日本がスペイン戦撃破に必要なオフェンス力
リオパラリンピック以降、日本はスペインと何度も対戦してきた。そして、そのたびにリオ銀メダルチームとの差が縮まってきている。リオのグループリーグでは39-55と完敗だったが、18年のコンチネンタルクラッシュでは63-72と一ケタ差とした。さらにその1カ月後の世界選手権決勝トーナメント1回戦では、50-52と互角に渡り合った。
現在、男子の車いすバスケではアメリカとイギリスが2強でトップに君臨し、そのほか6~8カ国ほどが横一線状態で、どこが勝ってもおかしくないという群雄割拠の状況にある。もちろんその中に、日本とスペインも入っており、東京パラリンピックで対戦が実現すれば、熾烈な争いが繰り広げられることは間違いない。
しかし、実力は決してスペインに劣っていない日本だが、試合ではあと一歩のところで勝つことができていないというのも事実だ。19年のアメリカ遠征ではスペインと3試合をし、最終戦では2点差と善戦したが、勝ち切るところまでは至らなかった。果たして、スペイン戦では何がカギとなるのか。
川原が挙げたのは、ハーフコートでのオフェンスだ。
「スペインがどうこうというよりも、大事なのは日本が力を出すかどうか、だと思っています。2年前のアメリカ遠征では負けはしましたが、ディフェンスに関しては3戦目は60点に抑え、オフェンスが得意のスペインを苦しめました。あと勝つために必要なのは、日本のオフェンス力。トランジションの速さで流れの中での得点を稼ぐことに加えて、ハーフコートで攻めた時のフィニッシュまでの合わせの精度やシュートの成功率を高めていけば、勝機は見いだせると思います」
スペインの強さと突破口を冷静に分析してくれた川原凜選手(右)(撮影・越智貴雄/カンパラプレス)
トランジションバスケを磨き続けてきた日本は、アメリカ遠征当時は本格的にハーフコート・オフェンスに着手して間もないころ。そのため、まだ一人ひとりの動きがかみ合わずにポジションが重なったり、逆に選手間の距離が遠すぎてタイミングが合わず、スムーズに次のプレーにつなげられなかったことも少なくなかったという。
しかし、月に一度の割合で行われている強化合宿ではハーフコート・オフェンスでの合わせの練習を積み重ねてきた。そのため、選手同士で「次に何をしようとしているのか」「今、自分がどう動くべきなのか」が阿吽の呼吸でわかるようになってきている、と川原は言う。
スペインは、12人のメンバーがリオパラリンピックとほぼ変わらず、主力も固定されている。チームとしての安定感はあるが、新しい戦術・戦略が生み出されるということはほぼないと予測される。ある意味では停滞気味のスペインとは異なり、日本は17年以降、若手が次々と台頭し、それに刺激を受けるように経験値の高いベテラン勢も存在感を示している。若手とベテランとがうまく融合された日本の成長はとどまるところを知らない。
そんな全く異なるスタイルの日本とスペインとの試合の見どころについて訊くと、川原は自信たっぷりにこう答えてくれた。
「東京パラリンピックでは、運動量の激しい日本のディフェンスに対して、めちゃくちゃ嫌そうにしているスペイン選手の表情に、ぜひ注目してほしいと思います。それだけ日本のディフェンスは強いです。オフェンスもディフェンスも、やることをすべてやりきって、必ずスペインに勝ちますので楽しみにしていてください!」
リオ以降、毎年新たな戦力を生み出し、変化し続けてきた日本が、東京パラリンピックでどんなバスケを見せるのかは世界が注目しているに違いない。その大舞台でスペインを撃破する姿も披露してくれるはずだ。
文/斎藤寿子