「2023ジャパンパラボッチャ競技大会」が19日から2日間にわたり、駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場で開かれ、各クラスの個人戦が行われた。
ボッチャは重度の脳性まひ者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のためにヨーロッパで考案されたスポーツ。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、青と赤のそれぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てるなどして、いかに近づけるかを競う。
東京2020パラリンピック(以下、東京2020大会)の脳性まひBC2男子の金メダリスト・杉村英孝(伊豆介護センター)や同クラスの世界ランキング2位の廣瀬隆喜(西尾レントオール)らトップ選手もエントリーした今大会。そのなかで注目したのは、運動機能障がいBC4男子の内田峻介(大阪体育大)だ。昨年12月にブラジルで開催された世界選手権では初出場ながら優勝を果たすなど、勢いに乗る若手選手だ。
初戦は同世代の宮原陸人(あいおいニッセイ同和損害保険)と対戦。第1エンドは自身のコースをうまく作る配球でアプローチしていき、いきなり4点を先制。その後、徐々に投球の精度が落ちてしまうものの、追い込まれた場面でジャックボールにピンポイントで当てて動かし、自身の得点にするなど勝負強さを発揮。6-2で勝利した。
第2戦の相手は、日本選手権優勝経験のある強敵・藤井金太朗(三建設備工業)。丁寧な投球でジャックボールを囲っていく藤井に対し、内田はパワーを活かした強いボールや、山なりのロビングボールなどで戦局を変えていく。失投があっても、次の投球はきっちりと狙いどころに置いて悪い流れを断ち切るといった修正力の高さも光り、9-0で完勝。昨年に続き、このクラスの頂点に立った。この試合が行われた20日は、内田の21歳の誕生日。内田は「こういう日に勝ち切れて嬉しいです」と、笑顔を見せた。
山口県宇部市出身。県立山口南総合支援学校中学部2年からボッチャに取り組み始め、翌年にはアスリート発掘事業「J-STARプロジェクト」に参加。2021年に大阪体育大学教育学部に入学し、一人暮らしに挑戦しながら、アダプテッド・スポーツ部で東京2020大会日本代表コーチの曽根裕二氏の指導を受けている。
東京2020大会は、日本代表を決める選考会で敗れて出場を逃した。その悔しさを糧にして心技を磨き、2022年の日本選手権では涙の初優勝を果たした。さらに継続した努力が実を結び、冒頭で触れた世界選手権では、東京2020大会のメダリストや入賞者と堂々と渡り合い金メダルを獲得。一躍、世界のトップの仲間入りを果たした。
ただ、日々研鑽を積むライバルたちも黙ってはいない。内田のプレーは彼らに研究され、世界各国から100人以上の選手が集結した今年4月の「モントリオール2023ワールドボッチャカップ」では、グループラウンド敗退を余儀なくされた。「大量失点もしてしまったし、反省点ばかり。基本的な技の精度ももっと高めないといけない」と、内田は気を引き締める。
カナダでの敗戦以降、内田は使用するボールの種類を変更した。ボッチャのボールは人工皮革と天然皮革のものがあり、一般的に硬いボールはよく転がり、また相手のボールを弾きやすく、柔らかいボールは寄せるのに向いていると言われる。内田はその硬いボールと柔らかいボールの構成は変えずに、素材のバリエーションを増やしたそうだ。使い分けや力加減の調整が必要になるが、戦術に広がりが出るようになったという。今大会は自身の感覚どおりに押し切れないシーンもあったが、「新しく取り入れた人工皮革のボールはまだ練習中だけど、慣れてきた。もっと精度を上げていきたい」と、言葉に力を込める。
内田は今季、日本代表「火ノ玉JAPAN」のキャプテンを務める。「自分のいいところは、声を出すところ。チームを盛り上げるのは得意なので、火ノ玉JAPAN全員が国際大会でベストパフォーマンスを発揮できるようにできたらいいな」と内田。井上伸監督によれば、前キャプテンの杉村や廣瀬ら先輩選手のサポートを受けながら懸命に大役に取り組んでいるといい、「若い世代の選手からも意見が出やすい」と評価する。
内田にとってキャプテンは“人生初”の経験だという。ボールの変更も含めて、今季のテーマに掲げる『挑戦』に全力で取り組んでいる。「これから大事な国際大会が続く。しっかりと準備して、悔いの残らない一年にしたい」と内田。来年のパリ2024パラリンピックの出場を目指し、前を向いて進んでいく。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴