10月22日から28日の7日間、中国・杭州で行われた「第4回アジアパラ競技大会」でパラサイクリングは前半(23~25日)にトラック競技、後半(26~27日)にロード競技が行われ、全30種目が競われた。日本チームはエースの3選手が出場し、それぞれ3個ずつ計9個(金3、銀1、銅5)のメダルを獲得した。日本の国別ランキングはメダル総数(9)でも金メダル数(3)でも4位に入り、少数精鋭の戦いで存在感を示した。
多様な障がいの選手を対象とするパラサイクリングでは、選手は障がいの種類別に4つのクラスに分かれ、それぞれ形状の異なる競技用自転車を使って競技する。基本的に障がいクラス別に競うが、参加人数などにより複数のクラスを統合して実施することもあり、その場合は障がいの程度の異なる選手が公平に競えるよう、障がいクラス別に設定された係数(ハンディキャップのようなもの)を各自の実測タイムに掛けた計算タイムによって最終順位が決められる。
今大会の日本代表はいずれも、二輪の競技用自転車を使うCクラスの選手だったが、なかでもチームを牽引したのは東京大会までパラリンピック4大会連続出場でロード競技メダリストの男子C3、藤田征樹(藤建設)で、今大会では金2個、銅1個を獲得した。25日のトラック男子C3個人3kmパーシュート決勝で3分44秒627をマークし、2位のマレーシア選手に約7秒以上の差をつけて金メダルを獲得。翌26日にC1-C3混合で行われたロードタイムトライアル(TT)でも13.7㎞を18分44秒49で走破し、二冠達成。さらに27日のC1-C3ロードレース(55.2km)はスタートから積極的に飛ばしたが、上位3選手が1分27秒23で並ぶという激戦となり、紙一重の差で藤田が銅メダルとなった。
ロード競技でより多くの実績を重ねてきた藤田は26日のロードTTでの勝利後、「(この種目は)僕にとって大事な種目。しっかり走れることはすごく大事だし、勝ててよかった」と穏やかな笑顔を見せた。アップダウンやコーナーが少ないコースで行われ、「難易度はそれほど高くなく、タイム差がつきにくい。さらに係数レースなのでタイムを稼がないと勝てない」と今レースを展望。とはいえ、「負けるつもりはさらさらなく、スタートからフィニッシュまでプッシュし続けた。きつかったが、『出し切れた』という感覚があった」という手ごたえが金メダルという最高の結果を引き寄せた。
パラサイクリングはもともとヨーロッパに強豪が多いが、アジアも近年は参加国が増え、選手層も厚みが増し、レベルも年々上がっていると感じると話す藤田は38歳。若手も増えた中で「(ベテランの)自分も力を出して速いレースをすることでより厳しいレースとなり、全体のレベルもさらに上がっていくと思っている」。
アジアをも牽引し、自身5回目となるパリパラリンピック出場へ向け、自らを鼓舞していく。
東京パラで4位入賞や8月の世界選手権での複数メダル獲得など、とくにトラック競技での活躍が目覚ましい男子C2の川本翔太(大和産業)は今大会、トラック競技の男子C1-C3の1000mタイムトライアルは1分8秒787で銅、男子C2個人3㎞パーシュートは2位に6秒以上差をつける1分20秒036で金を獲得した。
さらに26日のロード競技でも男子C1-C3タイムトライアルを19分36秒02で走り抜いて銅をつかみ、藤田と並んで表彰式にあがった。「苦手な種目だったが、自分なりにいい走りができた。でも、(銅メダルは)やはり悔しい」とコメントした川本。アジア大会は前回2018年ジャカルタ大会から2回目で、「自分のレベルは1回目よりはるかに上がっていると思うが、周りも上がっている。それに負けじと思って走った。最後まで集中を切らさず走れた自分をほめたい」と手応えも口にした。
来年1月のワールドカップからパリも見据え、「新たなスタート」と位置付けていた今大会。収穫も課題も糧に、さらなる高みを目指す。
東京パラでロード競技二冠や世界選手権覇者の女子C3、杉浦佳子(総合メディカル)もさすがの走りを見せた。トラック競技では女子C1-C3の500mタイムトライアルで出場6名中最速の39秒995をたたき出し大会新をマークしたが、係数レースにより結果は銅。同じくC1–C3の3km個人パーシュートでも最速タイムで先着したが、計算タイムでC1クラスの中国選手が上回り、惜しくも銀となった。
さらに、26日のロード競技、C1-C3タイムトライアル(13.7km)では21分34秒11で銅を獲得、「(今大会は)練習レースの位置づけで走ったが、パワーの数値が今の目標に届かなかったので残念。これが今の実力」と語った杉浦。この日までに予選レースや団体種目のチームスプリントを含め4日間で7レースを走っており、「休みがなく、かなりしんどかった」と話したが、この翌日にはC1-C5ロードレース(41.4km)にも出場。中国3選手がチーム戦を仕掛けてメダルを独占するなか、孤軍奮闘で食らいつき4位に入る意地を見せた。
アジア大会は2回目だったが、「前回(2018年)は女子の参加が少なくトラック競技しかなく、ロード競技が入ったのは今回が初めてで、広がりを感じた。今日のタイムには満足していないが、5年前よりは確実に成長できている」と自身の進化は確認できたという。
これまでロードを得意としてきた杉浦だが、「今はトラックにも力を入れ、新しいチャレンジをしている。(53歳で迎える)パリパラリンピックではトラックでも決勝進出という新しい目標を持っている。あと1年で力を少しずつ上げていき、パリで爆発させたい」と力をこめた。
沼部早紀子ヘッドコーチは、3選手がそれぞれ持ち味を発揮してメダル9個を獲得したことについて、「ほぼ想定通り。連戦は、(パリ)パラリンピックを想定すると、いいシミュレーションになった」と今大会を総括。
藤田、川本、杉浦の3人はアジアでの好結果を弾みに、それぞれが目指す世界の頂点に向け、これからもペダルを強く踏み続ける。
写真/吉村もと ・ 文/星野恭子