東京パラリンピック後初の公式戦となる「第36回全日本視覚障害者柔道大会」が11月28日、講道館で開催された。男子66㎏級は東京2020パラリンピックで銅メダルを獲得した瀬戸勇次郎が制し、3連覇を果たした(前回大会は新型コロナウイルスの影響で中止)。
3選手がエントリーした同階級は、総当たりのリーグ戦を実施。瀬戸は第1試合で藤本聰と対戦し、激しい攻防を制して大内刈りで一本勝ち。続く川上流葵との試合は、開始27秒で鮮やかな背負投げを決め、存在感を示した。
4歳で柔道を始めた瀬戸は先天性の視覚障害がある。高校の柔道部で活躍し、2017年に視覚障害者柔道を始めた。翌年の全日本でリオ大会銅メダリストの藤本を破って優勝したことで国際大会の日本代表になり、そこから着実に力をつけ、東京パラリンピックにつなげた。
経験豊富で試合巧者の藤本との直接対決は、どの試合も激闘になる。今大会も得意の背負投げを徹底して封じられ、先に指導が与えられたところから巻き返した。「東京でメダルを獲ったからこそ、今日は絶対に負けられないと思った。藤本さんがいることでモチベーションが上がる。楽しい試合だった」と、瀬戸は振り返る。
現在、福岡教育大の4年生。特別支援学校の教員を目指し、教育実習をこなして今大会に臨んだ。パリ大会を視野に入れる瀬戸は、勉強と柔道を両立するため大学院進学を考えているといい、「今以上の稽古の時間を確保できる環境を作りたい」と言葉に力を込める。
実はそのパリ大会で、視覚障害者柔道は節目を迎える。これまでパラリンピックは男子7階級、女子6階級の体重別で行われ、弱視から全盲まで障害の程度が違う選手が一緒になって戦ってきたが、パリ大会では全盲と弱視の2つのカテゴリーに分けられ、それぞれ4階級での実施に変更される。弱視の瀬戸は、現状では73㎏級に階級変更を余儀なくされる可能性があり、「66㎏級は先輩方がメダルを獲ってきた階級で、自分も愛着と誇りを持っている。すごく残念だしショックだけど、仕方ない」と語り、前を向いた。
また、今大会は育成選手も参加し、将来が楽しみな新星が現れた。初出場の柳下将真は男子100㎏級に出場し、東京パラリンピック日本代表の松本義和らを破って頂点に立った。第1試合は松本を相手に防御を固め、延長戦に持ち込んで、相手への指導3枚で優勢勝ち。続いて、東京大会の男子90㎏級代表で今大会は階級変更して臨んだ廣瀬悠に対しても延長戦まで粘り、小外掛けで一本勝ちをおさめた。
千葉県出身で20歳の柳下は、先天性の白内障で中心視野が欠けている。3歳10カ月で柔道を始め、高校3年まで健常者と一緒に汗を流してきた。現在は、了徳寺大の指導者が地元の小中学生に教えている了徳寺柔道クラブに所属する。
視覚障害者柔道の存在を知ったのは昨年のことで、公式戦出場は今回が初めて。組み合った状態から試合をするのも初めてで、「圧力が全然違う。健常者の何倍も力が強い印象」と、松本、廣瀬という二人のパラリンピアンの迫力に驚いた様子だった。柳下は、「今回は健常者柔道の経験を活用できたけれど、実力で勝ったとは思っていない」と振り返り、「パラリンピックに出て上位に食い込みたいけれど、まだ知識も経験も少ないので、有頂天にならずに今まで通り、堅実に稽古を重ねていきたい」と話した。
来年3月には「第2回東京国際視覚障害者柔道選手権大会」が開催される予定だ。さらには、世界選手権も控えている。世界的に競技レベルが向上するなかで、日本人選手はどのような進化を見せていくのか、注目が集まる。
写真/植原義晴 文/荒木美晴
『パラリンピックジャンプvol.1 』より
TOUGH TALK 猿渡哲也×藤本聰