6月12~20日の9日間にわたって、ブラジル・サンパウロでは23歳以下のジュニア世代における4年に一度の戦い「男子U23世界選手権」が開催される。昨年11月の男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップ(AOC)で準優勝に輝いた男子U23日本代表は、アジアオセアニアゾーン2位で出場権を獲得。前回大会の金メダルに続き、2大会連続での表彰台を目指す。この連載では、次代を担う代表メンバーに選ばれた12人をクローズアップ。第6回は、3年前の“忘れ物”を取りに2度目の世界戦に臨む渡辺将斗と、チーム一の高さと得点力を誇る岩田晋作を紹介する。
同世代で唯一、前回2022年のU23世界選手権を経験しているのが、渡辺将斗だ。同大会では前年の東京2020パラリンピックで銀メダルを獲得したメンバー3人を擁したU23日本代表が初優勝。日本車いすバスケ界で史上初の金メダルに輝いた。
ただ一人の10代として先輩たちに交じって出場した世界の舞台は、渡辺にとってかけがえのない経験。金メダルを獲得したことも、もちろんうれしかった。しかし、コートに立ったのは予選リーグのカナダ戦1試合のみ。7分46秒という短いプレータイムに終わり、個人的には悔しさしかなかった。
「最後、決勝でトルコに勝った時はチームが目標としていた金メダルが取れて、すごくうれしかったです。でも、その後の表彰式で金メダルを受け取った時、“あぁ、これは自分の実力で勝ち取ったものじゃないんだよな”と思ったら、ベンチで見ていた時の悔しさが一気によみがえってきました。“次は絶対に自分の実力でメダルをつかみとる!”と心に誓ったんです」
それから2年後の昨年、渡辺は再びU23日本代表に選出され、U23AOCに出場。最後の最後に逆転勝利を収めたイラン戦では「ベンチも含めてチームに一体感があったからこその勝利だった」と、大きな手応えをつかんだ。渡辺自身も全7試合に出場。特に大会終盤、2度目のダブルヘッダーでどの選手にも疲労が色濃く見えていた予選リーグ最終戦のサウジアラビア戦では、チーム最多の12得点と奮起した。一方で海外勢との戦い方として、課題も多く感じられたという。
「やっぱりサイズが大きい選手が多いので、パスが通りにくかったり、どうしてもタフショットになるケースが多かったりという難しさもありました。なので、まずはアウトサイドのシュートの確率をもっと上げること。そしてインサイドにアタックする時も、がむしゃらに行くのではなくて、なるべく相手のローポインターに対してミスマッチを狙うとか、あるいはフリーで打てるシチュエーションを作り出すなどして、確実に得点するための工夫が必要だと感じました」
そこで帰国後は、連戦でも走り続けられるスタミナをさらにつけようとハードトレーニングを課し、また高さでは海外勢にかなわない日本の得点のカギを握るアウトサイドのシュート力にも注力して練習してきた。するとふだんの練習では手応えを感じつつも、U23日本代表の合宿ではある悩みを抱えていた。
「チームを引っ張る立場でもあると思っているのですが、逆に“周りを見てこうしなくては”と考えすぎて、自分のプレーに集中できていない気もしていて……。そうすると、ディフェンスで失点した後のオフェンスだったり、逆にシュートが外れた後のディフェンスが遅れてしまったり。なので周りのことも見ながら、自分に集中しなければいけない時は集中するといった、気持ちの切り替えが大事だなと。それがプレーでの切り替えの速さにもつながってくると思うので、自分のなかでメリハリをつけるようにしています」
一方、プレー面での課題としているのが“焦り”だ。例えば相手に得点された時、「取り返さなくては」と焦る気持ちでオフェンスするため、あわててシュートをしてしまう、というようなことが多いのだという。そこで、渡辺は今失点してもあわてずに、素早いトランジションとともに、気持ちもしっかりと切り替え、落ち着いて自分たちのやりたいバスケットをすることを心がけている。
そんなふうに、いろいろな課題や悩みに向き合ってきた渡辺。“次こそは”と誓ったあの日からあっという間に3年が過ぎ、今、いよいよ2度目となるU23世界選手権の幕が上がろうとしている。渡辺にとっては前回大会の自分へのリベンジマッチでもある。チームの勝利に貢献し、今度こそ実力でメダルをつかみ取るつもりだ。
2022年に男子次世代強化指定選手に選出された後、すぐに頭角を現し、今ではU23日本代表のエース的存在となった岩田晋作。昨年のU23AOCでは、全7試合中4試合でチームのトップスコアラーに。なかでも特筆すべきは、大一番のイラン戦だ。相手の厳しいマークにあい、3Qまではフィールドゴール成功率18%で5得点に終わっていたが、最も大事な4Qで本領を発揮。一人で16得点を挙げるという爆発的な活躍を見せ、逆転勝利を呼び込む立役者の一人となった。
結局、総得点(6位)、2ポイントシュート(5位)、フリースロー(2位)、リバウンド(2位)と、4部門でベスト10入りした岩田は、オールスター5に選出。“日本に岩田あり”を印象付けた。だが、岩田は手応えを感じつつも、自らの実力はまだ十分ではないと考えていた。
「優勝したオーストラリアには、パリパラリンピックに出場したA代表の選手もいて、彼らに比べると、スピードやシュート力、判断力などいろいろな面でまだまだ自分は劣っていると思いました。彼らに並ぶくらいの実力がなければ、これから先は厳しいと思っています」
“これから先”とは、もちろん出場権を獲得したU23世界選手権だ。そこでこの半年間、岩田は基本に立ち返り、スタミナ、スピード、チェアスキル、シュート、ドリブルとさまざまな面を磨いてきた。今では、すべての面でレベルアップを感じている。その背景には、環境の変化が大きく影響しているという。
この春、高等専門学校を卒業した岩田は、より高みを目指して生まれ育った函館を離れ、富山県WBCに移籍した。同チームには、東京2020パラリンピックの銀メダルメンバーである宮島徹也(4.0)や岩井孝義(1.0)がおり、そこにU23世界選手権の金メダルメンバーである古崎倫太郎(2.5)が2年前、そして今年度には春田賢人(2.5)が移籍。また若手には、岩田と同じU23日本代表に選ばれた中村凌(1.5)や小山大斗(3.5)もいる。年々、選手層に厚みが増し、若手の成長も著しい富山県WBCは、昨年度の天皇杯でベスト4に進出するなど、今最も勢いのあるチームとして注目されている。
実際、岩田は岩井や古崎などがいるおかげで、ふだんから強度の高い練習を積むことができている現在の環境が、自分の成長を促していると感じている。また、同じハイポインターである宮島からは学ぶことばかりだ。
「テツさん(宮島)は、プレー一つ一つにこだわりをもって細かいところまで考えながらプレーしているんです。そのテツさんから教わることは本当にたくさんあります。僕自身、テツさんのように強みを持ちながらも、役割を限定することなく、セットやほかの選手にあわせて役割やプレースタイルを変えられるような、そんな柔軟性のあるプレーヤーになりたいと思っています」
NBAでは、二コラ・ヨキッチが好きだという岩田。「サイズが大きいだけではなく、パスもシュートもできるという多彩なところがいいなと。スピード自体はあまり速くはないけれど、かわす巧さもあってかっこいいなと思っています」と語る。過去3度のMVPを受賞し、今季も1シーズンに30回以上のトリプルダブル達成というNBA史上4人目の快挙を見せたヨキッチのようなユーティリティプレーヤーになることが究極の目標だ。
今大会はそのファーストステージと言える。これまで課題としてきた細かいチェアスキルも磨いてきたといい、アジリティの部分でもチームをけん引し、成長した姿を見せる。そしてオールスター5、さらにはMVPも狙えるくらいの成績を残し、チーム目標であるメダルラウンド進出を果たすつもりだ。
写真・文/斎藤寿子