パラアイスホッケーの世界ランキング上位8カ国が頂点を争う世界選手権Aプールが、5月4日から12日までカナダ・カルガリーで行われた。昨年のBプールで優勝し、3大会ぶりにAプールに復帰した日本代表は、来季のAプール残留ラインとなる6位以内を目標に戦ったが、予選リーグの1勝に留まり、最終的に最下位の8位に終わった。来季は再び、Bプールを戦うことになる。
予選リーグはA・Bふたつのグループに4チームずつ分かれ、総当たりで試合を実施。グループBの日本は、初戦で優勝候補のカナダと対戦。0-19と大敗を喫した。
カナダは2013年のコヤン大会(韓国)から前回のムースジョー大会(カナダ)まで6大会連続でアメリカと優勝・準優勝を分け合う強豪だ。日本は過去3度の4位が最高で、今大会はベンチメンバー15人のうち、Aプール経験者はキャプテンの熊谷昌治(長野サンダーバーズ)やベテランの三澤英司(北海道ベアーズ)ら一部の選手のみという成長途中の新チーム。現段階ではカナダと日本との実力差は大きいと言わざるを得ないが、一方ではじめてAプールを経験する若い選手にとっては、“世界のレベル”を肌で感じる貴重な機会になった。
日本はこの初戦でGK堀江航(東京アイスバーンズ)がマスクを被り、第1セットのFWに上原大祐(長野サンダーバーズ)、熊谷、三澤、DFに須藤悟(北海道ベアーズ)、BプールのMVP・伊藤樹(ロスパーダ関西)と、機動力のある選手を起用。セカンドセットには18歳の鵜飼祥生(東海アイスアークス)と森崎天夢(北海道ベアーズ)も名を連ね、伊藤や三澤、那須智彦(東海アイスアークス)らユーティリティープレーヤーは試合の流れに合わせてFW・DF両方でプレーした。カナダ戦にはほぼ全員が出場し、まさに総力戦で挑んだ日本。しかし、シュート数は第2ピリオドの1本に抑え込まれ、カナダにダメージを与えることはできなかった。
予選リーグ第2戦の相手チェコは、前回3位と勢いがあるチームだ。日本はこの試合、5度のパワープレーのチャンスを手にするが、攻めきれずに0-5で敗れた。ただ、第2ピリオドには次代を担うであろう18歳トリオの伊藤、鵜飼、森崎のセットが実現。強敵とわたりあう姿に、新たな可能性を感じた。
そして、予選リーグ最終戦はイタリアと対戦。互いに無得点で迎えた第2ピリオドの開始51秒でイタリアに先制を許した日本。さらに終盤には日本のペナルティでひとり少ない危機的状況となるが、日本ゴール前でのイタリアのパスミスに素早く反応した熊谷がパックを奪ってアタッキングゾーンへとダッシュ。相手GKの動きを冷静に見極めて右手から左手へとパックを移して、豪快にシュートを決めた。その後、同点のまま延長戦に突入するも決着はつかず、シュートアウト(サッカーでいうPK戦)勝負へともつれこんだ。
先攻の日本は、1人目の伊藤、2人目の上原が失敗するが、イタリアも2人が失敗。そして、3人目の熊谷が相手GKを引き付けて成功させると、イタリア3人目のシュートをGK堀江が見事にセーブし、2-1で勝利した。Aプールでの勝利は、2009年のオストラバ大会(チェコ)の予選リーグでドイツとチェコに勝利して以来、実に15年ぶり。貴重な一勝を挙げた。
今大会は、予選リーグ2位以上が準決勝に進出し、3位以下はプレーオフへとまわる。グループB3位の日本は、そのプレーオフでグループA4位の韓国と対戦することになった。仮に予選リーグで全敗でも、この試合に勝利すれば、Aプール残留ラインとなる6位以上が確定する。日本代表の今大会の目標は、前述のとおり、まさにこの試合で勝利し、順位を死守することだ。
しかし、後がないのは韓国も同じ。試合は集中力を高めた韓国がミスの少ない攻撃で、第2ピリオド終盤までに3点を奪う。追いかける日本は、残り44秒で日本ゴール前でパックをキープした伊藤から中央の上原へ、さらに左サイドを駆け上がった熊谷へと2本のスルーパスでつなぎ、1点を返した。その勢いを維持したいところだが、第3ピリオドは選手交代の際に6人を超える人数でプレーしてしまう反則を犯すなど、みずから流れを乱してしまう。最後はGKをベンチに下げて6人攻撃にトライするが、相手にパックを奪われてエンプティ・ゴールを許してしまい、1-5で敗れた。
Bプール降格が決まった日本。最終戦となる7-8位決定戦には勝利して大会を締めたいところだったが、再び対戦したイタリアと接戦を繰り広げるものの、0-1で落とした。
昨季のBプールで2位となり、今季は日本とともにAプールに昇格したスロバキアは、プレーオフでイタリアに勝利して、Aプール残留を決めた。韓国も予選リーグは全敗だったが、日本に勝ってBプール降格を免れた。絶対に負けられない大一番を取り切ったこれらのチームとの差は何だったのか。
大会を通して無得点に抑えられたエースの伊藤は、こう振り返る。「日本はスピード、スケーティング、すべてにおいて足りていない。その状態で日本が数的有利なパワープレーのチャンスを手にしても、きっと相手は怖くないと思う。今大会の収穫があるとすれば、日本の現在地がはっきりとしたこと」。キャプテンの熊谷も「Aプールで戦うにはあまりにも力の差があった。チーム全員がこの結果に責任を感じ、己を磨かなければ次に進めない」と語り、危機感を募らせる。
ただ、これで2026年のミラノ・コルティナダンペッツォパラリンピックへの道が途絶えたわけではない。日本は来季のBプールで3位以上に入れば、ミラノパラの最終予選に出場することができる。Bプールの競技レベルも向上しており、厳しい戦いが予想されるなか、どこまでブラッシュアップできるかがカギになりそうだ。
宮崎遼アシスタントコーチは、「ホッケーIQ、基礎技術の差が明確になった。とくに機動力とスケーティング技術のレベルアップは早急に取り組む必要がある。今大会は、Aプールという8枠しかないイスを争うことの過酷さに選手が気づくきっかけになったと思う。チームづくりを徹底し、来年、強くなって戻ってきたい」と、言葉に力を込めた。
文/荒木美晴