来夏に予定された開幕を前に、東京2020パラリンピック大会をより身近に感じ、より楽しむことができる施設をご紹介します。その名も「太陽ミュージアム~No Charity, but a Chance!~」。パラスポーツの歴史を伝える貴重な資料や所蔵品の数々が並び、各種パラスポーツ用具を体験できるコーナーもあります。
「日本のパラリンピックの父」と呼ばれる、故中村裕(ゆたか)博士(1927~84)の功績をはじめ、パラリンピックや日本におけるパラスポーツの歴史などを紹介し、「学ぶ、体験する、感動する」を目指した体験型資料館で、同博士が1965年に創設した大分県別府市の社会福祉法人「太陽の家」の本館隣に新設され、7月4日から一般公開がスタートしています。
ミュージアムのエントランスでは「太陽ミュージアム」のロゴが出迎えてくれます。形や太さの異なる線や点で表現され、「多様性」を象徴するようなオリジナリティあふれる文字デザインになっています。
鉄骨平屋建てで白壁と白木の床で明るい印象の展示室はまず、中村博士を紹介するコーナーからスタートします。ミュージアムの名称にもなっている、法人の理念である「No Charity, but a Chance!(保護より機会を)」に込められた博士の想いを知ることができます。
中村博士は別府市生まれの整形外科医で、イギリスのストーク・マンデビル病院に留学し、「パラリンピックの父」と言われるルードヴィヒ・グットマン博士に学び、日本帰国後に障がいのある人々のリハビリテーションにスポーツの導入を始めます。さまざまな逆境も乗り越え、1964年の東京パラリンピック開催にも尽力。自ら日本選手団団長も務め、成功に導きました。
1964年の東京パラリンピックで博士が着用したジャケット。選手にはユニフォームが支給されましたが、スタッフには支給されず、自前のジャケットの左胸に日の丸のエンブレムを縫い付けたそうです。
博士がイギリスで購入した、1960年代の電動車いす“EPIC”(左)と、太陽の家で製作した和室対応の特製の車いす。タイヤが太いのは畳を傷つけないため、高さが低いのは当時一般的だった、ちゃぶ台にも対応しているから。
中村博士は東京オリンピック翌年の1965年、障がい者に働く場を提供する「太陽の家」を創設しています。その歩みを紹介するコーナーでは障がいの有無を問わず働きやすい職場づくりの工夫などが紹介されています。また、障がい者の暮らしをサポートし、「自分でできる」ように創意工夫された自助具などが展示され、体験することもできます。
「世に身心障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」ーー中村博士の考えであり、創設時の太陽の家の理念でした。身体障がい者の支援から始めたので「身」が先になっています。
展示室中央には障がい者スポーツコーナーがあり、競技用車いすや義足などの用具も展示され、車いすバスケットボールやボッチャなどの体験コーナーもあります。現在のアジアパラ競技大会の前身で、中村博士が創設に尽力したフェスピック競技大会(1975~2006)のメダルなど貴重な資料も並んでいます。
「思いやりのまち」と呼ばれる別府市の立体マップは、「FOR→WITH」と呼びかけ、共生社会について考えるヒントがちりばめられています。
竹のアートクラフト「ミンナノタイヨウ」は太陽の光をイメージし、「太陽の家」の利用者、職員と社員約400人が思い思いに編み込んだ約4,000本のカラフルな竹ひごで作られ、ここでも多様性が表現されています。
屋外の「体験ゾーン」では車いすに乗って坂道や段差など日常生活シーンを体験できるほか、車いすバスケットボールのゴールもあり、競技用車いすでシュートやスラロームのチャレンジもできます。
このように、「太陽ミュージアム」はパラスポーツや障がい者雇用の歴史を知り、今を体感できる貴重な施設です。そして、パラリンピックが障がいのあるアスリートの最高峰の大会であるとともに、その背景に長い歴史と尊い理念が根ざすことなど、さまざまな気づきや驚きを体験できるでしょう。
<太陽ミュージアム>
所在地:大分県別府市大字内竈1393番地2
アクセス:JR亀川駅より徒歩約5分/別府ICより車で20分
開館日:月曜日~土曜日 10時~16時
休館日:日曜日、年末年始、夏季休暇、その他指定日
入館料:大学・専門学生以上300円/中・高校生100円/小学生以下無料
特設ページ:http://www.taiyonoie.or.jp/museum
問い合わせ:社会福祉法人 太陽の家 広報課
電話番号:0977-66-0277
メール:info@taiyonoie.or.jp
公式HP:http://www.taiyonoie.or.jp
※現在、全国的な新型コロナ感染拡大に伴い、一時新規見学を中止しています。詳しくはHPをご参照ください。
Photos&Text:Kyoko Hoshino