杭州2022アジアパラ競技大会の車いすテニスのシングルスは、男子・女子・クアードの3つのカテゴリーすべてで日本人選手が優勝する快挙を成し遂げた。男子と女子の優勝者には、パリ2024パラリンンピックのダイレクトエントリー枠が与えられるため、男子を制した小田凱人(東海理化)、女子を制した上地結衣(三井住友銀行)がパリの出場権を獲得した。
男子シングルス決勝は、世界ランキング1位の小田と同8位の眞田卓(TOPPAN)の日本人対決となった。前週の木下グループジャパンオープンと同じ顔合わせ。第1セットは小田が6-3で先取すると、第2セットは眞田が要所でドロップショットを織り交ぜるなど多彩な攻撃でゲームカウント5-4とリードを奪った。だが、攻めの姿勢を貫く小田は第10ゲームで2度のジュースをしのいでブレークに成功すると、その後も勢いを維持して7-5で競り勝った。
小田は試合を振り返り、「めちゃくちゃ嬉しい。第2セットは眞田選手にチャンスがあったけれど、そこから巻き返せたのでよかった」と笑顔を見せた。一方、眞田は「ベテランらしいテニスで戦えた。最後にポイントを取り切れなかったけれど、しっかりプレッシャーを与えることができたし、次につながる収穫がある試合になった」と話し、前を向いた。
また、決勝に先駆けて行われた3位決定戦は、三木拓也(トヨタ自動車)が董顺江(DONG Shunjiang/中国)をストレートで下し、銅メダルを獲得した。三木は世界ランキング10位につけ、グランドスラムにも出場している34歳。パラリンピックにはロンドン、リオ、東京と3度出場しているが、過去のアジアパラは怪我の影響で出場できず、今回が初出場だった。「リオのダブルスで3位決定戦は経験しているが、日の丸をつけた総合大会でメダルを獲るのは初めて。こうしてメダルを獲って終われるのは救われるなと思った。いい経験ができた」と、充実した表情を見せた。
男子シングルスは、日本勢が表彰台を独占という結果になった。その真ん中に立った小田は、「上位3人が全員日本人なのは嬉しい。日本人のレベルの高さを中国で見せつけられたと思う」と、力強く語った。
女子シングルスは第1シードの上地が準々決勝で前々回の仁川大会の覇者であるカンタシット・サコーン(タイ)を、準決勝で郭珞瑶(GUO Luoyao/中国)をそれぞれストレートで下し、決勝に勝ち上がった。対戦する朱珍珍(ZHU Zhenzhen/中国)は世界ランキング5位で、グランドスラムでもしばしば対戦する相手。直近では6月の全仏オープンで対戦しており、ここまで上地の18連勝中だ。
試合開始前からセンターコートには朱への声援が響き渡るなか、経験豊富な上地は動じることなく、自分のテニスに集中し、6-2、6-0と朱を圧倒。見事に大会連覇を成し遂げた。「お客さんがテニスを観慣れていないんだなと思うシーンもあったけれど、純粋に自分の国の選手に頑張ってほしいという気持ちが伝わってきたので」と、完全にアウェイな状況も上地は意に介さなかった。
女子の決勝は男子の前日に行われ、「男子は日本人対決。男子と女子がそろって金メダルを獲り、パリへの出場権を獲得できたのは素晴らしいこと。その流れを自分が作れてよかった」と、清々しい表情で語った。
上肢にも障がいがあるクアードの決勝は、菅野浩二(リクルートオフィスサポート)と石戸大輔(三菱オートリース)が対戦し、6-2、6-3で菅野が勝利した。菅野は前回のジャカルタ大会は銀メダルに終わっており、「5年ぶりのアジアパラは観客も入っていて緊張感を持って戦えた。やっとアジアのタイトルが獲れてよかった」と喜んだ。
クアードは今大会で優勝してもパリの出場権は与えられず、引き続きランキングで競うことになる。菅野は「これからまだまだツアーが続く。アジアパラをパリへの通過点として、本大会でも成績を残せるようにしっかりと準備したい」と、力強く語った。
一方、敗れた石戸はアジアパラ初出場。「負けて悔しいけれど、観客が大勢いるなかで試合をするのは初体験。楽しくプレーができた」と振り返った。2021年の世界ランキングは44位だったが、昨年は19位へとジャンプアップし、今年はキャリアハイの15位をマークするなど、着実に力をつけてきている。今年5月には、菅野らとともにワールドチームカップ(世界国別選手権)の日本代表としても戦った。
「コロナ禍でも本格的にツアーに周りだした経験が大きいと思う」と石戸。格上の選手と対戦する機会が増え、どうすれば勝てるか考えるようになったといい、「世界を見れば、自分より障害が軽い選手が多いけれど、どんどん勝っていきたい」と、言葉に力を込めた。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴