杭州2022アジアパラ競技大会のパラバドミントンは、シングルスで男子車いすWH2の梶原大暉(日体大)と女子車いすWH1の里見紗李奈(NTT都市開発)が、それぞれ決勝でライバルを下し、金メダルを獲得した。パラバドミントン、とくに車いすクラスはアジア勢が世界を席巻している競技。ここでタイトルを獲ることは、大きな意味と価値がある。優勝したふたりは「すごく自信になる」と、笑顔を見せた。
男子シングルスWH2の東京パラリンピック金メダリストで昨年の世界選手権を制した梶原は、アジアパラは初出場。ライバルたちから警戒されるなか、盤石の試合運びで頂点に立った。
まず、梶原は総当たりの予選ラウンドを全勝で突破。第1シードの決勝トーナメントは準々決勝から登場し、インドネシアの選手にストレートで勝利。続く準決勝では、陳浩源(香港)と激しく競り合い、22-20で第1ゲームを先取。その勢いをキープし、第2ゲームも取り切った。決勝は、準決勝で元世界王者の金正俊(韓国)に17点、18点で競り勝った20歳の于秀荣(韓国)と対戦することになった。
ちなみに、このベスト4に残った4人は現在の男子WH2をけん引する存在であり、ライバルとして切磋琢磨する仲だ。今季、梶原はそれぞれの選手に連戦連勝しているが、本人いわく「自分が少しでも狂うと、やられてしまう」というほどの強敵ぞろいだ。その言葉のとおり、陳との準決勝は、自分のミスから連続失点を重ねてしまった。
そこで決勝は、その反省を活かして序盤から精度の高いクリアとカットで相手を動かし、前衛もぎりぎりインとなるショットを繰り出す梶原。第1ゲームの前半は于の好プレーもありリードを許すが、10-13から脅威の8連続得点で一気に突き放し、21-15で先取に成功する。第2ゲームもロングラリーから揺さぶりをかけて相手のミスを誘うなど冷静なプレーを展開し、中盤と終盤にそれぞれ7連続得点と、于を圧倒した。梶原の圧巻のパフォーマンスに引き込まれた地元の観客からは、大きな歓声と拍手が送られた。
東京パラ後、チェアワークだけではなく、体力強化にも取り組んできた。梶原は決勝を振り返り「今日は比較的スピードも上げてできた。取り組んできたことが出せたと思うし、今季のなかでもいい試合ができた」と、納得した表情を浮かべる。
強くなるためにライバルの存在は欠かせない。彼らを倒してきたからこそ、世界1位に君臨しているのだ。だが、梶原を突き動かしているのは「誰に勝つか」ではなく「自分がやるべきことをやるだけ」というブレない想いだ。
梶原は「自分はぜんぜん完璧なんかじゃないです。技術的なところも、試合の組み立てや配球もまだまだ足りないし、チェアワークも体力もまだ伸びしろがあると思っていますので」と話し、来年のパリパラリンピックまでの数カ月間についても「妥協せずに、自分に厳しくやっていくつもりです」と、力強い。
パラバドミントンを極める求道者。若きキングは、ずっと前を見つめ、自分の道を歩んでいく。
女子シングルスWH1の里見は、スジラット・ポッカム(タイ)を21-15、21-19のストレートで下し、頂点に立った。アジアパラは前回のジャカルタ大会に続いて2度目の出場で、優勝するのは初。里見は「欲しかったタイトル。いつもの国際大会より、みんなひとつ、ふたつギアが上がるなかで勝てたのは嬉しい」と、笑顔を見せた。
シングルスでポッカムと対戦するのは今年3度目。いずれも里見が勝利しているが、直近の2試合はポッカムに第1セットを奪われ、そこから逆転する展開だった。自身を「スロースターター」だという里見はこの日、序盤から相手の揺さぶりに必死で食らいつくもミスが出て、また課題のフォア奥に鋭いショットを決められるなどして、4点差をつけられてしまう。しかし、ここから粘りを見せて逆に相手を前後に動かし、8連続得点に成功。第1ゲームを先取した。
第2ゲームはラリーに持ち込み、想定どおり相手の体力が落ちたところを突いてポイントを重ねていく。後半に逆転を許すがすぐに追いつき、最後は3連続ポイントで突き放した。「スジラット選手と対戦するときは、いつもファイナルを戦う覚悟でいる。今日はストレートで勝てたのが、すごく嬉しいです」
このクラスは、里見の連勝が続いている。試合で負けたのは2021年の東京パラリンピックのシングルス予選で尹夢璐(中国)に敗れたのが最後。その尹とは今大会の準決勝でも対戦し、フルゲームにもつれる接戦になるなど、変わらず手ごわい相手だ。
「『サトミを倒せ』という雰囲気は感じます。負けられないプレッシャーもありますね。でも私はそう思ってもらえるほうが燃えるタイプ。泥臭いプレーが身上だし、相手にとって自分は“勝てそうで勝てない存在“でありたい」
その高みを維持するためには、無二の体力が不可欠だ。練習では45秒動いて、15秒レストというインターバル練習のほか、立位のコーチにポッカムや尹の動きをしてもらい、1時間の試合を想定したトレーニングなどに取り組む。「これ、めちゃくちゃしんどいんですよ。でも、楽しいです」。その姿勢が女王をさらに強くする。
帰国翌週には、アジアを含む各国からトップ選手が集うジャパン国際(11月7日~12日/国立代々木競技場第一体育館)がスタートする。今度はホームでどんなプレーを見せてくれるのか、楽しみだ。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴