9月25日に開幕した車いすバスケットボールのドイツ・ブンデスリーガ(1部)で、無傷の開幕6連勝と快進撃を見せているランディル。その主力として活躍しているのが、香西宏昭と藤本怜央だ。10月30日には、ランディルにとって最大の難敵であるテューリンギア・ブルズと対戦。今シーズン最多となる1046人の観客が固唾をのんで見守るなか、ランディルが71-69で競り勝った。5シーズンぶりのリーグ優勝を目指すチームにとって、大きな1勝であったことは間違いない。
守備力のランディルvs.攻撃力のブルズ
名実ともにブンデスリーガを代表するトップチームであり、毎年のように優勝候補の筆頭に挙げられているランディルだが、近年は4シーズン連続でリーグ準優勝と、あと一歩のところで王座奪還を逃している。そのランディルの前に常に難敵として立ちはだかってきたのが、因縁のライバルであるブルズだ。
昨シーズン、ランディルはドイツの車いすバスケットボール界における三大タイトルの一つ、ドイツカップ(日本の天皇杯と同じオープントーナメント形式の大会)で優勝。さらにリーグ戦も首位の座を獲得した。しかし、リーグ戦の上位4チームが進出するプレーオフのファイナルでブルズに敗れ、またもライバルの牙城を崩すことはできなかった。
その雪辱を果たし、5シーズンぶりの王座奪還を目指す今シーズンのランディルには12人中6人が東京パラリンピックに出場するなど、世界トップクラスのタレントがそろった。東京パラリンピックでリオに続く連覇を達成したアメリカ代表のブライアン・ベル、2018年世界選手権覇者イギリス代表のサイモン・ブラウン、東京パラリンピックドイツ代表のトーマス・ベーメーがチームに残り、さらに新たに大きな戦力が加わった。
なかでも東京パラリンピックで日本に銀メダルをもたらした香西と藤本、その日本とアジアオセアニアではライバル関係にあるオーストラリア代表のヤニック・ブレアの3人の加入は大きく、残留組の3人とともにチームの主力となっている。
今シーズンのランディルが最大の強みとしているのは、ディフェンスだ。プレスディフェンスを主軸とするラインナップと、ハーフコートディフェンスを主軸とするラインナップがあり、いずれも高いラインまで張り出し、相手の体力を削りながらインサイドでの攻撃の時間を与えないようにすることをポイントとしている。スピードと高いチェアスキルを持つ香西はプレス、そしてチーム一の高さを持つ藤本はハーフコートのラインナップの一員として、それぞれ重要な役割を担っている。
一方、ヨーロッパクラブNo.1を決めるユーロカップを連覇するなど、強さを誇るブルズはオフェンスのチームだ。今シーズンも7試合中4試合を100点ゲームで制するなど、圧倒的な得点力を誇っている。その中心が、東京パラリンピックドイツ代表のアレクサンダー・ハロースキーと、元イラン代表のヴァヒド・ゴーラマザドの長身のハイポインター陣だ。特にハロースキーはインサイドだけでなく、3Pシュートなどアウトサイドもあり、今シーズンは1試合で42得点と驚異的な数字を叩き出している。
そんなスタイルの異なる両チームの今シーズン初対戦は、ランディルが4連勝、ブルズが5連勝と、全勝同士の首位争いという注目の一戦となり、ランディルの本拠地のアリーナには1000人以上の観客が詰めかけた。
試合は手に汗握る展開が続き、第3Qを終えた時点で54-54。両チームの応援団が固唾をのんで見守る中、軍配が上がったのはランディルだった。最後の最後にブルズが立て続けにミスをし、これをランディルがしっかりと得点につなげたのだ。
ランディルの展開だったシーソーゲーム
「みんなが40分間集中して、やるべきことをやり続けたからこそ、何度も100点ゲームをするようなチームを60点台に抑えられたのだと思います」と香西。その言葉通り、ランディルの速くて執拗なディフェンスは、思うように得点できなかったブルズには試合が進むにつれて堪えていたはずだ。
たとえば第3Qの中盤、ランディルは1点差に迫られた中で連続でシュートが外れ、リバウンドボールを取ったブルズが攻撃に転じた場面。すぐにランディルはオールコートでのプレスディフェンスをしき、ハーフライン付近でブルズの動きを完全に封じ込めた。するとブルズの選手がドリブルで突破口を開こうとして香西に激突。しかし、香西はしっかりと行く手を阻むようにしてポジション取りをしていたためにオフェンスファウルとなり、ランディルのボールに。ブルズは一気に流れを引き寄せるチャンスを逃した。
こうしたランディルの強固なディフェンスが、ブルズにとってはストレスとなったに違いない。そしてそのストレスの蓄積こそが、終盤の大事なところでのミスとなり、両チームの明暗を分けたとも考えられる。
試合は終始1点を争うシーソーゲームとなり、混沌としていたように映るが、圧倒的なオフェンス力でリードを奪いたいと考えていただろうブルズとは異なり、ディフェンス力で接戦に持ち込めば勝機を見出せると考えていたランディルの方に分があったのかもしれない。
藤本も「うちのチームの方が、ディフェンスの種類が豊富だなと。自分自身も試合をしながら“これが自分たちの強い部分なんだ”という手応えを感じながらプレーしていました。接戦ではありましたが、自分たちにとっていい強度とリズムが常にあって、心地よさを感じていた」と語っている。
ライバルとの一戦を白星で飾ったランディルは、翌週の第6戦はダブルスコアで快勝。現在、唯一の全勝チームとして首位をキープしている。しかし、リーグ後半にはブルズとの第2戦、しかも今度はアウェイでの試合が待ち受けている。前半を全勝で折り返し、後半での大一番に向けてさらに勢いを加速させたいところだ。
写真・ 文/斎藤寿子
東京2020パラリンピック速報
車いすバスケ男子を初の4強に導いた、香西宏昭の真骨頂。