「天皇杯・皇后杯 第41回飯塚国際車いすテニス大会(Japan Open 2025)」が4月15日から6日間にわたり、福岡県飯塚市のいいづかスポーツ・リゾートテニスコート等で行われた。グランドスラムに次ぐスーパーシリーズに位置づけられるアジア最高峰の大会だけあって、各カテゴリーをけん引するトップランカーたちが集結した。日本勢では、パリ2024パラリンピック(以下、パリ2024大会)金メダリストの小田凱人(東海理化)が男子シングルスを制し、3連覇を達成。女子シングルスは上地結衣(三井住友銀行)が準優勝、同ダブルスは田中愛美(長谷工コーポレーション)組が優勝を果たした。
男子はパリ2024大会銀メダルのアルフィー・ヒューエット(イギリス)や、銅メダルのグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)は出場を見送ったが、昨今の競技レベルを押し上げている勢いあるプレーヤーが勢ぞろいした。そんななか、第1シードの小田は2回戦から登場。順調に勝ち進み、準決勝では直近の韓国・テグオープン(ITF1)を制したダニエル・カバザッチ(スペイン)に貫録のストレート勝ちし、決勝に駒を進めた。その決勝では、第2シードのマーティン・デ ラ プエンテ(同)と対戦。昨年のウィンブルドン準決勝で小田に勝利している強敵だ。
降り続く雨のため、決勝はセンターコートから屋内コートに変更され行われた。第1セットは小田が5-1とリードするが、デ ラ プエンテが第7ゲームをブレークすると、強烈なサーブやコーナーを突く鋭いショットなどで一気に4ゲームを連取。その後突入したタイブレークでは小田が冷静に流れを作り、7-6(5)で奪った。しかし、第2セットは豊富な運動量とアグレッシブなチェアワークを誇るデ ラ プエンテに主導権を握られ、2-6で失ってしまう。そして迎えた第3セット、小田が追いかける展開となった終盤の第9ゲームで、デ ラ プエンテが痛恨のダブルフォルトを犯したのを機に、小田が一気にギアを上げて逆転に成功。そこからさらに一進一退の攻防が続くが、最後は4度目のチャンピオンシップポイントで相手のサービスリターンをバックハンドで沈めて7-5とし、決着をつけた。
試合後は「まじで疲れました」と、苦笑いを浮かべた小田。今年は四大大会でまだ優勝していない全米オープンのタイトルを獲ることを目標に据えているといい、「ライバルたちのレベルがどんどん上がっているとすごく感じるし、すごく楽しみ。僕はトップをけん引するというより、ど真ん中にいる僕に他の選手が向かってくるという形が理想のイメージ。みんなで高め合っていきたい」と、力強く話した。
また、三木拓也(トヨタ自動車)は準々決勝で、荒井大輔(BNPパリバ)は2回戦でそれぞれ敗退した。
女子シングルスは、第1シードの上地が準々決勝で19歳の成長株、クセニア・シャストー(フランス)に4-6、6-1、6-0で勝利し、準決勝で今大会の直前に出場したテグオープンの決勝で敗れた王紫瑩(中国)をストレートで下して決勝に進出した。
決勝では第4シードの李暁輝(中国)と対戦。第1セットを6-3で先取した上地だが、第2セットに入ると李のパワーショットが炸裂。甘く入ったバウンド系のボールは上から叩かれ、4度のブレークを許し、3-6でセットカウントをタイにされた。第3セットも李の勢いは止まらず、1-6で敗れた。李とは今年3度目の対戦で、これで1勝2敗に。上地は試合後、「彼女のようなハードヒッターは今日のインドアの速いサーフェスでは有利になると思っていた。その中で対戦のイメージを描いてきたけれど、今日はその引き出しを出し切れなかった」と語り、敗戦を受け止めた。
ただ、上地自身は前向きだ。「今年は試行錯誤する1年にしたいと考えている」と話すように、1月のオーストラリア遠征以降、クレーコートで行われたワールドチームカップの予選、4月上旬のテグオープン、そして今大会と、それぞれテニス車のセッティングを少しずつ変えて使用するなど新たな改革に取り組んでいる最中で、現在はトライアンドエラーを重ねながら、自分の身体にしっくりくるものを探しているところだ。今大会はとくに中国勢の勢いを感じさせられたが、「手も足も出ないというわけではない」と上地。「結果も大事だが、今は試合の内容や自分自身の成長にも注目していきたい」と言葉に力を込め、前を向いていた。
また、女子ダブルスは田中/朱珍珍(中国)組が、ルーシー・シューカー(イギリス)/アニク・ファンクート(オランダ)組をスーパータイブレークの末に破り、優勝を果たした。田中と朱はグランドスラムでもペアを組む仲。相手の強打と前衛のボールさばきに手を焼きながらも、最後まで息の合ったプレーを見せた。田中はパリ2024大会ではダブルスで金メダルを獲得しているが、スーパーシリーズ(SS)の優勝は初。田中は、「SSにはパラリンピックとは別の緊張感がある。しかも日本で獲れたというのはすごく良かった」と、笑顔で振り返った。
三肢以上に障害があるクアードは世界ランキングトップ10のうち8選手がエントリー。ハイレベルな試合が繰り広げられた。決勝では、世界ランキング1位でパリ2024大会金メダリストのニールス・フィンク(オランダ)と、銀メダリストのサム・シュローダー(同)の頂上決戦の再戦が実現。両者譲らぬ攻防が繰り広げられ、4-6、6-3、6-3でフィンクが制した。
第1セットは先にフィンクがブレークに成功し、4-1と先行した。しかし、ここからシュローダーが相手コートにスペースを作る配球で流れを手繰り寄せ5ゲームを連取し、一気に逆転に成功した。第2セットは3-3となった第7ゲーム、試合を優位に運んでいたシュローダーがわずかなミスをきっかけに失速。逆にフィンクはここでブレークしたことを機にセットを奪い返し、その後も高い集中力を維持して第3セットも勝ち切った。
直近の対戦となった今年1月の全豪オープンでは、シュローダーが7-6、7-5でフィンクを下し、優勝を果たしている。次戦のグランドスラムとなる6月の全仏オープンで再び肉薄した戦いが見られるのか、注目が集まる。なお、フィンクはガイ・サッソン(イスラエル)とペアを組んだダブルスでも優勝を果たし、2冠を達成した。
日本勢は宇佐美慧(LINEヤフー)、諸石光照(EY Japan)、川野将太(シーズアスリート)ら5人がエントリーしたが、2回戦までに全員が敗退となった。
写真・植原義晴/文・荒木美晴