9月14日、タイ・プーケットで開催されている車いすバスケットボール男子U23世界選手権の準々決勝。グループA3位の日本は、グループB2位のイスラエルと対戦し64-43で快勝、ベスト4進出を決めた。スタートから試合の主導権を握り、攻防にわたって相手を圧倒した。
「前半、日本らしい粘り強いディフェンスで凌ぐことができた。これが一番の勝因だったと思います」
京谷和幸HC(ヘッドコーチ)がそう語るように、この勝負は出だしの日本のディフェンスに尽きた。初戦からスタートを任せられている不動の布陣、キャプテン宮本涼平、鳥海連志、赤石竜我、髙柗義伸、塩田理史の5人が、息の合ったディフェンスを披露。そこには、明確な意図があった。
イスラエルには、2人のポイントゲッターがいる。クラス4.5のハイポインター、アミット・ヴィゴッダと、クラス2.5のミドルポインター、ラディ・ダガミンだ。予選リーグ5試合での総得点は、ヴィゴッダが86、ダガミンは69を誇り、そのほかの選手は30点台以下となっていた。さらにアシストにおいても、ヴィゴッダが32、ダガミンが29に対して、そのほかの選手は1ケタ。つまり、彼ら2人がほとんどの得点に絡んでいることがわかる。
日本は、その2人に対して徹底的に厳しいプレッシャーをかけにいき、決して簡単にはボールコントロールもシュートもさせなかった。その結果、第1Qはヴィゴッダを3点、ダガミンを2点に抑えた。
第2Qに入っても、日本の統率のとれたハーフコートディフェンスにお手上げ状態のイスラエルは、序盤に選手を入れ替え、ビッグマン3人の布陣をしいてきた。しかし、日本には相手がこのカードを切った時の戦術が用意されていた。オールコートのプレスディフェンスだ。
京谷HCはすかさず伊藤明伸を投入し、今度は世界トップのスピードとクイックネスで相手を翻弄した。そのため、ビッグマン3人を擁しながらも、イスラエルはペイントエリア内からの得点はわずか2にとどまった。それもドライブからのレイアップシュートで、高さは全く生かされず、終盤には再びスタートの布陣に戻さざるを得なかった。
前半、ヴィゴッダからの得点は7、ダガミンに関しては2に抑えた日本。「ディフェンスで世界に勝つ」を体現した、この前半のディフェンスが勝敗を決したと言っても過言ではなかった。
一方、イスラエルを19得点に抑えた前半、日本は40得点を挙げた。特筆すべきは、13本を数えたオフェンスリバウンド数だ。高さがない日本が、これだけのオフェンスリバウンド数を誇った背景には、ゴールへの執着心があったに違いない。予選リーグ第4戦のブラジル戦で、京谷HCが指摘していた「シュートに対する消極的なプレー」は、この試合では一切見られることはなかった。
「強い気持ちで打った分、運よくリバウンドのボールが日本の方に返ってきたということはあるかもしれませんが、ただそういうことも、しっかりと打ち切っているからこそ。積極的な姿勢がとても良かったと思います」と京谷HCも選手たちを称えた。
一方、京谷HCの手腕が光ったのが、前半5分間、日本の得点がピタリと止まった第3Qだった。シュートへの積極性が、かえって粗いプレーになっていると感じた指揮官は、タイムアウトを取り、選手たちにこう言った。
「これだけ点差があるのだから、あわててシュートを打つ必要はない。トランジションからは思い切り速い攻めでいくことは変わらないが、ハーフコートになったらしっかりとボールを回して形を作り、丁寧にシュートを打っていこう」
するとタイムアウト明け後、伊藤にフィールドゴールでは今大会初得点が生まれた。それは京谷HCの指示通り、ボールを動かし、相手のディフェンスを崩して生まれた隙をついた最高のシュートシチュエーションによるフリーの状態でのシュートだった。
その後、リズムを取り戻した日本は第4Qは全く危なげなかった。最後はディフェンスリバウンドからの速攻という日本が得意とする形で、髙柗がレイアップシュートを決めて締め、64-43。40分間、攻防にわたって相手を圧倒し続け、準決勝進出を決めた。
4強には、日本のほか、スペイン、トルコ、ドイツが入った。ドイツを除く3チームは、予選でグループAを勝ち上がってきたチーム同士だ。京谷HCが開幕前から“死のグループ”と呼んでいたように、いかに強豪揃いだったかがわかる。その予選リーグで苦戦を強いられながらも、4勝1敗という結果を残した日本は、試合を重ねるたびにしっかりと課題と向き合い、修正を重ねてきた。一段一段階段を上がっていくようにして成長してきたチームは今、最高の状態にある。その日本が準決勝で迎える相手はスペイン。予選リーグで完敗を喫した、今大会最大の難敵だ。
「ここからはメダルラウンド。なんとか目標であるメダルを獲得できたらとは思っていますが、選手たちに常に言っているのは、先を見ることなく目の前の試合に勝ちにいくことに集中すること。その積み重ねがメダルにつながっていくんだと。なので、準決勝もどこが相手でも、自分たちのバスケットをやり続ける。それだけだと思っています」(京谷HC)
日本の車いすバスケットボール界における過去の最高成績は、2005年U23世界選手権、そして昨年の東京2020パラリンピックで男子が獲得した銀メダル。その歴史を塗り替え、史上初の金メダル獲得を目指す若き精鋭たちが、セミファイナルに臨む。
写真・文/斎藤寿子