8月6日、7日の2日間にわたってグリーンアリーナ神戸で「皇后杯 第31回日本女子車いすバスケットボール選手権大会」が開催される。1990年にスタートし、2018年からは「皇后杯」を競う同大会は、女子のクラブチーム頂上決戦として、毎年行われてきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止が続き、今回は2020年1月以来の開催となる。全国から6チームが集結する今大会、果たして頂点をつかむのはどのチームなのか。
今大会は、東西それぞれ3チームずつ、2つのプールにわかれて予選リーグが行われ、その結果に従って順位決定戦が行われる。プールAではWING、ELFIN(いずれも関東ブロック)、SCRATCH(東北ブロック)、プールBではカクテル(近畿ブロック)、パッション(四国ブロック)、九州ドルフィン(九州ブロック)が、それぞれ総当たりで対戦する。
最大の注目は、前回大会で史上2チーム目となる6連覇を達成したカクテルが、史上初の7連覇という快挙を成し遂げるかどうかだ。カクテルは、東京2020パラリンピックのメンバーが5人そろい、そのうち4人は今年度も強化指定選手に選ばれているという強豪。今大会も優勝候補であることは間違いない。ほぼ40分間フルでオールコートのプレスディフェンスをしき、速い展開のバスケを強みとするカクテル。スタミナ、スピード、シュート力など、総合力では群を抜いている。
そのカクテルの最大のライバルとされるのが、WINGだ。皇后杯の前哨戦ともなった6月のあじさい杯決勝ではWINGがカクテルを71-42で撃破し、初優勝を達成している。WINGには、財満いずみ、小田島理恵と2人の東京パラリンピックメンバーがおり、最終選考まで残っていたセンター鈴木百萌子の存在も大きい。
そして、日本代表経験者と遜色ないプレーでチームをけん引しているのが、キャプテンを務める椎名香菜子だ。健常者でバスケットボール部出身の椎名は、身体能力が高く、バスケットセンスもピカ一。さらに健常者では難しいとされるチェアスキルや、車いすを漕ぎながらのドリブル、パスなども国内トップクラスの実力を持つ。シューターとして得点能力が高く、あじさい杯ではカクテルの決勝でチーム最多の30得点をマークした。さらにガードとしてゲームメイクにも長けたユーティリティプレーヤーで、WINGの大黒柱だ。
あじさい杯では、WINGに完敗を喫したカクテルだが、実は前回の皇后杯でMVPに輝いた網本麻里が体調不良で不在だったため、フルメンバーで戦うことができなかった。そのため、あじさい杯での結果をそのまま鵜呑みにすることはできない。とはいえ、わずか7人での戦いを余儀なくされたなかで優勝したWINGの強さは本物で、7連覇を狙うカクテルにとっては最大の難敵になることが予想される。
また、前回の皇后杯の時とは各チームのメンバーが大きく入れ替わっており、それぞれの戦力は不透明な部分が多い。それだけに例年以上に、どのチームにも優勝の可能性がある大会とも言えそうだ。
今大会の見どころは、もう一つある。各チームに新加入し、皇后杯デビューする若手選手だ。今回は、そのなかの数人を紹介したい。カクテルでは、高校1年生の西村葵と中学2年生の小島瑠莉が、同じクラス2.0同士で切磋琢磨している。
漫画『リアル』を読んだことがきっかけで車いすバスケットボールに興味を持ったという西村は、小学6年生の時にカクテルの練習を見学し、そのまま加入。今年で4年目となる。一方、小学3年生の時に体験会で車いすバスケを初めて知ったという小島は「すごいスピードで迫力があった。やってみたらおもしろかった」と当時を振り返る。最初に入った地元チームからの紹介でカクテルに加入したのは小学6年生の時。今年で3年目だ。
ともにカクテルでの公式戦デビューとなったのが、今年6月のあじさい杯。先輩たちから厳しく激がとんでいたのは、2人への期待の表れだったに違いない。現在はクロスピックや、ピックアンドロールといった、クラス2.0には不可欠なプレーに重点を置いて練習している。カクテルでクラス2.0は西村と小島のみ。それだけに2人の成長が、今後のチームの戦力アップにつながることは間違いない。
前回まで3大会連続で準優勝のSCRATCHには、東京パラリンピックメンバーの土田真由美、2019年女子U25世界選手権日本代表の碓井琴音と、2人のハイポインターがいる。ともに今年度の強化指定選手でもある彼女たちに次ぐハイポインターの新星として注目されているのが、22歳の郡司渚名だ。
昨年12月から車いすバスケを始めた郡司が、SCRATCHに加入したのは今年5月。そのわずか1カ月後、公式戦デビューとなったあじさい杯では、全3試合で得点をマークした。短期間でシュート力がアップした要因を、郡司はこう語る。
「ずっとなんとなくツーハンドでシュートを打っていて、4月の時にはゴール下のシュートさえもリングになかなか届かない状態でした。でもSCRATCHに入って橘香織ヘッドコーチから“左手の方が力が強いみたいだから、ワンハンドでシュートを打ってみて”と言われたんです。それで左手で打つようにしたら、思った以上にボールが飛ぶようになって、リングまで簡単に届くようになりました」
今では3Pシュートラインからもリングに届くようになったという郡司。皇后杯では、より成長した姿を見せてくれるに違いない。
過去には5連覇を達成したこともある古豪のELFINに、今年4月に入団したのが大学1年生の増田汐里だ。車いすバスケのほか、パラカヌー、パラ陸上とスポーツ経験豊富な増田。パラカヌー、パラ陸上では日本選手権など国内大会に出場してきたが、チーム競技の車いすバスケでは今年のあじさい杯が初めての大会となった。
現在も“三足の草鞋”で頑張っている増田。パラカヌー、パラ陸上を続けつつ、車いすバスケにもっと力を入れていきたいと考えている。あじさい杯で実戦を経験し、さらに車いすバスケへの熱が高まったという。将来はパラリンピックに出場することが目標で、憧れの選手は、ELFINの先輩であり、主力として2000年シドニーパラリンピックで銅メダルを獲得した添田智恵(現女子U25日本代表ヘッドコーチ)だ。
「シュートの打ち方がとてもきれいで、走りもスピードがあってキレがある添田さんのような選手になれたらなと思っています」
そのほかにも、将来有望な若い選手たちが各チームに所属している。いずれも来年の女子U25世界選手権の候補に挙がることが予想されるだけに、彼女たちの成長著しいフレッシュなプレーにも注目したい。
写真・ 文/斎藤寿子