。この大会でも初優勝を狙う小田は、「全力で戦う。日本でプレーする機会は少ないので、すごくワクワクしているし、車いすテニスを知らない人にもぜひ観てほしい」と、言葉に力を込めた。
下肢だけでなく、まひなど上肢にも障害があり、男女混合で実施されるクアードは、第1シードの宇佐美慧(LINE)が順当に決勝に勝ち上がり、東京2020パラリンピックのダブルスで銅メダルを獲得したベテランの諸石光照(EY Japan)と対戦した。ふたりは3月のマレーシアで行われた2大会で対戦して1勝1敗としており、雌雄を決するこの一戦に注目が集まった。
試合の序盤、宇佐美がサービスエースとコースを突くショットで展開を作って第1セットを奪取すると、第2セットは諸石が取り返し、セットカウントは1-1に。第3セットはニューボールに柔軟に対応した諸石が主導権を握り、5-1とリードを広げる。そこから宇佐美も動きを取り戻し、正確で力強いストロークで粘って3ゲームを連取するが、最後は諸石が勝ち切り、勝利を手にした。
フルセットの激闘を制し、通算5度目の優勝を果たした諸石は、「マレーシアの大会のあと、『次が本当の勝負だ』という話を宇佐美選手としていて、今回本当に決勝で当たることができてよかった。今日は地元から応援団が来てくれて、負けるわけにはいかないと必死だった。最後は勝ててよかった」と、安どの表情を見せていた。また、宇佐美は「あと一歩だった」と悔しさをにじませつつ、「諸石選手は百戦錬磨。僕もまだまだ頑張らなければ」と話し、前を向いた。
男子ダブルスは、齋田悟司(シグマクシス)・餌取陽太(TTC)組がマレーシアペアにストレートで敗れて準優勝。齋田と餌取は今大会で初めてペアを組んだといい、2023年度前期JWTA(日本車いすテニス協会)U-22強化指定選手に選ばれている19歳の餌取は、「(パラリンピックメダリストの)齋田選手に主に作戦を練ってもらって、うまく対応できた。決勝では負けてしまったけれど、この大会で齋田選手と組めていい経験になった」と話し、顔を上げた。
女子ダブルス決勝は、上地・高室侑舞(マサスポーツシステム)組と船水・佐々木千依(佐々木製材所)組が激突。上地・高室組は上地の強打や、高室の勢いのあるフォアのクロスショットで主導権を握り、ストレートで勝利した。高校2年の高室は昨年、四大大会で初めて実施された全米オープンのジュニア車いす部門に出場し、女子シングルスで準優勝の成績をおさめるなど伸び盛りの選手。「これからも着実にひと大会、ひと試合ずつ自分らしいプレーをしていきたい」と語った。
クアードは、第2シードの池田拓也(三菱オートリース)・諸石組が、第1位シードの當間寛(フリー)・宇佐美組を6-3、6-3で下し、優勝を果たした。池田は25歳、諸石は55歳と年の差ペアだったが、息の合ったプレーで会場を沸かせていた。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴