4月18日~23日の6日間、「天皇杯・皇后杯 第39回飯塚国際車いすテニス大会(Japan Open 2023)」が、いいづかスポーツ・リゾートテニスコート及び県営筑豊緑地テニスコート(福岡県飯塚市)で開催された。
飯塚国際車いすテニス大会は1985年に第1回大会が行われ、現在はグランドスラムに次ぐ「スーパーシリーズ」のグレードに格付けされていることから、世界トッププレーヤーたちが集結する大会として知られている。新型コロナウイルスの影響により4年ぶりの開催となった今大会にも、東京パラリンピックのメダリストをはじめ世界で活躍するランカーが集い、白熱した試合で観客を魅了した。
女子シングルスでは上地結衣(世界ランキング2位 ※大会開催時)が前回大会に続き準優勝、ダブルスでは、上地/ホタッツオ・モンジャネ(南アフリカ)組が優勝、大谷桃子/イスカ・グリフィオエン(オランダ)組が準優勝に輝いた。
日本の車いすテニス界を牽引する上地は、いま新たな挑戦の真っただ中にいる。
再び世界のトップに返り咲くため、倒さなければいけない相手がいるのだ。その相手とは、東京パラリンピック・女子シングルスとダブルスで金メダルを獲得し、今回のジャパンオープンではシングルスで連覇を果たした、ディーデ・デフロート(同1位、オランダ)だ。
「この数年、なかなかデフロート選手に勝てなくて、何かを変えたいけど何を変えたらいいかわからない。その中でプレースタイルや打つショットを変えてみたりしたが、自分が打てる球の威力だったり、準備にかかる時間の誤差に限界を感じつつあった」
頭の中にあるテニスを表現したい、もがく中で導いた答えのひとつが、車いすを変えることだった。リオパラリンピック後から6年以上乗り続けた車いすを乗り換えること、それはとても勇気のいることだ。
「もちろん怖いですが、でも変えなかったら何も変わらない。もっと強くなりたいし、もっと勝ちたいと思った時に、それが車いすとは限らないけど、これまでやってきたことを続けるだけでは、勝ちは見えてこないと思った。思いついたのなら、たとえダメだったとしてもやるべきだと考え、トライしてみようと思った」そうして構想を含めると1年をかけて、新たな相棒が出来上がった。
足元を5センチ下げ、座面の奥行を短くした。骨盤が起き中腰のような状態を作っているという。よりボールに力を伝え、パワーのあるショットを打ち、相手に主導権を握らせないようにするのがコンセプトだ。様々な競技用車いすを手掛けるメーカーの強みを生かし、上地ならこれくらい乗れるだろうという知見をもとに、車いすバスケットボールのエッセンスをテニス用に落とし込んでデザインされた。
新車に潜む能力は未知数だらけ、それに身体が起きる分、車いすを乗りこなすための体幹やバランス等の身体作りも必要だ。それでも、「せっかく作ったから使わないともったいない」と、乗り始めて数週間にして試合で使う決断をした。3月末に乗り換え、今回が3大会目。今は、この車いすでできることを先入観なしに全部出して、理解している時期だと話す。これができる、あれもできる、これは前より難しい…と毎日発見があって「楽しい」と上地は声を弾ませる。
今大会、デフロートとの決勝は0-6、4-6と敗れはしたものの、わずか1セットの間に自分の動きを分析して相手の球にアジャストさせ、ついにはノータッチでエースを奪うまでのパフォーマンスを見せつけた戦いぶりは圧巻だった。飽くなき向上心で挑戦をも楽しむその先に、確かな希望の光を見た。
そして、ダブルス準優勝の大谷桃子(同5位)は、東京パラリンピックの女子ダブルスで上地と銅メダルを獲得したことも記憶に新しい。
久しぶりに国内で、しかも地元・九州での試合とあって緊張したと話すが、シングルス初戦を終え語られた「優勝を狙ってきた」という言葉には、しっかりとトレーニングを積めたという充実感が表れていた。
2020年9月に自身初のグランドスラムとなる全米オープン出場を果たすと、同10月に行われた全仏オープン・準決勝でデフロートを破り、翌年のウィンブルドンでは上地からも白星をあげた。
車いすテニスを始めた頃、コーチと話し合い、トップ選手たちが出場する大会にはあえて出ずに、グレードの低い大会で優勝を重ねながら地力をつけてきた。地道に、着実にステップアップしてきたことが自信へとつながり、グランドスラムに出場するようになってからは、「この中で勝っていかなければいけないという意識づけができたことが大きかった」と躍進へと至った道のりを振り返る。
現在の目標は、10月に中国で開催されるアジアパラ競技大会での優勝。来年のパリパラリンピック出場の切符がかかる大会だ。そしてパラリンピックまでにグランドスラムのタイトルをとることが、もうひとつの目標だと語る。やりたいテニスが自分の中にある。一歩、また一歩と大谷は前進していく。
昨年5月の国別対抗戦(ワールドチームカップ)で、上地、大谷と共に強豪のオランダを破って日本女子初となる優勝を果たした田中愛美(同7位)と船水梓緒里(同12位)。田中は女子シングルス・ベスト8に。船水は今大会でスーパーシリーズ初勝利を収め勢いに乗る。
高みを目指し、頂点を目指し、挑戦を続けるアスリートたち。笑顔と涙、悔しさと喜びの先に、きっと追い求めた景色があることだろう。
文/張 理恵