11月16~18日の3日間にわたって、福岡県の北九州市にて車いすバスケットボール大会「北九州チャンピオンズカップ」が行なわれた。今大会には日本、オランダ、カナダ、タイの4カ国が参加。総当たりの予選リーグで日本、オランダ、カナダが2勝1敗で並んだが、ゴールアベレージでカナダとオランダが決勝に進出し、オランダが優勝に輝いた。3位決定戦にまわった日本はタイに69-26と大勝で大会を終えた。
今大会は、出場4カ国いずれも10代、20代の若手で構成した代表チームを送り込み、日本も、優勝を目指しながら「若手の育成」を目的として、「U23育成選手」から12人を選出。古澤拓也、鳥海連志(ちょうかい・れんし)、川原凜、緋田(あけだ)高大、赤石竜我といった、すでにフル代表でも活躍し、今年の世界選手権やアジアパラ競技大会に出場した選手のほか、彼らとともに昨年のU23世界選手権でベスト4に進出したメンバーや、今年初めてU23代表に選出されたフレッシュなメンバーが入った。
オーバーエイジの採用も可能だった今大会、他の3カ国がいずれも24歳以上の選手を数人入れてきた中で、日本は生粋のU23メンバーで戦うことにこだわった。日本代表のアシスタントコーチを兼任する京谷和幸U23日本代表ヘッドコーチ(以下、HC)はその理由をこう語る。
「ローポインター、ミドルポインターにおいては若い世代も充実しているが、ことハイポインターにおいてはまだまだ。そのハイポインターのところをオーバーエイジで補強すれば勝てるとは思いましたが、それではいつまでたってもハイポインターが育たないし、優勝しても今後につながらないなと。だから今大会はU23の選手だけで戦うことにしました」
大会初日、カナダと対戦した日本は、前半こそ相手に試合の主導権を握られて苦しい展開となったものの、徐々にいつものアグレッシブさを発揮し、54−50と辛くも白星発進した。
翌日は、今大会最も強敵と思われたオランダと対戦。前日とは一転、日本はスタートからアグレッシブなプレーを披露し、1Q(クォーター)を15−11とリードした。しかし、2Qで2点差に詰め寄られると、3Qの終盤は相手に主導権を握られる。3分間で8失点を喫する一方で得点を挙げることができなかった。これで完全に形成が逆転。4Qでさらに引き離され、46−60で逆転負けとなった。
しかし、1Qではフル代表でも主力として活躍している相手エースのメンデル・オプ デン オースをわずか2得点に抑えたディフェンスには、チームとしての成長の跡もうかがえた。プレスディフェンスでは古澤と鳥海がオースにマッチアップし、ハーフコートのディフェンスでも通常はトップの位置を守る古澤を下げ、鳥海との守備でパワーサイドを作り、相手エースの動きをほぼ完璧に封じたのだ。さらに、逆サイドには抜群の守備力を誇る赤石がおり、たとえオースが逆サイドにまわっても、インサイドで好きなように仕事をすることができなかったのだ。
実はこのディフェンスの形は、京谷HCからの指示に自分たちの「判断」を加えたものだった。オースを早い段階で止めてゴールに近づけさせないことは試合中にも指示が出ていたが、細かい指示は出ていなかったという。
試合後、古澤はこう説明する。
「オースを早く止めようとしていたら、僕と(鳥海)連志が彼に行くように自然となっていたんです。それは全員がちゃんと周りを見れていたからこそだったんじゃないかなと。コート上ですごくいい対応ができていたと思います」
一方で、鳥海はこう反省点を口にした。
「相手も打開しようとする中で、僕らとのマッチアップを避けて、例えばミスマッチになった時に、そこからどうやって戻していくかということは次の課題だなと思いました」
そして、こう続けた。
「決勝でオランダと再戦となった時にどうするか、この後ビデオをしっかりと見たいと思います」
この鳥海の言葉からもわかるように、日本チームの頭にあったのは「決勝進出」と「優勝」のみ。京谷HCも「今日の試合では、いろいろなディフェンスを試して何がいいかわかったので、決勝を楽しみにしていてください」と語っていた。指揮官も選手も負けたままで終わりたくはなかったはずだ。
しかし翌日、日本がタイに勝利した試合の裏で、大方の予想を覆す形でオランダがカナダに敗れた。そのためタイを除く3カ国が2勝1敗で並び、大会のルール上、ゴールアベレージで争われた結果、日本は決勝カードから漏れてしまった。
3位決定戦にまわることが明らかとなった時点で、京谷HCはすぐさま頭を切り替えて、選手たちにこう告げた。
「事実を受け止め、最後のタイ戦に全力で臨もう」
そして、具体的な課題を提示した。予選リーグではタイに63−32で大勝していたため、「70得点以上、32失点以下」でさらに質の高いゲームをすることを求めたのだ。
試合は日本のワンサイドゲームとなり、攻守ともに圧倒した日本は、69−26と予選リーグ以上の差で勝利を挙げた。しかし、京谷HCは納得していないことが一つあった。目標としていた70点まであと1点足りなかった得点だ。
実は4Qの残り2分、指揮官はある狙いを持って選手交代をしている。3年後のU23世界選手権の出場資格を持つ、鳥海、赤石、高松義伸、古崎倫太朗、知野光希の5人をコートに送り出したのだ。全員が10代。赤石、古崎、知野は高校生で、知野に関しては公式戦では国際大会の経験はゼロというメンバーだ。しかし、3年後には彼らが中心となって世界に挑まなければならない。
そこで京谷HCはあえてプレッシャーをかけた。
「残り2分であと1ゴールだぞ」
その結果、その1ゴールを決めることができなかったのだ。
「プレッシャーをかけたとたんに、それまで決めていたシュートをポロポロ落とすということは、まだまだ心が弱いという証拠。たった1本のシュートを決められなかったことが、いかに大きいか。例えば1点ビハインドで残り10秒という試合の時に、たった1本が決められなかったことで負けてしまうわけです。若い彼らにとっては、自分たちの弱さを知るいい経験になったと思います」
厳しい勝負の世界を感じながらも、“新しい芽”として台頭したのが、知野、北風大雅、筧裕輝の3選手。いずれも今年初めてU23代表メンバーに選出されたたニューカマーだ。
チーム最年少の17歳、高校2年の知野は、一見大人しそうに見えるが、京谷HCは彼の秘めた闘志に期待を寄せている。
「非常に負けず嫌いの性格で、内に秘めたものはチームの中で最もあるかもしれない。だからこそ、成長スピードがすごいですよ。見るたびに、どんどんうまくなっていて驚きます」
そんな負けず嫌いが垣間見えたのが、予選リーグのタイ戦だ。ピック&ロールでレイアップシュートにいった知野だったが、シュートは外れてしまう。しかし、そのリバウンドボールを相手に囲まれ転倒しながらも、小さく細い体で懸命に掴み、絶対に離さなかったのだ。
また、今大会が代表初選出となった筧は、車いすバスケを始めて2年に満たない21歳。中学時代から継続してきたウエイトトレーニングの賜物である腕力とスタミナに自信を持つ。
「コートに出たら、オフェンスからディフェンス、ディフェンスからオフェンスへと、とにかく全力で走ります」と語っていた通り、代表デビュー戦となった予選リーグのタイ戦でも臆することなく「全力疾走」でチームに貢献。さらに代表初シュートを1本目で決めるなど、メンタルの強さも見せた。
京谷HCも「彼はミーティングで言われたことをコートでちゃんと表現できる選手。例えばスペースを取るために、まずはベースラインまで一度走るということもきっちりとやってくれた。些細なことですが、そういうことができる選手というのはチームにおいて非常に大きい」と高く評価した。
昨年12月の合宿からU23育成メンバーに加わった20歳の北風は、最も競技歴が短いながら、すでにセンスの高さをうかがわせている。予選リーグのタイ戦では2本のシュートを決めたが、アシスト能力にも長(た)けている。最も印象的だったのは、3位決定戦でのワンシーンだ。
4Q残り3分、北風はゴール下へと飛び込み、キャプテン緋田からパスを受けた。すると、相手の注意が北風に向いたその隙に、すぐさま左サイドでフリーだった緋田に再びボールを戻したのだ。小学1年から高校3年までサッカー部に所属していた北風。「サッカーでやっていたワンタッチパスをイメージした」というそれは、ピタリと緋田の両手に収まる最高のアシストパスだった。
「今大会、同部屋のタカさん(緋田)にはとてもお世話になっていて、僕が体調を崩した時には迷惑もかけてしまったんです。そのタカさんにまだゴールが生まれていなかったということもあって、自分のアシストでシュートを決めてくれたのは、とてもうれしかったです」
同じサッカー出身者で元Jリーガーの京谷HCも「スペースの取り方やタイミングの測り方など、いい感覚を持っている選手」と期待を寄せた。
課題も多く浮き彫りとなった今大会だが、若手にとっては今後への貴重な経験となったはずだ。彼らのレベルアップが日本全体の競争を激化させ、ひいては東京パラリンピックで金メダルを目指す日本代表の底上げにつながる。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
【Sportiva webサイト】
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斎藤寿子●取材・文 text by Saito Hisako photo by X-1