2年ぶりに王者「銀色の弾丸(シルバー・バレット)」が大分の地に帰ってくるーー。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて延期され、代替大会となった「大分国際車いすマラソン」。今年は2年ぶりに海外勢を招待し、第40回記念大会として11月21日に開催される。同大会で最も注目されるのは、通算9回目、大会3連覇を目指すマルセル・フグ(スイス)だ。
東京パラ後も続く絶対的王者の風格
フグのトレード―マークはレースで着用する銀色のヘルメットだ。「銀色の弾丸」という愛称は、そのヘルメットをかぶって弾丸のように他を寄せ付けない圧倒的なスピードで駆け抜ける姿にちなんだものだ。特に晴れた日は銀色のヘルメットが太陽の光でまぶしく光り、そのため遠くからでもフグがどの位置を走っているかがひと目でわかる。
先天性の二分脊椎という障がいがあるフグは、幼少時代から車いす生活を送ってきた。陸上を始めたのは、10歳の時。8年後の2004年には、初めてのパラリンピックとなったアテネ大会に出場した。
プロアスリートとして臨んだ3度目のパラリンピック、2012年ロンドン大会では、優勝候補の筆頭に挙げられながらも金メダルには届かずに悔しい思いをした。その雪辱を果たしたのが、4年後の16年リオ大会。800メートルとマラソンで2冠を達成した。
そして35歳で出場した今年の東京パラリンピックで、フグはエントリーした4種目すべてで金メダルに輝くという偉業を達成した。まずはトラック種目でその実力を発揮。1500、5000メートルとリオでは銀メダルに終わった2種目を制覇。しかも1500メートルではそれまでの世界記録を2秒以上更新する2分49秒55の新記録を樹立するというおまけつきだった。そしてトラック競技最後の800メートルでは、予選4位から決勝ではトップでゴール。リオに続いての連覇を達成した。
大会最終日に臨んだマラソンでは、レース序盤の7キロ付近で片側のハンドリム(手で漕ぐための車輪のタイヤの外側についている輪)が外れるというアクシデントに見舞われ、思うようにはスピードを出すことができなかった。それでも終盤の40キロ付近の上り坂で中国選手を突き放し、20秒差をつけてトップでゴール。800メートルと同じく、リオに続いての連覇を達成した。
フグが東京パラリンピックで使用したレーサー(競技用車いす)にも注目された。F1のアルファロメオ・レーシング・オーレンを運営するザウバー・グループがスイスのパラリンピック選手のために開発したもので、最新のテクノロジーが搭載されている。
もともとの実力に加えて、最先端のレーサーを手に入れたフグの勢いは東京パラリンピック後もとどまるところを知らない。10月11日のボストンマラソン、11月7日のニューヨークシティマラソンと立て続けに優勝しているのだ。
前回、19年の大分国際車いすマラソンでは、鈴木朋樹と2人で抜け出し、最後はトラック勝負で鈴木を圧倒して8回目の優勝を手にしたフグ。今大会は、2年ぶりとなる大分の地で、どんな走りを見せてくれるのか。レースは21日10時、スタートだ。
写真/越智貴雄[カンパラプレス] 文/斎藤寿子