前回から、来年3月の北京冬季パラリンピックで飛躍が期待される注目選手にフォーカスしている、MEN’S NON-NOの連載「2022年パラリンピックへの道」。今回は、選手生命を左右する大ケガさえも力に変えてしまうスーパーポジティブなアルペンスキーヤーが登場!
「昔から健常者と一緒にラグビーや体操、ボクシングなど手を使う競技を当たり前のようにやってきたので自分に左手がないという意識が全くなくて。だから美談が一切ないんですよ(笑)」
底抜けに明るい笑顔でそう語るのは、ラグビーからスキーへと転向して1年半で2018年の平昌冬季パラリンピックに出場した本堂杏実。
「ラグビーで上をめざそうと日体大に入ったので転向当初は葛藤がありましたけれど、初めてのパラスキー日本代表合宿で出会った車いすや義足の方々がその後レースですごい滑りをされたのを見て『私もこの世界で戦いたい!』と思ったんです。そこがスキーヤーとしての原点ですね」
とくに平昌で5つのメダルを獲得し、今夏の東京パラにも陸上で出場した同い年の村岡桃佳からは常に大きな刺激を受けているという。
「村岡選手とは合宿で同じ部屋になることが多くて。出会って1週間後にはお互いをいじり合えるいい関係に。彼女が陸上で東京パラに出場するのを見て、すごいなと思うと同時に負けていられないなって」
昨冬には前十字靭帯断裂という全治7か月のケガをした彼女。しかし持ち前のポジティブさでそのケガすらも前向きにとらえている。
「それこそケガしてなかったらこんなにリハビリやトレーニングで自分を限界まで追い込めていなかったから逆に成長できたかなって。だからケガも私の人生で必要な出来事だったんだなと今は思っていますね。やっぱり私、ネジが1本ぶっ飛んでいるのかも(笑)」
とにかく"スピードに乗る"ことが大好き。そのアグレッシブな姿勢でケガを乗り越え、北京パラリンピックでの活躍を誓う。
「速さへの恐怖心がないのは自分の強み。もうアドレナリンがバンバン出ますから。北京に必ず出場して、高速系種目のダウンヒル(滑降)やスーパー大回転で自分らしさを思い切り発揮したいですし、これまでサポートしてくださった方々にメダルで恩返しがしたいです!」
【プロフィール】
本堂杏実さん
ほんどう・あんみ●1997年1月2日生まれ、埼玉県出身。「先天性全左手指欠損」の障がいがありながら、5歳の頃に父親の影響で始めたラグビーで18歳以下の日本選抜に選出されるほどの実力者に。そして日本体育大学2年時にパラアルペンスキーに競技転向。2017年ジャパンパラ競技大会の大回転で優勝すると、2018年の平昌冬季パラリンピックでは回転で8位に入賞。現在は日本体育大学大学院に通いながら来年の北京冬季パラリンピックでのメダルをめざす。
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Photo:SportsPressJP/AFLO Composition & Text:Kai Tokuhara