10月18日から3日間の日程で、男子車いすテニスの「木下グループ・ジャパンオープン車いすテニスチャンピオンシップス」が東京・有明テニスの森公園で開催され、20日のシングルス決勝で、第1シードで世界ランキング1位の小田凱人(東海理化)が第2シードで同8位の眞田卓(TOPPAN)を6-3、6-3のストレートで破り、大会初優勝を飾った。
「去年、優勝できなかったので、今年は優勝できで嬉しいです。今日の試合は昨日よりはるかに調子がよく、サーブという課題も今日は確実にクリアでき、本当に満足できる試合ができました!」
17歳の小田は「ジャパンオープン」には2年連続3度目の出場で、昨年は初めて決勝に進出したが、元世界ランキング1位で、今年1月に引退した国枝慎吾さんに3-6、6-2、6-7(3-7)のフルセットという激闘の末、惜しくも敗れ準優勝となっていた。
その後、今季は6月の全仏オープンでグランドスラム初優勝を果たし、史上最年少で世界ランキング1位となった。つづくウィンブルドンも初制覇しグランドスラム2連勝を達成したが、9月の全米オープンでは1回戦で52歳のベテランでパラリンピックメダリストのステファン・ウデ(フランス)に1回戦敗退を喫していた。
その全米オープン以来となった今大会。「注目度やプレッシャーは、(全米より)今大会のほうが大きかったと思う。その中で、(プレッシャーを)自分の中でうまくパワーに替えて試合ができた」と振り返った小田。
実際、18日の1回戦で世界ランキング25位の(GAテクノロジーズ)に6-1、6-0で快勝し、「いい流れで試合ができたし、サーブで得点できたので、次につながると思う」と手ごたえを口にした。
19日の準決勝では同18位の鈴木康平(AOI Pro.)のサーブに苦戦し、第1セットを3-6で落とす。だが、ここですぐさま「(第1セットはサーブに)力が入りすぎて、エースを狙いすぎた」と冷静に分析。第2セットはしっかり修正して6-2と盛り返し、最終セットは6-1と圧倒。逆転勝ちで決勝に進出した。
準決勝後、「かなり厳しい戦いになった。スタートが課題だと思った」と語っていた小田は迎えた決勝戦では、相手の眞田が「スタートから全開だった」と舌を巻いたように、終始集中力を切らさない、戦いぶりを見せた。
第1セット、得意のサービスゲームからスタートした小田は確実にキープすると、第2ゲームでは早くもブレークに成功。パワフルなサーブからのエースや3打目の強打などで確実にポイントを重ねていく。第5ゲームでブレークバックを許したが、それでも直後の第6ゲームで2度目のブレークを奪うなど6-3で先行する。
第2セットも武器であるサーブに巧みなネットプレーなども織り交ぜながら、第3ゲームと第7ゲームでブレークしリードを広げる。第8ゲームでブレークされるも、第9ゲームは40-30から相手コート右隅にパッシングショットを打ち抜きゲームセット。勝利のガッツポーズ後に、「今大会準決勝から始めた」というラケットをギターに見立てた“アーティスト”パフォーマンスで自ら祝福の歌を奏でた。
「去年は決勝で負けましたが、今年は僕が主導権を握って最初から最後までプレーできました。去年よりも、きっといい姿を皆さんにみせることができたんじゃないかなと思います。多くの人に観てもらって、車いすテニスの素晴らしさだったり、かっこよさ、スピーディーなテニスを見せられたと思います」
昨年大会は準優勝者として臨んだオンコートインタビューで、「また帰ってきます」と力強く宣言していたが、1年後の今年、「実行できて嬉しい」と笑顔で話した。
小田はこの後、10月22日開幕の「杭州2022アジアパラ競技大会(中国)」、10月30日からの「NECシングルスマスターズ(スペイン)」と連戦を控える。アジアパラ大会で優勝すれば、ずっと目指してきたという夢の、「パラリンピック出場」が決まる。
今大会優勝後のオンコートインタビューでは子どもたちに向け、「僕も幼い頃から、夢を追いかけてきました。皆さんも夢を諦めずに頑張りましょう!」と呼びかけた小田。これからも、「憧れのヒーロー」として先頭に立ち、努力を重ねて夢を実現する姿をしっかりと見せていく。
同じく20日に行われたダブルス決勝は、シングルス決勝からの連戦となった眞田とステファン・ウデ(フランス)のペアが鈴木・齋田悟司(シグマクシス)組を6-4, 6-3のストレートで下し初優勝を飾った。眞田・ウデ組は9月の全米オープンも初制覇しており、貫録を見せた。
グランドスラム初優勝の手応えと自信を胸に今大会を戦った眞田は決勝後、「少し競るシーンが何回かありましたが、ステファンとしっかりコミュニケーションをとって、最後までアグレッシブなプレーができました」と充実感をにじませた。
パラリンピック勝利など数々の実績を残す52歳のベテラン、ウデは「真田と全米オープンのダブルス優勝後に彼の母国でプレーできたこと、多くの観客の前で戦えたことを光栄に思います。私にとっても大きな意味のある大会になりました。日本の皆さんは車いすテニスについてとても理解があり、応援してくれているからです。世界的に見ても稀有な素晴らしい状況だと思います」と話した。
眞田は今季、ウデと組むのは3大会目となったが、ウデとのプレーで「たくさんの学びがあった」と振り返る。技術的にはダブルスの試合展開や冷静に分析した戦況に対応して即座に立てる戦略などが大いに参考になったという。
さらにメンタル面でもいろいろ学んだが、なかでも印象に残っているアドバイスが、「スマイルを忘れるな」だという。「アグレッシブさは保ちつつ、常に試合を楽しむこと。ミスをしてもネガティブにならないこと」だ。
全米オープンではそういう思考を「初戦からファイナルまでずっとできたから、優勝につながりました」と振り返り、「今大会もそうでしたが、これからもずっと続けていきます」。
眞田は38歳。「パフォーマンスとしてはピークを過ぎ、パワーやスピードはトップの若い選手にはかなわないと思っています。でも、パワーやスピードだけでは戦えない狙える部分もある。ベテランプレーヤーとして自分のミスは少なくし、相手から確実にポイントを奪っていければ、まだまだ(若手にも)勝てる可能性はあるかなと思います」。
新たに「スマイル」という武器を手に入れた眞田はプレーを楽しみながら、勝つ楽しみも追い求めていくつもりだ。
写真/吉村もと ・ 文/星野恭子