10月1、2日、元気フィールド仙台 宮城野体育館では「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会 東日本第2次予選会」が開催された。北海道、東北、関東、東京、甲信越の5ブロックごとに行われた第1次予選会を勝ち抜いた12チームが集結。2日目には上位4チームによる激戦が繰り広げられた結果、優勝に輝いたのはNO EXCUSE(ノーエクスキューズ・東京)。準優勝にはパラ神奈川SC(関東)、そして3位決定戦で千葉ホークス(関東)に逆転勝ちした埼玉ライオンズ(関東)が、天皇杯本戦への切符を獲得した。
強豪揃いの関東勢との連戦を制し、東日本の頂点に立ったのがNO EXCUSEだ。チームの戦いぶりについて訊くと、及川晋平ヘッドコーチ(HC)は「天皇杯で優勝するという覚悟が一人ひとりに感じられた」と語った。
埼玉ライオンズとの準決勝では、17-16と競り合いの展開となった1Qから一転、2Qでは34-24と一気に突き放した。相手の攻撃をほぼ完璧に封じ、わずか7失点に抑えたことでオフェンスにもいいリズムが生まれたからだ。
3Qでは55-38とさらに大きくリードを奪ったNO EXCUSE。4Qでは赤石竜我(2.5)に4本の3Pシュートを決められるなどライオンズの猛追にあうも、最後はファウルゲームに望みをつなげた相手に対し、フリースローを確実に入れて逃げ切った。
最後まで一進一退の攻防が続いたパラ神奈川との決勝でも、やはり光っていたのはディフェンスだ。特にインサイドへのアタックをさせなかったことが大きかった。いつもならゴール下のシュートで得点を重ねるパラ神奈川のハイポインター西村元樹(4.0)がわずか4得点だったことからも、いかにディフェンスが効いていたことがわかる。
数種類あるハーフコートディフェンスは、3人のビッグマンのうち、どの2人を起用するかでシステムが変わるとみられ、なかでも特徴的なのがローポインターでありながらハイポインター並みの高さがある佐藤大輔(2.0)が後方のセンターに入る2-3ゾーンだ。中央に陣取る佐藤の存在は、相手にとっては高い壁が立ちはだかっているような圧を感じるのだろう。どの試合でも、相手のハイポインターがなかなかインサイドで勝負することができないシーンが多く見られた。
その背景には、6月にチームに復帰した及川HCの指導のもと、戦略が明確だということが挙げられる。だからこそボールマンに対するジャンプアップ一つとっても、“スレット”と呼ばれる警戒すべき選手の優先順位もしっかりと共有されており、選手に迷いがなかった。
近年、なかなか関東勢に勝てずにいたNO EXCUSEが東日本を制するまでに躍進した背景には、ドイツリーグでプレーしてきた香西宏昭(3.5)の存在は欠かせない。高校卒業後、主にシーズンを海外で過ごしてきた香西だが、昨シーズン限りでドイツリーグのチームを退団し、完全帰国を決意。今シーズンからは国内に拠点を移したことで、NO EXCUSEでの活動もフルに。エースであることはもちろん、キャプテンも務める香西は、まさにチームの大黒柱だ。
及川HCも「香西が戻ってきたことで一人ひとりの役割が明確になり、チームとしてのバスケットができるようになった」と、影響力の大きさを述べている。及川HC、香西と欠けていた2枚のピースがそろったNO EXCUSE。過去4度にわたって逃してきた悲願の日本一達成に向けて、さらに精度を高めてくるに違いない。
パラ神奈川は、決勝でNO EXCUSEに敗れて優勝こそ逃したものの、天皇杯本戦でも優勝候補の一角に入ることは間違いない。
パラ神奈川の強さの一つはスピードで、全国でも随一のチームと言っていいだろう。オールコートでのプレスディフェンスや、ハーフラインからボールマンにプレッシャーをかけるなど、高いラインで相手を追い込み、速い展開のバスケットボールを得意としている。
実際、千葉ホークスとの準決勝では、24-28とリードを奪われた中での3Q、プレスディフェンスで流れをつかむと45-34と一気に突き放した。結局、これが勝負の分かれ目となり、58-40と逆転勝ちをおさめた。NO EXCUSEとの決勝でも引き離されかけたところで効果的にプレスディフェンスをしき、結局は接戦に持ち込んでいる。
一方、攻撃もバラエティに富んでいる。東京2020パラリンピック代表の古澤拓也(3.0)に加えて、現在は日本代表の強化指定選手に選出されている丸山弘毅(2.5)もアウトサイドからのシュート力がある。そして、東京パラリンピックでの銀メダルに続いて、今年9月の男子U23世界選手権ではまさにエースとして日本初の金メダルをもたらした鳥海連志(2.5)は、ゲームメイクをしながら、ここぞという時には自ら得点する力がある。また、ゴール下に強い西村がいることで、攻撃の幅が広いことも強みだ。
しかし、実は今回の第2次予選会、パラ神奈川はフルメンバーではなく、限られた人数での戦いを余儀なくされていた。なかでも抜群のシュート力を持つ園田泰典(3.5)不在の穴は決して小さくはなかっただろう。スピードがある若手のプレーが目立つパラ神奈川だが、安定感のあるベテラン園田の連続得点でチームが勢いづくことは少なくないからだ。
今大会、その穴を埋めたのが土田真由美(4.0)だろう。決勝ではファウルトラブルの古澤や、思うようにインサイドにアタックできずにいた西村に代わって出場した土田が得点力を発揮。これが、NO EXCUSEに最後まで流れを渡さなかった要因の一つとなっていたはずだ。
フルメンバーで臨むだろう天皇杯本戦では、本領を発揮し、必ず優勝争いに絡んでくるだろう。今、最も勢いのあるチームとして注目の存在だ。
中井健豪HCが最後の枠を勝ち取った最大の要因を「我慢強さ」と語った通り、粘り強さが光ったのが、埼玉ライオンズだ。千葉ホークスとの3位決定戦では、1Qは12-21とダブルスコアに近い差をつけられたが、2Qで猛追し、34-35に。後半に入っても一進一退の攻防が続いたなか、4Qの序盤でついに逆転に成功したライオンズが、そのまま逃げきった。
敗れはしたものの、NO EXCUSEとの準決勝でも泥臭く戦う姿があった。特に38-55と大きくビハインドを負った4Q、連続得点で猛追し、17点差を6点差にまで追い上げた粘り強さと最後まで諦めない姿勢は、見ている人たちを魅了したはずだ。
なかでも特筆すべきは、赤石竜我(2.5)だ。最年少で東京2020パラリンピックに出場した赤石が、これまでの守備のエキスパートという存在から一転、今大会ではシューターとしての能力を開花させた。準決勝では4Qの終盤、6分間で3Pシュートを4本立て続けに決め、相手に脅威を抱かせた姿は、これまでにはなかったものだった。
また、選手層が厚く、さまざまなラインナップで戦うことができることも、現在のライオンズの強さだろう。そのなかには、大山伸明(4.5)、北風大雅(4.5)、鳥飼聡司(4.5)、朏秀雄(4.0)のハイポインター4人のうち3人をそろえたラインナップがある。これを可能としているのが、東京2020パラリンピック女子日本代表の財満いずみ(1.0)の存在だ。
男子チームで女子選手がプレーする場合、コート上の5人のクラス(持ち点)の合計から、女子選手1人につき1.5点が減算されるというルールがある。そのため、男子のクラス1点台の選手および財満を起用することで、“ビッグ3”を揃えることができるのだ。
「竜我を休ませることができるようになったことも一つですし、ビッグ3をそろえることで、スピードのある竜我が入って速いバスケットができるラインナップとの違いを生み出せることが大きい」と中井HC。財満自身のプレーについても「読みや反応が素晴らしい選手。男子に対しても次のパスを読んで、早くアクションを起こしてしっかりと止めてくれるので、チームとして大きな戦力になっている」と語る。
ここ数年でこれまでチームをけん引してきた主力選手の退団が相次ぎ、メンバーもスタイルも大きく変わったライオンズには、まだまだ伸びしろがある。来年1月の天皇杯では、さらに成長した姿が見られるはずだ。
さて、これで西日本と東日本の2次予選会を勝ち抜いた各3チームに、前回(2019年)覇者の宮城MAX(東北)をあわせて、7チームの出場が決定した。残る1枚の切符は、12月17、18日に行われる第32回日本選抜車いすバスケットボール選手権大会で争われる。果たしてどのチームが勝ち上がってくるのか注目だ。
写真・文/斎藤寿子