実話から着想を得て描かれた映画「水上のフライト」は、走り高跳びでオリンピック出場を目指していた主人公・藤堂遥が不慮の事故に遭い、車いすでの生活を余儀なくされるところから始まる。
もう夢を追いかけることができない――。自暴自棄になり、どん底を味わう遥が、パラカヌーと出会い、人の温かさや生きる喜びを感じ、自分の運命を受け入れて笑顔を取り戻していく感動の物語だ。
そして、この難しい遥役を演じたのがモデルや女優として活躍中の中条あやみさん。今回のインタビューでは、劇中で乗りこなしていた車いすやカヌーへの初挑戦とともに、役をとおして見えた自身の性格などについても聞いた。
――この作品の主演を務めることが決まった時の感想を教えてください。
中条あやみ(以下、中条) 走り高跳びの選手としての将来を有望視されながらも、不慮の事故で半身不随になってしまい、突然の悲劇に見舞われて人生と向き合っていく主人公・遥は、正直とても難役でした。カヌーも遊びで乗ったことはあったんですけど、本格的に乗ったのは今回が初めてで、イチから練習して。ちょっとバランスを崩すだけで傾いてしまうし、風が吹くとあっという間に流されてしまうんですよ。本当に、ただ乗っているだけでも難しかったので、最初は遥を演じることも含めて「私にできるかな?」という不安の方が大きかったです。約1カ月ちょっと必死で練習して、なんとか人並みに漕げるようになりました!
――カヌーを漕いでいるときはどんな気持ちでしたか?
中条 風を浴びながら漕ぐのって疾走感があって、本当に気持ちいいんです。最初の頃はずっと大学のプールで練習していたので、初めて川に出た時に感動しました。川の流れも手伝ってくれるので、ぐんぐん進んでくれるんですよね。
――今回の作品を通して、パラスポーツへの興味はわきましたか?
中条 もちろんです! 装具と一体になって競技に立ち向かう選手の皆さんを拝見していると、すごく生命力を感じるんです。皆さん、エネルギッシュで偉大だなって心の底から思いました。今回の劇中で杉野(遥亮)さんが演じていたような、装具を作っている技術者の方とのチームワークがあることも今回初めて知りましたし、障害のレベルによってルールが違うこともわかって、これからはいろんな競技を応援してみたいと思うようになりました。
――遥を演じることになって役作りはされましたか?
中条 車いすのシーンが多かったので、車いすの先生についていただいて操作の練習をしました。車いすの先生にご自身が車いす生活になった時の気持ちをお聞きしたり、参考にできそうな映像作品を観ることで、気持ちを作っていきました。
――今回演じられた遥と中条さんの似ているところはありましたか?
中条 私、何かをできないことがものすごく悔しいタイプなんです。結構負けず嫌いなところがあるんですけど、そこは遥とすごく似てるなって思いましたね。だから今回もボディダブル(撮影時、技術的に難しいシーンでの代役)さんを適宜入れてくださるというご提案を頂いたんですけど、それがすごく悔しくて。「自分でやりたい」と思って、プロデューサーさんに「絶対(カヌーを)浮かせます。やらせてください!」って直談判しました。
遥も挫折を経験しますが、私もこれまで仕事における挫折は何度もしてきました。オーディションであっさり帰されてしまったとか、雑誌の撮影をしていても、他のモデルさんに比べてポージングがうまくできなくて落ち込んだりとか……。でも、その都度、自分の弱さを認めた上で立ち直って、前を向いて進んできたから今がある。もちろん、遥の運命とは比にならないレベルだけれど、弱さと芯の強さ、その相反する部分は、遥も私も持ち合わせている。その2つの表現にきちんと差がつくよう意識しながら演じたつもりです。
――走り高跳びの選手として、華麗な背面跳びをされているシーンも印象的でした。運動神経にはもともと自信がある方ですか?
中条 それが、ちっともないんです。どちらかというと鈍臭い方で、鈍臭いなりに練習して頑張りました。“華麗”なんておっしゃっていただけてうれしいです! 運動をしていた経験は、高校生の頃に部活でやっていたバドミントンくらい。今思い返しても「なんでバドミントン部に入ったんだろう?」っていうくらいハードな部活でした。
練習内容もみっちりでしたし、ラケットでシャトルを打つ以前にベースの体力作りがすごくしんどくて。筋トレもしていたし、走り込みもたくさんしましたね。シャトルの速度も、よく公園でお友達とするような感じじゃなくて、時速何百キロで“シュン”みたいな。時々弱音を吐きながらも3年間やり遂げました。そこはやっぱり、負けず嫌いなので(笑)。
――筋トレは劇中でもハードにこなされていましたね。最近も何か運動をされていますか?
中条 スタイルキープと体力づくりのために、ジムに通っています。もともといろんなパーツを鍛えている方だと思うんですけど、カヌーを漕ぐ筋肉を鍛えるメニューは全然違いました。カヌーを漕ぐときに大切なのは引く力なので、主に背中の筋肉で、ジムの先生に相談してメニューを組み立ててもらいました。プロテインもしっかり飲んでいましたし、劇中で遥が調理していた“ブロッコリーと鶏肉”みたいなレシピを自分も食べて、アスリートのような生活を送りながら撮影現場に通っていました。
――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
中条 「水上のフライト」は、いろんな目線で観られる映画だと思います。遥の気持ちになることもできるし、コーチやお母さんの視点に立っても胸にじんわりとくるものがあると思います。ご自身の経験と重なる部分も少なからず、ある気がします。観てくださるすべての方に、前に進む勇気を持っていただける作品だと思います。
【プロフィール】
中条あやみ
1997年2月4日生まれ、大阪府出身。
身長169cm 血液型 O型
「CanCam」で専属モデルをつとめるほか、映画からテレビドラマ、CMなどに出演し、
女優として幅広く活躍している。
公式Instagram https://www.instagram.com/nakajo_ayami/
映画「水上のフライト」 現在公開中!
オフィシャルサイトはこちら>>https://suijo-movie.jp/
監督:兼重淳/企画:土橋章宏
出演:中条あやみ/杉野遥亮 高月彩良 冨手麻妙/大塚寧々 小澤征悦
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:KADOKAWA 宣伝協力:シンカ
石橋里奈●取材・文 text by Ishibashi Rina 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto) 横山雷志郎●ヘアメイク 上田リサ●スタイリスト
インタビュー 瀬立モニカ(パラカヌー)
今月のパラアスリート(18年6月号)