11月19日、20日の2日間、「三井不動産 2022 車いすラグビー SHIBUYA CUP」が国立代々木競技場第二体育館(東京・渋谷区)で開催された。日本車いすラグビー連盟が初主催する新たな国際大会だ。
昨年の東京パラリンピックで車いすラグビーは2大会連続の銅メダルを獲得した。しかし、競技会場となった国立代々木競技場第一体育館に観客の姿はなかった。
車いすラグビーの迫力と興奮を間近で感じてほしい、パラスポーツへの関心をつなぎ応援していこう。今大会は、そんな想いから企画された。次世代を担う育成選手たちの経験と活躍の場としてスタートし、日本とオーストラリアの代表24名が出場し4試合が行われた。
日本は、東京パラリンピックを終えた3週間後には、ケビン・オアー日本代表ヘッドコーチ(HC)指揮のもと育成合宿をスタートさせるなど、若手の育成に力を注いでいる。次世代の日本代表がどんなラグビーを見せるのか、さらには2019年以来、3年ぶりに有観客で開催される車いすラグビーの国際大会とあって大きな関心が寄せられた。
ティップオフ!試合が動き出すと、誰よりも速く、誰よりもアグレッシブなプレーでチームに勢いをもたらしたのは、キャプテンの橋本勝也だ。
「言葉を使って選手をまとめるのが得意ではないので、プレーでチームを引っ張りたい」
橋本は、自身が日本代表として活動した4年間の経験と、現・代表選手だからこそ知るJAPANが目指すラグビーをコートで体現する。コートにボールが入る前から、トライを奪い奪われる瞬間まで、パワー全開で縦横無尽に駆け回る。
その橋本のプレーに呼応し、白川楓也が髪をなびかせながら次々とトライを奪う。ベテラン勢の壁は厚いが、彼らを「追い越してやろう」と奮起し、強みとするパスに加えてランに磨きをかけた。相手を置き去りにする走りを見せ、「(障がいの軽い)ハイポインターとしての役割を意識して走り切れた」と手応えをにじませた。
オーストラリアを引き離していく派手な得点シーンの一方で目を引くのは、日本のディフェンスの強さだ。相手の攻撃が始まるとコートの高い位置からプレッシャーをかけフロントコートにボールを運ばせない。
なかでも、試合の流れとプレーヤーの動きを読み、先回りして相手の攻撃を阻む安藤夏輝の守備が頼もしい。一番障がいの重いclass 0.5で唯一選出された安藤は「チャンスです!」と目を輝かせて今大会に臨み、その意気込み通り、気持ちの入ったプレーで日本のディフェンスを支えた。なぜミスが起きたのか、自分と何が違うのか…、動画で自分の動きとうまい選手の動きを比較しながら改善点を見い出し、パフォーマンスアップに努めた。実戦での安藤の働きに、オアーHCは「チームの決まり事への理解力が上がり満足している」と高く評価した。
「今回の目標はオーストラリアに勝つことではなく、世界ランキング1位にも輝いた日本のシニアチームがやっているラグビーと同じスタイルをこのチームで築くことだ」。オアーHCは育成メンバーで臨んだ今大会の目的をこのように語る。
その意図をしっかりと汲み取り、ヘッドコーチを納得させるプレーを見せたのがclass1.5の日向顕寛だ。受障前にバスケットボールを経験していたため、「パスコースが見えやすい」といい、頸椎損傷により体幹はないが(同クラスの選手と比べると手が使えるので)スピードやパスを強化して違いを見せたいと話す。日本代表として活躍する池崎大輔に誘われ車いすラグビーを始めた日向。その池崎が会場で見守るなか、攻守において存在感をアピールした。
日本は試合を重ねるごとに、チームの連係も雰囲気もよくなっていった。国際大会の出場経験がある先輩選手たちがリーダーシップを発揮し、プレーで見せ、コミュニケーションを積極的にとりながら動きやポジション取りのアドバイスを送っていく。さらに、ムードメーカーの小川仁士が中心となり、コートの外から相手や試合の状況を伝え、競り合う局面では仲間の背中を声で押す“ベンチワーク”も身をもって伝授した。
先輩たちに引っ張られるように、ルーキーたちが躍動する。チーム最年少、高校2年生の青木颯志は、国際試合デビューとは思えない落ち着きぶりで、荒けずりながらも堂々としたプレーを見せた。車いすラグビーに転向してわずか1年、「世界に通用するような、なんでもできるプレーヤーになってパラリンピックに出る」という高い目標を掲げ、日々の練習に励んでいる。
また、スピードが持ち味の草場龍治は、自らがお手本とする日本代表の乗松聖矢を彷彿とさせるようなハードワークとスペースを読むプレーで観客の視線を奪った。車いすラグビーを始めてまだ2年、1年前までしても「育成合宿に呼ばれて、自分も上の場所を目指したい」と語っていた草場。今年の夏から育成合宿に参加するようになり、「自分を信じて、自分らしいプレーがしたい、と思うようになった」と語る。「一番の大きな目標は6年後のパラリンピックに出場すること。そこで(乗松)聖矢さんと一緒に戦いたい」と目を輝かせた。
今大会での彼らの活躍は、日本代表内でのポジション争いがますます激しくなることを予感させた。「パリパラリンピックに向けた選考はすでに始まっている」と、オアーHC。青木の3.0、草場の1.0というクラスは、日本が強みとする特に層が厚いクラスで、今回のパフォーマンスを見たベテラン勢のやる気にきっと火をつけたことだろう。競争力が原動力となり、日本全体のレベルを押し上げることが大いに期待される。
そして、そんな期待に拍車をかけるのが、若手選手数の増加だ。ここ2年間を見渡すと、昨年度の日本選手権・予選には4名、今年度の予選には11名(新チームの選手6名を含む)の新人が登録し出場しており、この数は実に全体の18%に及ぶ。うれしいことに、その大半が10代、20代の若い選手だ。
東京パラリンピックでの日本代表の活躍をテレビで観て心を動かされ、「自分も日本代表になりたい!」、「パラリンピックに出場したい!」と、夢と希望に胸膨らませ競技を始めた。その思いに応えようと、今、ベテラン選手たちはクラブチームの枠を超えて目をかけ指導に励んでいる。競技の発展と強化に向け、“オールジャパン”で取り組んでいく構えだ。
大会は、日本の4戦全勝で幕を下ろした。戦いを終え、若き日本代表は「勝ち」よりも大きな「経験」を手にして、今後の成長を誓った。
文・写真/張 理恵