表彰式はメダル授与のない新方式。大会2日目の大回転1戦目、男子座位はベテラン勢が席巻。左から、2位の鈴木猛史、1位の森井大輝、3位の狩野亮。
開幕まですでに1年を切った2022年北京冬季パラリンピックに向けて、出場を目指すパラアスリートたちの戦いもすでに始まっている。コロナ禍の影響で例年とは異なる環境や状況のなか、それぞれの目標を見据え、前に進んでいる。
アルペンスキー日本代表チームは、例年なら夏や秋に海外に遠征して雪上練習を積んだのち、シーズンインとともにレースを転戦し、強化を進めていく。だが、今季は北京パラのプレシーズンであるにも関わらず、海外遠征もままならず、貴重な実戦機会である2月の世界選手権(ノルウエー)や3月のワールドカップファイナル(北京)も中止となった。北京パラ前哨戦となるテスト大会も中止され、難しい調整を強いられるなか、選手たちはそれぞれ、欧州遠征組と国内調整組に分かれて強化を進めてきた。
異例ずくめの今季、国内初戦となったのが3月9日から13日に長野県の菅平パインビークスキー場を舞台に行われた「2021ワールドパラアルペンスキー(WPAS)アジアカップ第1戦〜菅平高原シリーズ〜」だった。WPASポイントの獲得対象となる大会で、北京大会出場にもつながる重要な一戦に、日本代表クラスから次世代を担う期待の若手まで16選手(男子11、女子5)が顔を揃えた。
アルペンスキー全5種目のうち、今大会では高速系のスーパーGと技術系の大回転、回転の3種目各2戦の全6レースが実施され、男女別・障がいカテゴリー別に優勝が争われた。初日のスーパーGは菅平高原のコースでは初めての実施、2日目の大回転1戦目は天候急変でスタートが2時間も遅れ、荒天予報だった5日目の回転2戦目は急遽前倒しされ、4日目に回転2戦(全4レース)を行うなど、選手たちには対応力や体力、精神力の強さも問われる大会となった。
約2年ぶりのスキー大会出場ながら圧倒的な強さを見せた村岡桃佳選手
■“二刀流”で進化を示した、エース村岡桃佳
そんな今大会、最も注目を集めた選手は女子座位の村岡桃佳(トヨタ自動車)だろう。2018年平昌冬季パラリンピックで金1個を含む全5種目でメダル獲得後、夏の東京パラリンピック出場を目指して本格的に陸上競技との“二刀流”にも挑戦。スキー大会出場は今大会が約2年ぶりで、その滑りが注目されたが、攻めすぎて途中棄権となったスーパーGの2戦目以外、5戦で優勝を飾る圧倒的な強さを見せた。
初日のレース後は、「久しぶりのレースで、とにかく緊張した。普段の緊張とはレベルが違うほど。2戦目の転倒は悔しかった。でも、思ったより体は動いたし、楽しかった」と話し、19年4月から20年10月まで休んでいたというスキー練習のブランクを感じさせないパフォーマンスを披露した。
その後は連勝で4日間の大会を終えると、「1日1日が長いと思ったが、終わって見れば、あっという間だった。復帰戦としても、来年の北京(パラ)に向けた1年前のスタートとしても、いい感触で終れた」と笑顔で振り返った。
好調の要因として挙げたのは、「二刀流の挑戦」だった。東京大会延期という「想定外」の事態に直面し、2競技のスケジュールが重複する部分もあり、「どのような選択をするか、悩む部分もたくさんあった」と明かす。昨年秋にスキーを再開し、約1年半ぶりに雪上に戻ったときは鈍った感覚を実感したが、小学3年から約14年になるスキー歴とポテンシャルの高さで、すぐに感覚を取り戻し、「スキー、ものすごく楽しいな」と、競技への思いがプラスにリセットされ、「むしろ貪欲さが生まれた気がした」と話す。
車いす陸上のトレーニングで体幹も含めた上半身の強化は基礎体力の増強につながり、スキー操作にもいい影響を及ぼした。何よりも、「あれもできる、これもできると、自分の中で限界を感じなかった」とメンタル面での進化を実感したという。
東京パラ延期に伴い、北京パラへの準備期間は約半年と、かなり短くなるが、陸上への挑戦も糧に、「北京に向けて、さらにレベルアップしていけるかなという手ごたえもつかめた。頑張りたい」と、改めて二刀流への強い決意を示した。
日本代表チームの石井沙織ヘッドコーチ(HC)も、今大会で印象に残った選手に村岡の名を挙げ、「陸上に行ったことで、気持ちの面で一回りも二回りも大きくなったと感じた。久しぶりのスキーも、2年前と変わらなかった。海外勢にも負けないダイナミックな滑りだった」と、エースのパフォーマンスを評価した。
星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko 吉村もと●写真 photo by Yoshimura Moto