2月1日から4日までの4日間、「World Para Alpine Skiing公認2022ジャパンパラアルペンスキー競技大会」が長野県上田市の菅平高原パインビークスキー場で開催された。大会は高速系種目のスーパー大回転、技術系種目の大回転と回転の3種目5レースが実施され、男女障がいカテゴリー別に「日本一」が決定。開幕まで1カ月を切った北京パラリンピックの日本代表選手(*)7人(男子5、女子2)も出場。メダル獲得実績のある選手たちが順調な調整ぶりを示した。(*2月8日一次発表)
パラリンピック6大会連続出場の森井大輝が貫録の優勝
2002年からパラリンピック5大会連続出場でメダル5個(銀4、銅1)を獲得している座位男子のエース、森井大輝(トヨタ自動車)は6大会目となる北京大会で悲願の金メダルを目指す。今大会は3回目のコロナワクチン接種の影響で後半2日間だけの出場となったが、大回転で貫録の優勝を果たし、最終日の回転でも2位と存在感を示した。
座位の選手にとってチェアスキーは競技結果を大きく左右する重要な要素で、ルールの範囲内でカスタマイズしたうえに、種目や雪質、コースレイアウトなどに応じたサスペンションやフレームなどのセッティングの調整が欠かせない。「チェアスキーへのこだわり」という面では、森井は他の追随を許さない、といっても過言ではないだろう。最終レース後のインタビューでは、今季中に試したセッティングのパターンは、「今日で101個目」と明かした森井。コロナ禍でテスト大会も中止され、北京のコースは未見だが、現地入り後のコース練習で最適なセッティングを見極め、勝負に挑むつもりだ。
「今できる環境で最大限の努力をしようというのが今季の僕のテーマ。最終合宿で調子を上げ、北京本番に臨みたい」と話した。目標はずばり、金メダル獲得だ。「支えてくれる大勢の人への恩返しという思いと、キャリアのなかで唯一持っていないのがパラリンピックの金メダルなので、誰よりも思いは強い」と意気込む。
狩野 亮はメダル奪還に手応え
同じく座位男子で、高速系種目を得意とする過去大会の金メダリスト、狩野亮(マルハン)は初日のスーパー大回転第1戦で優勝、第2戦でも2位に入った。「レースでしか得られない感覚がある。自分なりに課題をもってレースに臨み、収穫があった」と手ごたえを口にした。
前回、平昌大会では3連覇を狙ったスーパー大回転で悔しい5位に終わった。通算5大会目となる北京大会のコースについては、「映像で見る限り、かなり難しく、応用力が問われる厳しいレースになるという印象。どんなコースでもミスなく対応でき、自分のパフォーマンスを出し切ることを課題に、コツコツ練習を積み重ね、レース勘を取り戻したい」と雪辱の舞台に向けた最終調整への意気込みを口にした。
異例のスケジュール、例年にはない緊張感も
コロナ下で開催された今大会には、例年にはない重要な開催目的もあった。大会開催時点で日本代表に内定していた7選手のうち3人は、今季、コロナ禍により国際大会に出場できず、国際パラリンピック委員会が定める北京大会出場資格を満たしていなかったのだ。そのため、例年3月に行われる今大会が前倒しして開催され、該当選手には高速系と技術系の1種目ずつで完走し、ポイント獲得などが条件として求められていた。
座位男子で技術系種目を得意とする鈴木猛史(KYB)もその一人。今季は昨年11月、海外合宿から帰国の際、空港で受けた検査で陽性反応を示して療養するなど調整が遅れていたが、まずは目標だった出場資格を得て、「ほっとした」と安堵の表情を見せた。
コロナ禍で練習もままならない時期も長かったが、かえって、「心の底からスキーがしたい。滑りを楽しみたい。楽しめば、きっと体もタイムもついてくると思えた」と心境の変化を前向きにとらえた。今大会は得意の回転で優勝し、「狙っていた種目」と笑顔を見せたが、「ここで満足せず、残り期間で北京に合わせたい」とさらなる高みを見据えていた。
田中佳子は2大会ぶり4度目のパラリンピックへ
同女子の田中佳子(Tポイント・ジャパン)も2日目までに北京パラ出場資格ポイントを獲得すると、その後のレースでは躍動。「思い切って滑り、練習でやっていたことを実践できた」と納得の表情を見せた。パラリンピックは2006年トリノ大会からソチ大会まで3大会連続出場のベテランで、北京は2大会ぶり4度目となる。「残り1カ月、国内での調整で1本1本集中して高めていきたい」と決意を新たにしていた。
立位男子のベテランでトリノ大会銀メダリストの東海将彦(トレンドマイクロ)は無事に出場条件を満たすとともに全5種目を制覇し、ほっとした表情。長いキャリアのなかで、ここ数年は実戦機会が少なく、「調子のピークを合わせることは難しい」としつつ、障がいのため力の入らない左足首をサポートするためブーツに入れる装具の調整に注力する。「やれることは限られているが、最後にしっかり合わせたい」と2大会ぶり3度目となる北京大会に思いをはせていた。
決意を新たにする初出場の2選手
パラリンピック初出場となる2人はともにスキー経験があり、障がいを負ってパラスキーに転向、自身の成長を実感する大会となった。
立位男子の青木大和(EXx)は左脚まひの障がいを負い、2年前から競技に復帰。障がいクラスが同じ東海の背中を追い、競りあいながら世界を目指してきた。「自分でも満足できるレベルまで持ち挙げることはできたが、先輩たちや世界トップとの差はまだある。少しでも詰めていきたい」と意気込んだ。
同女子の神山則子(テス・エンジニアリング)は20年以上前から病気の影響などで左半身にまひがあり、車いす生活になって6年になるが、スキーは立って、右手1本のストックで滑る。インストラクター経験もあり、スキー操作と体の使い方を試行錯誤しながら滑る。「合宿ごとに、1レースごとに自分なりには改善できている」という地道な努力により、1998年長野大会で意識したというパラリンピックまでたどり着いた。「初めてなので雰囲気などは想像できないが、自分の滑りができるようになりたい。楽しみ」と目を輝かせた。
楽しみな北京への展望
日本障害者スキー連盟の大日方邦子強化本部長は、「今大会はWPASポイント取得が必要な選手が3人いて、プレッシャーや緊張感があった。しかし、ベテランの選手たちはそれぞれのペースをつかんだなかで調整が進んでいるし、若手の選手たちも成長しているという手ごたえを感じた」と大会を総括。
また、北京大会でアルペンスキー日本代表監督を務める夏目堅司アルペン委員長は、「それぞれの選手がいいパフォーマンスを見せてくれて、世界選手権を回避して国内でトレーニングを続けたかいがあった」と評価した。また、現時点では北京大会のコース情報は大会組織委員会が提供する図面や映像などのみと少ないが、開催中の「オリンピック(日本代表)チームとも情報共有しながら、準備できれば」と話し、人工雪で硬いバーンという情報については、「とくにチェアスキーや片脚などスキー1本で滑る選手たちにとって硬いコースは厳しい。だが、3月は気温もプラスになり、雪もある程度緩むだろうと予測している」とし、少ない情報も駆使しながら、決戦に挑む覚悟を示した。
なお、2018年平昌大会の座位女子で5つのメダルを獲得し、北京大会でもメダルの期待がかかる村岡桃佳(トヨタ自動車)は右ひじの負傷のため、今大会は大事をとって欠場。日本障害者スキー連盟によれば、リハビリも順調で、雪上での練習復帰時期を探っているという。
北京パラは3月4日に開幕し、13日までの10日間で6競技78種目が行われる。うち30種目が行われるアルペンスキーの日本代表チームはこのあと、国内で最終合宿を行ってから、決戦の地、北京へと出発予定だ。各選手の目標達成を期待したい。
写真/小川和行・星野恭子・ 文/星野恭子